第20話 考え込む思考とゲーム脳

(黄泉菜を…誘っちゃった!?)


ついさっき、思い切りで黄泉菜と帰った俺はゲームを教えるついでに今夜ゲームを一緒にやる約束をしてきた。

調子が良ければ誘おうと思っていたが、まさか本当に誘えるなんて思っていなかった。



(なんか、「一緒にやりたいな」って言われたような気もするけど……流石に思い込みだよな!!)


言われた気もするが、これはあらかじめ否定しておく。

そうもしておかないといざ違ったときの絶望感がすごくなってしまうからな。



(だけど本当に誘えるとは思えなかったなぁ。)


あの時確かに会話は弾んでいたはずだが、俺自身今回は誘わなくても十分満足していたはずなのにいつの間にか誘っていた



(勝手に言葉が出てるんだよね…これが自分の思考で動いていない感覚、かぁ…)



海先輩の言った通り、最近自分の意思が思うように制御が効かなくなっている気がする

だが、今回ばかりはこの『偽物の自分』が役に立ったと思う。


感謝はしないがとりあえず今は喜んでおこう。



『偽物の自分』のおかげで黄泉菜を誘えたのかもしれない。

ただこのまま心の中で野放しにするのも良くないだろう。


「海先輩にもう少し話を聞いてもらわないとなぁ…」



もう少し『偽物の自分』を制御して扱うことができればいいものだが、そう簡単にできるものじゃない

むしろできないから困ってるんだ


(決していいことばかりじゃないからなぁ…)






約束していた八時まではまだ三十分もある。


「海先輩は俺の思考が複雑なものって言ってたけど、黄泉菜はどうなのかな。」


海先輩も心を読む力を持っている。本当に能力者といえる存在だ。

ただ黄泉菜の読心能力とはおそらく何か違うんだろう。



そう考えると黄泉菜の読心能力は少し特別なんだろう。

詳しいことは俺にもわからないが、そこも調べてみたい。



「思考が複雑ってなんなんだ…」


改めて海先輩の言葉を思い出すが、考えれば考えるほど謎だ。



「心の中ではまだ僕の知らない何かが眠ってる…そんな中でこれから黄泉菜と一緒にいていいものなのか…」


黄泉菜とはこれからもっと出会う機会も増えて、絡む機会も増えてくるだろう。


そんな中で俺の思考がいつ何をするかなんて予想ができない

そうなった場合、俺はどうすればいいのか…

今考えてもこの答えは出てこない。


「今度海先輩と話してもう少し自分が抱えてるものの正体を解き明かさないと…」


原因がわからない以上、こればかりは海先輩に手伝ってもらうしかなさそうだ。




自分の部屋のベッドの上で何も考えずに仰向けになる


電気はついているが外は真っ暗

ベランダには自分の部屋の光が漏れていた。





思考が邪魔をする…

言われてもピンとこないが、これも何か特殊な能力とでも言うのだろうか。


俺には考えてもわからないことだらけだ。


自分の身体なのに

自分の思考なのに


わからない自分がいる



「咄嗟に出る言葉は自分援護のためのものじゃないのかな。」


これ以上考えているとおかしくなりそうなのでとりあえずスマホを手に取って気を逸らす



(あ、黄泉菜からLINE来てる。)


なかなか通知音がならないスマホに少し違和感を感じていたが自分で通知音を切っていたことに今頃気づいた


通知音をオンにして、黄泉菜からきたLINEを開いて読む


「ダウンロードは終わった?私はチュートリアルまで終わらせたからいつでもできるよ!」


三分前に送られてきたらしい。


急いで返信する


「ダウンロードはしたけどまだチュートリアルが終わってなくて…よかったら今からでも通話できますか?」


送信したらすぐに既読がついた。

おそらく黄泉菜もスマホを構っているんだろう


「いいですよ!いつでも通話できます!」


そう返信が返ってきた。



(今はまだ、深く考えなくてもいいかな。)


俺は黄泉菜に「かけます」とだけ伝えて電話をした。




「もしもし壮太です。」


電話越しにゴソゴソとした音が鳴り、その後声が聞こえる


「こんばんは〜、石原黄泉菜です。」


普段から話しているはずなのに、電話で話し合うと新鮮でなんだか恥ずかしい。



(そういえばこれって…普通に二人だけじゃん!)


今まで俺が経験したことあるのは竜のイツメンで行ったグループ通話だけ、今回のような二人の電話は初めてだった。




「えっと、どこまで進みましたか?」


この空気の中、黄泉菜が話題を振ってきてくれる


「あ、まだチュートリアルだけど、始まりのロードって所です。ここだとあとどれくらいでチュートリアル終わりそうですか?」


「結構進んでるね!あとはまっすぐ進んだ先にボスがいるからそれを倒したらチュートリアル終わりだよ!」


黄泉菜は優しく俺に教えてくれる


あれ…?

