第19話 爆発する思考と新展開

「今日のウルファーウェイ凄かったなぁ。」


「そうですね。みんな上手でビックリしました。」



部活が終わり、時刻は六時を過ぎていた。


俺は今日の午前中に教えてもらった新しいゲーム『サバイブ・ハント』を黄泉菜に勧めるために、黄泉菜と一緒に帰ることを提案していた。


「心理部の人とはいえ、みんなの考えが深すぎてなかなか思うように行動できなかったわ。」


昨日無双していた黄泉菜も、今回の心理部のメンバーの前では思うようにいかなかったらしい。


実際心理部のウルファーウェイは想像を超えるほど遥かにレベルが高かった。


一回目は俺も生き残っていたが、心理に無知な俺と竜は二回目からすぐに潰されることが多々あった。


(特に四回目は最悪だったな。)


心理部のメンバーで行った四回目、俺がウルフを引き当ててしまった時だ。


初日にも関わらずに先輩方の推理でみんなに怪しがられ、チェイサーに化けてやり過ごそうとしたのに海先輩がチェイサーで俺を見ていたらしく、あっけなく終わってしまったやつだ。


「あれは…先輩方の洞察力が凄いとしか言えませんよね。」


「だよなぁ。急に先輩方のターゲットが僕に向けられたからね。」


黄泉菜にも同情されるほどにボコボコにされた試合は、先輩方の力がいかに凄いものかを知らされる試合だった。

特に海先輩と花音先輩は一人一人の行動が矛盾していないから正確に判断して票を入れたり掲示板で訴えたりしてとても脅威だった。



(竜のイツメンでやった時はもっと勝てたのになぁ…)


井の中の蛙大海を知らず


まさにこのことを言っているんだなと実感した。



まだ数回しか一緒に帰っていないのに途切れることなく話題が続く。

まさかここまで好きな人と喋れるとは思ってもなかった。



そうしていると昨日黄泉菜にウルファーウェイを教えた公園が見えてきた。



「黄泉菜さん!」


緊張でボリュームがおかしくなった声量で黄泉菜を引き止める。

呼び止めたはいいものの、今の行動が恥ずかしくなって黄泉菜を見ながら変な汗を垂らす


「なに?そんなにかしこまらなくてもいいのに。」


そう言って黄泉菜は俺の方を見てくる


ダメだ…好きという感情を受け入れてから彼女を見ると、とても尊くて可愛らしく見える。

正直とても恥ずかしい



恥ずかしさに耐えきれなくなった俺は黄泉菜にあまり意識させない程度に目を逸らす。


「えと、黄泉菜…さん。ちょっと公園寄りませんか?」


そう言いながら黄泉菜の様子を横目で窺う

誘っただけでも勇気がいるのに…この待ち時間がとても長く感じる。


「うん。いいよ。私も寄るつもりだったし」


黄泉菜はあっさりとそれを承認して軽く微笑んだ。





(可愛すぎる………っっ)


昨日といい今日といい、俺の心を黄泉菜は簡単に掴んでくる。


それくらい黄泉菜の行動が俺の心を刺激し、俺の心を躍らせる存在になっているんだ。









一方黄泉菜の方は……



(何!?壮太くん急に「紹介したいゲームがあるから一緒に帰らない?」なんて誘ってくれたからゲームの話だけだと思ってたけど「公園に寄りませんか?」なんてそんな…誘ってくれるの!?)


壮太の心が読めない以上、言葉だけで考えを読み取らないといけない。

心が読めない相手との会話って…こんなにもドキドキするものなの!?


(咄嗟に笑顔で返したけど大丈夫だったよね!?私ニヤニヤしてなかったよね!?)




黄泉菜も黄泉菜で頭がパニックになっていた。




(もしかして壮太くん、私のこと………好きなの!?)



そう考えた途端、さらに恥ずかしくなる


あいにく壮太の心は読めない。

みんなとは違う特別な人だからこそ意識してしまうのかもしれない。



(そうだ、、そうだわ。私は壮太くんの心が読めないんじゃなくて読んでないだけなの!今読んでみれば読めるかも!)


