第24話 気になる思考と先輩の素性《1》
今日は部活が休みということもあり、放課後がフリーだ。
まぁ特にやりたいことはないが、何もしないのはそれはそれで時間を無駄にした気がして個人的には嫌なのだ。
要するに、何もない日こそ何かしたくてたまらない時がある。
(海先輩のところでもう少し自分の特殊体質について教えてもらえないかな…)
昨日、海先輩からたくさんのことを教えてもらい、俺の中でもたくさんの課題が出てきた。
(俺は海先輩に言われるまで特殊体質だっていうのを気づかなかったから、いざ能力が発動した時を自覚しろって言われても難しいんだよな…)
今すぐ自分の能力について把握しろと言われても正直なところ難しいのが現状だ。
もう少しパターンとかがわかればいいんだけど…
(何回も頼むのはあまり良くない気もするけど、できるなら海先輩にもう一度相談しに行きたいなぁ。)
あれから俺は何かあった時用に海先輩のLINEをもらったため連絡手段は確保できている。
スマホを起動させ、立ち上がる時間をボーッと待っていると後ろからいつものように竜が伸びてきた。
「そーたー。眠いよぉ〜助けてくれよぉ〜」
いつもの元気な気迫はなく、軟体動物みたいにクネクネしている。
あの元気だった竜がどうしたっていうんだ。
「寝不足…?『サバイブ・ハント』をやりすぎて死にそうになってるとか?」
「あれ罪だって〜絶対夜更かしさせるために作られてるとしか思えないよ。」
そんなことを言いながら大きくあくびをする。
昨日の反省を生かして俺は夜更かしをすることなく早く寝たのだが、今度は竜が寝不足の被害者となっていた。
「んで、お前は昨日どうしたんだ?あれから結局部活行ったのか?」
寝不足ゾンビになった竜を心配しながら、
「実はあれから教室で寝落ちしちゃってさ。気づいたら五時だったんだけど海先輩がまだ部室にいて、海先輩の話も聞けたよ。」
流石に特殊体質の内容は話しても面倒なことになりそうだったのであえてそのことは伏せておいた。
「海先輩の話を聞いたのか!?どんなやつだよ!教えろよ〜」
竜のノリはいつも通りだが、絡み方がいつも以上にフニャフニャになっていて、しつこく俺にまとわりついてくる
「うわぁ!気持ち悪るいなぁ、いったい何時に寝たんだよ…」
「…3時過ぎ」
その恐ろしい時間帯に思わず「うわぁ」と声を漏らす。
昨日自分が体験した寝不足地獄を思い出してしまった。
「俺も海先輩の話聞きたかったなぁ…」
竜も海先輩の読心力には興味があるらしい。
というよりも竜に関しては海先輩の読心能力に惹かれて部活に入ったんだ、話が聞きたくなるのも無理はない。
「今日はすぐ帰って休みなよ。そんなゾンビみたいなこといつまでもしてるわけにもいかないでしょ?」
ゾンビとなった竜は俺の方を向いて「なんかそれ俺が昨日言った言葉に似てるな…」と、今ある状況が昨日と真反対な事に気づきながらぼやく。
(今日は竜がダウンしてるから一緒に海先輩のところに連れて行くのもよくないだろうし、今日なら海先輩とたくさん話せそう。)
チラッと竜の方を見るが、すでに机に伏せて爆睡をかましており、一緒に行くなどは夢物語だ。
(仕方ないよな。でも、特殊体質の話は竜にしてないし、ありがたいと言えばありがたいかもね)
今日は海先輩に頼んでどこかで話すことにしようかなと考えてる矢先、もう一人、クラスで存在感のある美少女が俺の方にやってきた。
石原黄泉菜だ。
「壮太くん。今日の帰りなんだけど…何か用ある?」
海先輩のLINEに「今日もし空いているなら放課後屋上で特殊体質についてもう少し詳しく聞いてもいいですか?」と送信し終わったあとにその誘惑がやってきた。
「あぁー、、、今日は用事ができちゃって……」
なるべく柔らかい表現を探したのだが、あいにくそんなコミュニケーション力はお持ちでない。
「…そうよね。いきなりだったからそこまで気にしないで。」
そう言ってすぐ去ってしまいそうな黄泉菜をすぐさま俺は引き止める
「あの!今日は何か僕に用事でも…ありましたか?」
「大丈夫よ。そこまで大した用事でもないし、別の日でもいいわ。」
そうは言われても好きな人からせっかく誘ってくれたチャンスを潰してしまうのも気が乗らない。
そう考えていると一つ、ちょうどいい案を思いついた。
「黄泉菜さんは今日の放課後特に予定ありませんか?よければこれから海先輩と読心能力について話し合うんですけど、どうですか?」
「壮太くんの用事って海先輩と読心能力の話をする事だったの?もしご一緒してもよろしいならお言葉に甘えてもいいかしら」
その言葉を聞いて心の中でガッツポーズをする。
これは好都合だ。
海先輩は黄泉菜の読心事情を知っていたし、なんなら読心能力について研究をしていた。それなら読心能力をもつ黄泉菜本人が海先輩からの話を聞いた方が能力についてもっと詳しく知ることができるかもしれない。
