第21話 複雑思考と、とある真実《1》

(やべぇー、眠いわぁ…)


昨日、黄泉菜にサバイブ・ハントで圧倒的な差を見せつけられた俺は黄泉菜と通話が終わった後でも一人で永遠にサバイブ・ハントで腕を磨いていた。


そのため…



(やべっ、ラストの授業でも寝ちゃったなぁ…これで寝た授業二時間目だわ…)


完全寝不足になっていた。

普段は授業なんて寝たはずなかったのに…



早く寝る習慣を潰してゲームをしてしまったので体が思った以上に疲れている。


(やっと全部の授業終わったかぁ…)


たかが一日の授業なのに三日分の疲れがどっと来たかのような感覚だった。


(今度から絶対夜更かしするのやめよう。)


そう確信できた。


ホームルームが終わり、自由になったところでスマホの電源を立ち上げる

だが、その起動時間までもがいつになく長く感じられ、俺は待つことができずにそのまま机に伏せた。



「お?なんだ壮太、大丈夫か?朝から元気ないし今日めちゃくちゃ授業寝てたな。」


俺が朝から元気ないのを竜はなんとなく感じ取れたらしい


「寝不足。」


俺は喋る気力を失ってその言葉だけを机に伏せながらぼそっと呟いた


「お前が寝不足とか結構珍しいな。伸也とかは動画編集で寝不足になってる日とかよく見るけど…」


伸也のなんか面白そうな話題が聞こえた気がするが、今の俺にはそれを問う気力も残っていなかった



(部活どうするんだ、これ。)


部活の心配をしていると立ち上がったスマホからLINEの通知音が鳴った。


俺は手だけを頼りにして机に置いてあるスマホを掴んだのち、顔を上げてスマホの画面を見る


眠たい目をパチパチさせながらLINEを開く。


「…部活休み?」


まず目に入ってきたのはそれだった。


「あぁ、そういう連絡が入ってたな。『今日は智恵先輩も花音先輩も用事があるし、昨日から寧々ちゃんと奈々ちゃんが用事で来れないこと知ってたから人数の関係で自由参加にします。』だってよ。」


大まかな内容を竜が読んでくれたので俺が読む手間が省けた。



(智恵先輩と花音先輩が休みかぁ。)


ここまで考えたのちに伏せていた自分は勢いよく起き上がる



「…海先輩はいるんだよな?」



勢いよく起き上がる俺を見て竜がビックリする


「おう…一応休みとは書いてないから部室にいるんじゃねぇのかな。それがどうかしたか?」


なかなか海先輩と一対一で話せなかったが今日は話せそうだ。


「…これは好都合だ。行かなきゃ損だな。」


独り言のようにボソボソ呟きながら疲弊して重たい体をゆっくり持ち上げて立ち上がる


「うおっ!気持ち悪ぃな。お前ゾンビみてぇな動きしてるぞ!?」


「眠たいんだよ…でも、今日の部活は覗くだけでもやっておきたい。」


伏せている時と立っている時では全く疲れが違う。

立つと全身のだるさが体全体に一気に駆け巡る


(夜更かしした次の日ってこんなにしんどいんだ…)


流石に俺の力の入っていない歩き方を見て竜が心配する。


「…お前、そのゾンビみたいな動きしながら部活行くんじゃねぇよな?」


「大正解。部活行ってくる。」


そう言ってグッドサインを竜に送り、荷物をまとめて部活に行こうとするが、それを全力で竜が止める



「やめとけ!今お前がいっても寝不足でぶっ倒れて終わりだ!」


必死に抵抗するが、寝不足の俺には十分な力が残ってなかった。

あっけなく抑えられてしまった。


「ダメだぁ…」


「ダメだから止めてるんだろうが…」


竜に抑えられ、正気に戻ったところで自分が部活に行けるような状態じゃないことに気づく。



結局、今日は竜に従って大人しく帰ることにした。

…のはずだったが、やっぱり海先輩と話せるのがそう多くもないと思うので帰る前に少しだけ部室に顔を出してから帰ることにした。


「竜は部活どうする?」


帰る準備をしながら竜に問う。

竜が部活に行くかどうかの話だ。


「俺か?俺はパス。サバイブ・ハントのレベル上げしたいからな!」


おぉ…『サバイブ・ハント』

俺の睡眠を全て邪魔した悪の元凶だ。

…実際俺が睡眠時間を削って寝なかったのが悪いのだが、そこには何も触れないでくれ。


とりあえずこれで海先輩と一対一になれる可能性は増えた。


「夜中まで頑張りすぎて僕みたいに寝不足にならないようにね。」


竜みたいな元気の塊だと寝不足くらい大丈夫だと思うが、竜は一度熱中すると終われないタイプだから一応忠告だけはしておく。


「おう!今週末めちゃくちゃ強くなってるから期待しとけよ!」


そう言ってさっきまで俺を止めてた竜はすぐに自分が帰る支度をしてそのまま教室を勢いよく出ていった。


(やっぱりあいつおかしいな…)


