第23話 複雑思考と、とある真実《3》

「先輩は、人の心が読めるんですか?」



「壮太や優真みたいな特殊体質で読めるってわけだは無いが、予測するという点では人の心を読むことができる。」


海先輩は表情ひとつ変えずにそう答えた。



「HSPだったり、エンパスだったり、人一倍他人のことに敏感で人の心が読めるという人も多いだろう。その部類に入れれなくもないが、俺の場合はもう少し違うものだ。」


「エンパス?」


優真が全く知らなそうに棒読みで喋るが「気になったら調べてみてくれ」と軽く流してそのまま話を続ける


「俺のは努力でつけた力なんだが、それこそ昔は特殊体質で心を読む人にも出会ったことがある。俺はそれを『読心能力』と名付けて研究したんだ。」



どうやら海先輩の研究はここから始まったようだ。

これを聞くと相当専門的な事をしていることがよくわかる。



「特殊体質は一種の病気みたいなもので治そうとしても治らないもんだ。制御だってなかなかできない人もいるだろうし、慣れてきたとしてもちょっとしたことで能力のリミッターが外れてしまうことだってある。」


「結構大変なんですね。」



海先輩の苦労に同情をするが、海先輩は呆れた表情で俺に、

「お前も一応特殊体質の部類に入ってるからな。他人事のように言ってるが、自分の思考を制御できない特殊体質は初めてなんだからもっと危機感を持て。」


「そうですよね…すみません。」


俺はこの際謝ることしかできなかった。

確かに今の状態なら何も問題はないのだが、これ以上悪化した時に解決策がなくては困ってしまう。


「まぁお前が謝っても意味ねぇよ。問題は壮太の思考に原因があるわけであって、まだ制御出来てないんだろ?」


海先輩は新しいフォルダに俺の特殊体質についての詳細をどんどん入力していく。


「そうですね。もう少し制御の仕方がわかればいいんですけど…」


実際俺が制御しようとしたって発動しているのが無自覚なため制御のしようがない。



「とりあえず特殊体質についてもう少し話でもしておくか。俺にとってはあまり掘り返したくない資料だが……」


そう言って海先輩は初めて研究をするきっかけとなった『読心能力』について調べた資料を見せる


「読心能力について話そう。心が読める能力は相手の心情から思考を読み取っているものらしい。イメージとしては相手の声が頭の中で喋っているように聴こてるそうだ。」


丁寧に図もつけて解説してくれる


「俺の擬似的読心能力とで比較してみようか。まず俺の場合だが、相手がソワソワとした行動を起こしているのを目で見て考えで『あいつは何かしたいんだな』と予測している。それに対して読心能力は相手が何かしようと考えている間にそのことが読めてしまうらしいんだ。」


「じゃあさっき海先輩の言ってたようなHSPだったりエンパスの人はどうやって相手の心が読めているんですか?」


黄泉菜の読心能力は海先輩の言った通りの特殊体質の読心能力に似ていたが、もしかしたらHSPやエンパスなのかもしれないと薄々考えていた。


「HSPやエンパスは感覚が繊細であるゆえに相手の行動がわかるそうだ。そう考えれば俺もその部類に入るだろうが、HSPやエンパスは気質、いわゆる性格みたいなもので生まれ持った個性なんだ。」


「それなら海先輩は特殊体質の読心能力でもなく、HSPやエンパスともちょっと違った力を持ってるってことですか?」


「まぁそうなるな。」



これは驚いた。

まさか海先輩がここまでの力を持っているとは思っていなかった。

自分で読心能力を身につけるって何!?才能の塊すぎるだろ…


「まぁこんな感じだ。ついでに特殊体質についても話したが…わかったか?」


「よく分かりました。僕も他人事ではないみたいですね…」


「そうだ。それこそ言葉が勝手に出てしまう病気などもあるみたいだが、どうも壮太の場合はそのような病気の症状とは違うからな。おそらく特殊体質の影響なんだろう。」


そこまで考えてもらって充分満足なんだが、まだ海先輩はもの足りない顔で俺の様子をずっと伺っている。


「まだなんか言いたそうな感じだな。なんだ?気になったことでもあるか?」


「なんでもバレるんですね…」


自分のことは充分満足したのだが、読心能力の話で黄泉菜のことが心配でたまらなかった。

それこそ秘密にしておく約束だからこれを海先輩に言ってもいいのかどうなのか……そこで迷っているのをあっさり見抜かれてしまった。



「結構バレてるぞ?俺が黄泉菜と壮太を部室の棚買いに行かせた時だって俺の仕込みだからな。」


海先輩はそれを言った後にニッコリと悪い笑みを浮かべて俺を指差して言う




「お前、黄泉菜のこと好きだろ。」 



その言葉を聞いた途端、俺の全身に得体の知れない汗がどっと吹きあふれた。

急に顔が熱くなり、どんどん赤くなる。


「な、な、何言ってんすか海先輩!!?」


「ハハハッ。普段の仕草でもだいぶわかるぞ?隠してるつもりでも、俺の洞察力からは逃げられんからな。」



…もう海先輩嫌い。



「まだ俺は…そんなんじゃ…」


顔を赤らめて小さくボソボソとつぶやく俺に海先輩と優真がニヤニヤしながら見てくる


たしかに黄泉菜は可愛いし、俺だけ心が読めないのは話すきっかけになって嬉しかったし、今なんて通話してゲームするくらいの仲になったし…


(好き…なんだけど、誰かに言われて認めるのは…恥ずかしいな…)