そう言って私は精一杯壮太の心を読む。

…だが、どんなに壮太の心を読んでみようと試みても私の頭の中に心の声が聞こえることはなかった。




(やっぱりダメなのね…心が読めないだけでこんなに苦労するなんて…)



まだ今は読めないだけ…そうしておきましょう。

私は心を読むのはやめて大人しく壮太の言う通りに公園に行くのだった。







心が読み合えない二人は結果として、二人して仲良くドキドキしながら公園に着く。


「あ、とりあえず座りましょう。」


昨日ゲームを教えてもらったベンチだ。


壮太の言う通りに私はベンチに座る。

その隣に平然として壮太も座る。


そして迎えた無言タイム

どちらかが勇気を出して話し始めないと何も進まない

二人でベンチに座って数分が経つ。


「あ、あの、俺からの提案なんですが…」


ようやく壮太が黄泉菜の方を向いて話し始めた。



(ゲームの話よね…そんなに改まって話されるとなんだかドキドキする。)


黄泉菜の頭の中はそんなことでいっぱいで、今日はやけに変なことを考えてしまう



「新しいゲームを調べてきたのでよければ僕とゲームをやりませんか?」


純粋で素直で緊張してるのがよくわかる壮太の喋り方は、話を聞いててなんだか心が落ち着く。

だけどなんでかしら…

少しだけ…悲しんでる私がいる。



「私がゲームやりたいって言ったから調べてきてくれたの?」


「…はい。やっぱり2人で始めるなら新しいゲームの方がいいかなと。」



今まで人の心が読めていた私にとって、壮太の言葉は一つ一つが私の心をドキドキさせてくる。



(私のためにわざわざそこまで…)

とても嬉しい。言葉ってこんなにも心に響くものなのね…


「それで、どんなゲームなの?」



「えっと、『サバイブ・ハント』ってゲームで、こんな感じのアドベンチャーRPGです。」


私は壮太が見せてきたスマホの画面をスクロールしながら見る


そこには『サバイブ・ハント』のたくさんの写真とゲーム内容、キャッチコピーなどが書かれたものがあり、このゲームを一から十まで説明していた。


(昨日私が「新しいゲームがあったら一緒に遊びたい!」って無茶を言ったのにここまで調べてくれてる。そこまで考えて行動してくれてるなんて……)



私のために何かをしてくれる人がいると考えると今度は嬉しさを超えて恥ずかしく感じる


「僕こういうゲームは全くやったことなくて本当に初心者だから黄泉菜さんと一緒にやったら楽しいだろうなぁって思ってたんですけど、ダメ…ですか?」


私は壮太と目を合わせてみるが、合わせた時にくるちょっと照れてる壮太の顔に不意にキュンとする


「ダメじゃないよ。私だってそういうゲーム初めてだから最初は思った通りにゲームできなくなっちゃうかもしれないけど、それでもよければ一緒にやりたいな。」


「え、本当にいいんですか!?」


私の承認は壮太にとって予想外だったらしく、本心でビックリしているのがわかる。


「そんなにビックリしなくてもいいじゃん。壮太くんが面白そうと思うなら私もやってみたいな。」



壮太が小さな声で「よっしゃ」って言ってるのが聞こえる

とても明るい顔で、嬉しそうに。



その時初めてわかった。


(私、壮太くんと一緒にいるのが楽しいかも。)


今まで心が読めてしまう私は人間関係を諦めて愛想良く振る舞うことだけをしていた。

だからこそ思う、今の私は誰よりもこの時間を楽しんでるみたい。



(私、壮太くんに迷惑かけちゃうかもしれないけど、それでも一緒にいたい。もっとこの時間を楽しみたい。)



今日、自分の気持ちに気づけたのも、そして壮太に助けられていることも実感できた。



「今日、初めてだけど通話しながらサバイブ・ハントやりませんか?お互い初期設定とか操作方法とかの確認で…」


壮太はスマホの画面から目を離すことなく私に提案してくる。

しかし壮太は緊張を隠しきれていないように手の指が震えていた


(言葉に出すのってそんなに大変だったのね…)


心を読んでしまえば相手の考えは言葉を発する前に終わってしまう

だからこそ私は言葉で伝える大切さを見失っていた。


「もちろんやりましょう!私もこういうゲームは何していいかわからないし、教えてもらった方がいいから…お願いできますか?」


「任せてください!」


パァっと明るくなった壮太の顔を見ると私まで笑顔になれる


「じゃあ八時ぐらいに開始でいいですか?」


「わかったわ。楽しみにしてる」


その言葉に壮太は「はいっ!」と嬉しそうな顔をしながら元気に返事をした。




そのあと、壮太くんからサバイブ・ハントの主な説明と魅力を教えてもらって私たちは解散となった。




一人になった帰り道で自分の行動を振り返ると恥ずかしくなる。


(普段気づかないことを教えてくれた壮太くんには感謝しないと…それにしてもこの気持ちはなにかしら…)


自分でも異変に気づいてる。

2人で公園にいたときのあのドキドキはもっと自分の知らない感情なんだと思う。




(私は壮太くんのこと…………)








私の中で壮太に対する思いが、徐々に変わっていった。

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