誘ったのは俺なのに俺の方が教えられる立場になってる…



「あ、そういえばそこの始まりのロードってところだけど、進んでいくと小さな池が右の方にない?」


「あ、そこはもう通り過ぎましたよ。」


「ダメダメ!すぐ戻って!そこの池を渡って少し歩くと宝箱があるわ!」


なんか知らない間に黄泉菜の方が詳しくなっている

黄泉菜に言われた通りに来た道を戻って小さな池を抜けると宝箱があった


「あ、これですか?」


開いてみると『彗星の剣』というものを含めた装備一式がもらえた


「それです!それもらうとチュートリアルのボスが楽々倒せますよ!」


黄泉菜に言われた通りボスまで走っていき戦闘を始めるが、武器が強すぎで呆気なく終わってしまった。


「あ、チュートリアル終わりました。」


チュートリアルが終わったところでルーム選択というものが出てきた


「私はそこで止まってます。どのルームに行ったらいいか分からなくて。」


俺はルームを選択しないと一緒のワールドで遊べないことを知ったので事前に竜のLINEでルームを聞いていた。


「ルーム16にしませんか?」


「わかったわ。」


ルームを16にしてゲームスタートする



スタートからいきなり大草原広がる丘に出た。

スマホゲームにしては美しいグラフィックで、リリース前から盛り上がっていたのにも納得がいく。

とりあえず迷子にならないためにも真っ先に黄泉菜を探した。


(ウルファーウェイの時に『黄泉菜』ってそのままの名前でやってたから多分名前一緒だよな。)


探していると黄泉菜から声をかけられる


「私がどこにいるかわかります?」


「見つけてみます…!」


俺はとにかく広大な丘を歩いて黄泉菜を探した



だが、探しても見つからない。


「黄泉菜どこにいるんですか…!?」


三人称視点ではあるものの、マップが広過ぎるせいで全然見つからない


「正解は…後ろ!」


その言葉をもとにスマホの操作でキャラクターを後ろに振り向かせると、ポニーテールで可愛いキャラクターが顔の近くで手を振るモーションをしている


「あ、いました!」


黄泉菜のキャラの上にはちゃんと『黄泉菜』とタグがついていた。


(このキャラが黄泉菜のキャラかぁ。実際の黄泉菜とはちょっと違った感じだけど…これも可愛い!)


そのサバイブ・ハントというゲームはアドベンチャーRPGだが、操作するキャラクターを自分で作ることができる



黄泉菜のキャラはポニーテールでふんわりしたカールのかかった綺麗なブロンズの髪をした可愛らしいキャラだ。

服装もオシャレでいかにも今日始めた人とは思えない姿をしていた。



「どう?私のキャラ、似合ってる?」


黄泉菜は自分の喋りに合わせてエモートと呼ばれる操作でキャラを動かす

なんだか俺も知らない操作を簡単にこなしている。


「こだわって作ったんですか?」



「顔のパーツとかは微調整したけど、コスチュームガチャってやつが十連できたからそれを引いてある程度イメチェンしてみただけ。」



俺が黄泉菜を探している間にもうそこまでしていたのか…

黄泉菜は普通にゲームセンスがある。


全くガチャのことも教えてないのにそれを含めてこのゲームを知り尽くしている


「黄泉菜さん、なんか攻略サイトとか見た…?」


ここまでゲーム慣れできる人は普段この部類のゲームをやってないとわからないはずなんだけど…


「何も見てないけど…?」



本当に見ていなさそうな反応に思わず唖然としてしまう。

そこまですぐにゲームに慣れているのはちょっと悔しかったが認めるしかなかった。


「とりあえず壮太くんもガチャ引いてみたらどうですか?結構カッコいいコスチュームもあっていいと思いますよ!」


黄泉菜に教えるどころか一から黄泉菜に教えられてガチャを引く



その後、黄泉菜のオシャレ講座が始まって俺は黄泉菜に言われるままにコーデされた。





「できた!これがいいと思います!」


黄泉菜にコーデされて五分ほど経過した。

黄泉菜がコーデした俺のキャラは初期の格好とは打って変わってとてもカッコよくなっていた。



「おぉ!めちゃくちゃいいじゃん!」


赤と黒をイメージカラーとしたちょっと大人びたコーデになった。


「いいじゃないですか!似合ってます!」


黄泉菜はいつになく上機嫌だ。



「よし!とりあえずストーリーに沿ってクエストをやりませんか?」


「もちろん!」



このゲームはアドベンチャーRPGだが、あまりアドベンチャーRPGを経験したことがない人でも楽しめるように推薦レベルやボスダンジョンの場所などが詳しくわかるようになっている



「あ、これとかどう?『最初の祠』初心者向けだって!」


クエスト一覧とマップからとりあえず始めたての人が行く場所を指定する


「いいですね!早速倒しにいきましょう!」


こうして黄泉菜と俺は初めてのゲーム通話を楽しみながら、ゲームを進めていった。








「楽しかったです!」


黄泉菜と協力してゲームをして数分



最初の祠を含め、たくさんのクエストをクリアしながらゲームを進めていたら、いつの間にか時刻は午後9時になろうとしていた。



「明日は普通に学校だし、今日はこれくらいにしとく?」


「そうね!今日は楽しかったわ!またやりましょ!」


黄泉菜は最後に「誘ってくれてありがとう!それじゃあね!」とだけ言って通話を終了した。



通話が終わって部屋に一人、静かな空間で通話した出来事を思い出す




「『またやりましょう』かぁ…」


俺は黄泉菜の言った言葉を復唱して嬉しくなり、笑みをこぼしながら独り言をこぼす


「こちらこそ、ありがとうだな。」






今日の通話でなんだか少しだけ、距離が近くなった気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る