もちろん褒め言葉だ。

おかしいほどに元気すぎる


元気を分け与えてくれる装置があればいいのにとつくづく思うばかりだ。



竜がさっさと帰ってしまった以上、心理部の今日の部活に行くかどうかが分からない人はあと一人…


(あと部活に行くかわからないのは…黄泉菜だけだな。黄泉菜が部活に行っても行かなくても俺は行くんだけど、一応聞いておくか。)



黄泉菜に聞こうと思い、黄泉菜の方を向くが、そこには高嶺の花と化している黄泉菜が他の友達と話しているのが見えた。



(黄泉菜はいつ見ても綺麗………じゃなくて、めちゃくちゃ女子に絡まれてる。)


残念ながら俺はどんな人にでも話しかけれる竜みたいな人じゃない。

どちらかと言えば初対面の相手は苦手な方だ。


そんな中で女子達がいる空間に突っ込んで黄泉菜に話しかける勇気は全くない。



(とりあえず黄泉菜の周りがいなくなるまでしばらく待とう…)


俺は再び机に伏せて黄泉菜達の方から聞こえる声がなくなるまで待ってい………











「………たくん?…そう……くん!」


「壮太くん!」



「うわぁ!」


誰かが俺を呼ぶ声で目が覚める


「壮太くん…いつまで寝てるの?教室はもう壮太くんだけだよ?」


声の主は…

目を腕で圧迫しながら寝ていたため顔がぼやける


「黄泉菜さん?」


かろうじて見えたのは黄泉菜だった。


「随分と深い眠りね。大丈夫?」


どうやら黄泉菜を待っている間に眠っていたらしい。

心配してくれている黄泉菜にあまり迷惑もかけれないのでとりあえず笑って誤魔化す。


「あ、あぁ、まぁ大丈夫。」


俺はまだボーッとする頭を抱えながらゆっくりと立ち上がるが、急に我に返って時計を見る


「あれ!?今何時!?」


アナログ式の時計はまもなく五時になるところを指していた。


(やっちゃった…もうとっくに部活始まってるよ。)


ただ待っていたはずが眠ってしまうなんて…

やらかした。


「あの、黄泉菜さんは…」


「本当は壮太くんが私に何か話しかけようとしているのに気が付いたんだけど、なかなかみんなとの話が終わらなくて、終わった頃には壮太くんが寝ちゃってたから起こしてたの。」


「ご…ごめんなさい…」


恥ずかし過ぎる

好きな人に寝不足で爆睡してるのを起こされるなんて…



「壮太くんは謝らないで!壮太くんが何か話したそうにしてるのはわかっていたし、本当は私が話を上手に切り上げて聞きにくればよかったものだから…」


…お互い気まずい空気になる


「そ、そういえば私に要件ってなんだったの?」


少し外の暗くなった静かな学校の教室で二人きり…

側から見ればとんでもなくロマンチックなムードだが、頭の回っていない俺はそんな考えにまで至らなかった。



「あぁ…部活のことだったんですけど、もう終わっちゃいますよね。」


「そうね…このまま行っても特にやることないと思いますし、もともと休みの連絡だったので私は行かなかったです。」


「そうです…よね。わかりました。」


俺は黄泉菜が部活行かないこと聞いて満足し、わざわざ俺が起きるまで待っていてくれた黄泉菜にせめてもの感謝として見送りする


「わざわざ待ってくれてありがとう。」


「こちらこそ、私がもっと早く切り上げていればよかったのにごめんね。」


黄泉菜が帰るのを見送り、教室で最後の一人になった。





(だいぶ遅くなっちゃったなぁ…)


今になって教室で寝てたのを後悔する。

だが、教室で寝ていたおかげで体のだるさはある程度取れた。


春の五時頃、少し薄暗くなった廊下はどこか涼しさを感じる。


(とりあえず、部室に寄るだけ寄るか)


教室で少し寝たおかげでさっきよりか遥かに体が軽い。

それでも体が疲弊してることには変わりないから出来るだけ早く、そして近い道を通って早足で部室へと向かった。


(今日は先輩方二人が休みだから海先輩が部室の鍵を持ってるよな…だから部室が空いてたら海先輩がいる…)



部室までの廊下に出たが、そこには微かに部室から電気の光が漏れていた。



(よかった!まだ残ってるんだ!)


見慣れた教室のような部室に心理部を誇張するプレート、間違いなくここだ。


部室に入ろうとしたところで俺は止まった。

(あれ、誰かの話し声が聞こえる?)


部室から話し声が聞こえる……


(海先輩の独り言?いや、そんなはずないよな…なら部員?いや、みんな来ないって言ってたもんな…)


聞こえてくる声は心理部のメンバーの人の声ではない、聞いたことのない声だった。


(海先輩の友達かな…)


部室扉少しだけ空いていて、そこから中が見える

俺はそこに吸い付くように顔を寄せて中を見た。



(おいおい…嘘だろ?)




そこには、目を疑うものがあった。

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