LINEを見てみると海先輩から「わかった。少し時間がかかるかもしれないから屋上で待っていてくれ。」という返信が届いていた。
「海先輩から屋上で待ち合わせをしているので今から行きますか。」
「わかった。行けるように準備してくるね。」
そう言って黄泉菜は小さく手を振って自分の席の方へと帰っていく。
相変わらず天使だ…これだけ可愛くて色んな人との交流も欠かさないとなると他の人からも好かれるのも当然だ。
可愛らしい仕草に心打たれてニコニコしてる俺に竜がいつの間にか起きてニヤニヤしている
「……なんだよ。」
「お前最近黄泉菜と仲良いじゃん。もしかして上手くいった?」
「……少しは話せるようになったかも。」
「へっ、羨ましいぜ。でも俺は
山本小葉
このクラスで男子人気の高い子だ。
ちょっとした癖っ毛のショートヘアで笑った時のえくぼがチャーミング、男子とよく喋っているイメージはないが、趣味が合うと誰とでも話している印象の子だ。
恋愛系の話は竜と初めて出会って話し合った時以来だったのであまり竜が気になっている人を聞いたことがなかったが、まさか竜が小葉を狙っているなんて…
俺は「とりあえず喋ってみるところから頑張ってみたら?」とだけ伝えて海先輩のLINEを開く
「黄泉菜も連れて行っていいですか?」
いきなり二人だけの約束のはずなのに黄泉菜が出てきて話がややこしくなるのも嫌だったので一応聞いてみることにした。
「…あいつ、何考えてんだ?」
係の仕事を終えた俺、霧原海は後輩からのLINEに疑問を覚えていた。
LINEの相手は心理部後輩の壮太からであり、特殊体質のことで屋上で話し合う提案から黄泉菜を連れてきていいかという質問が送られてきている。
(きっと特殊体質である黄泉菜を連れてきて改善策を聞くつもりだな。まぁいずれは彼女にも読心能力のことは話さなければいけなかったし、問題はないか。)
黄泉菜という心が読める子がどれくらいの読心能力があるのか調べたい。
前回の研究でも解決策が見つからなかった分、まさかこんなに早く再研究のチャンスが来るとは思わなかった。
(あとはどれくらい能力によって体を潰しているか…だな。前回のようには絶対にさせたくないから………)
そんなことを硬直しながら考えていると、後ろから何か人の気配を感じた。
「へー…海くんがLINEねぇ…」
亜矢乃 智恵だ。
同じ心理部のメンバーであり、一応部長である。中学校からの仲でやたらと俺に構ってくる。
横からトーク内容を覗いてくる知恵にスマホの面を見せないようにしながら、
「なんだよ。俺がLINEやってたら悪いのかよ。」
「別に?そんなこと思ってないけど海くんにもLINEするお友達がいるんだなーって思っちゃっただけー。」
相変わらず智恵は俺をおちょくるようなことを言ってくる。
「心理部の壮太だ。なんか今日話がしたいっていわれたんだ。」
それを言うなり智恵はギョッとした顔で俺を迫ってくる。
「何?部長の私がいない間に海くんと壮太くんの間に何があったの!?もうLINE交換して楽しくおしゃべりするほどの仲になっちゃったの!?」
「誰もそんな仲になったなんて言ってねぇし勝手にトーク画面見るな。」
こいつに構ってると俺まで変人になってしまうから早めに智恵にはどっか行ってもらいたい。
だが、いつも通り俺にまとわりついた知恵はなかなか離れてくれない。
(…なんなんだこのひっつき虫は。この状態じゃ特殊体質の話もろくにできねぇじゃねぇか。)
もちろんのことだが知恵には特殊体質のことなど一切話したことはなく、話す予定もない。
どうせ話したら面倒臭くなるのがオチだ。
そんなことを考えている俺とは反対に知恵はどんどん話を広げていく。
「海くんは今日部活ないけどどうするの?放課後、私をおいて後輩の方に行くの?それともいつもみたいに私と一緒に帰って楽しいことしちゃう……?」
「残念だが後輩の方が優先だ。あと、お前と一緒に帰ったことは数えるほどしかないし、なんで俺がお前ん家に直行する前提なんだよ。」
ファンタジー気分で話を進める知恵は確かに話してて面白い思う人もいるそうだが、どうも俺には合わない。
「今日は俺もフリーだし、特別にあいつらの面倒を見てもいいかな。」
知恵を無視して壮太のLINEに
「わかった。黄泉菜も来るなら話は長くなるかもしれないが、納得するまで話し合おう。」
とだけ返信した。
「海くん無視しないでよ〜」
中学生でも見苦しいような駄々をこねる知恵に、
「今日は我慢しろ。機嫌が良ければまたいつか一緒に帰ってやるから」
と言って肩をポンと叩いて屋上へと足を運んだ。
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