そんな感じでモジモジしてる俺を見て海先輩はなんとなく察したようで、再び話を特殊体質の方へと戻す。


「壮太の特殊体質はまだ制御の仕方が確立してなかったんだよな。そうやって自分の意思を確立して持つことも大切だから、ちゃんとその気持ちは忘れるなよ。」



海先輩が悪い笑顔のまま何か言ってる。

なんだこの人、だいぶサイコパスだぞ。



「からかうのはここら辺にしておいて…もう少し聞きたいことがあるんだって?」


長い間ニヤニヤしてた海先輩の顔もスンと大人しくなる。


「そうなんですけど…黄泉菜のことで…」


「何か気になることでも?」


黄泉菜にも読心能力があることを知っているのかを聞こうとするのだが、やっぱり黄泉菜に相談せずに他の人に話すのはいいものなのか…いや、悪いよな……

でも、今ここで話しておいた方が能力制御の対策を早めに打てるだろうし…どうしようか。


悩んだ末、少し遠回り気味に俺は海先輩に話す


「黄泉菜の…ある能力というか…」


「やっぱりそうなのか…なんか怪しいと思ってたんだが、彼女も読心能力持ちか…」


「え!?知ってるんですか?」


どうやらなんとなく予想がついていたらしい。


「それこそ彼女の疑いはほぼ確定みたいなものだったからな。壮太も俺にバラしたことでそう落ち込まなくてもいいぞ。」


「あ…ありがとうございます。」


黄泉菜の特殊体質を見極めた上で俺が抱え持ってた不安も対処してくれる

海先輩には本当に心を読まれているみたいだ。


「何となく証拠が掴めたのは部活見学の時だな。知恵から黄泉菜の話を聞いて言葉の言い方が妙に気になってな。」


そう言って海先輩頭を捻りながら、

「『人の心を読む事がこんなに苦労するものだとは思ってなかった』ってところだったかな」


確かにその言葉は知恵先輩の伝言として聞いた覚えがあるのだが…これだけの会話の中で特定できる海先輩にも驚きだ。



「読心能力の研究をしていたんですよね。もしかしたら黄泉菜の能力は治せたりできるんですか?」


「それが出来てたら医者も困らないだろうな」


ため息混じりに海先輩がつぶやく。

足を組みながら近くにあったボールペンを手に取って回す。


「黄泉菜には残念だが、今の俺の研究結果から言わせてもらうと読心能力は治せない。まだ研究段階だから治せるのかもしれないが、治すためには少しばかり協力してもらわないといけなくなるな。今できる最低限の措置はとにかく制御できるようにして極力能力を使わなくすることだけだ。」


くるくると手の上で回っていたシャーペンはピタッと動きを止めて俺の方に向く。


「どうだ?少しばかり協力してもらえないだろうか?」


海先輩は俺らのことをしっかり観察し、研究して特殊体質を治そうと努力している。

これに協力しないわけないだろう。



「この件に関しては優真、お前もそうだぞ。」


いつの間にかうたた寝している優真は海先輩に呼ばれてビクッとして起きたのちに「そうだね。」と眠たそうな声で呟いた


気づけば時刻は6時をまわり、外もだいぶ暗くなっている。

運動部の人たちも部活終了の時間となり、そろそろ学校が閉まる時間にまで迫っていた。


「もう時間か。一応ここも部室だから鍵閉めて職員室に返さないといけないから、急いで帰るぞ。」


そう言って海先輩はパソコンの電源を切ってそそくさと部室を出る準備をする。


俺も優真も急いで帰る準備をしている中、海先輩が手を止めずに話す


「とにかくだ。時間も時間だから今日はお前ら二人に課題を出しておこう。特殊体質は今の時点で治すことができないが、能力を抑えつけることで応急処置はできる。」


片付け終わった海先輩は自分のカバンを持って立ち上がる。

俺と優真もそれぞれのカバンを持って帰れる準備を整える


「次俺にこうやって話し合うまでに自分の本心に気づき、いつどのタイミングで能力が出ているのかを気づけるようにするんだな。優真はだいぶ制御できるようになってきたが、問題は壮太の方だ。能力が出ているのを自覚しないと制御の仕様がない。頑張って自分と向き合えよ。」


そう言って海先輩は部室の外へ出て行く。

俺らもその後を追って部室の電気を消して部屋から出る。



「俺は部室の鍵を職員室にまで持っていかないといけないから先に帰っていいぞ。今日から頑張ってみてくれ。」



「ありがとうございました。」


俺と優真は部室の鍵を閉める海先輩に深く礼をして帰っていった。










「『自分の本心に気づけ』かぁ…」


家に帰った後も海先輩の言葉が頭の中でグルグルと復唱される


(特殊体質を制御するために自分と向き合う…)




今まで考えたことのない課題に、俺は苦労しながらも自分の特殊体質と向き合うことにした。

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