第18話 真偽の思考と初活動

放課後、教室ともいえるこの部室の中には二年生三人、一年生五人の計八人が円状になって中心のテーブルを囲むように椅子に座っていた。


心理部初めての本部活だ。


今回行うのは前に決めた『一週間スケジュール』での竜の案、ウルファーウェイをすることが部活内容だ。


要するに…ゲーム大会だ。




「お前ら、スマホの充電は大丈夫か?もしないやつは俺が充電器を持ってるから学校のコンセント使って充電しなよ。」


海先輩がコンセント近くのテーブルに充電器を置く。


「それってダメなんじゃないんですか?」


「ん?あぁ、顧問には許可とってるから多分大丈夫。」


(この部活って顧問いるんだ…)


部活見学から一度も出会ったことのない人物が一人増えた。

たしかに部活と言ったら顧問がいるのが当たり前なんだが、流石に部活見学の時に一回も会わないのはいないと勘違いしても仕方ないだろう。


「じゃあ海くんが座ってからゲームを始めようか!」


智恵先輩がそう言ったのちに海先輩が椅子に座る。


「それじゃあ…心理部部活、『ウルファーウェイ』を始めましょう!」


智恵先輩のテンポ良い掛け声と共に部活版、ウルファーウェイが始まった。


俺らは智恵先輩が建ててくれたルームに入り、全員の集合を待つ。


人数が八人、全員になったところでゲームが始まった。


今回行うのは智恵、海、花音の二年生と、壮太、黄泉菜、竜、そして稲川寧々と奈々の八人だ。


ゲーム開始と共に役職のカードが配られる


今回俺に配られた役職カードは、人間とウルフの姿が両方描かれたカード、『共犯者』だった。


(嘘だろ、いきなり難しいやつじゃん。)


共犯者


占い師に占われた時、白という形で結果が出るのだが、ウルフが勝った時に同時に勝利できるというものだ。

逆にこの共犯者はウルフ陣営なので村人が勝利した場合は負けとなる。


また、この共犯者は最後に残った人が共犯者、ウルフ、村人二人という四人の場合になったとしてもウルフ側の勝ちにすることができる。


簡単に言えば、使い方が難しいが、上手に使えば大いに勝利する確率を上げることができる役職だ。


(共犯者はこのゲームにおいてめっちゃ難しい役なんだよな…役職がわからないし。)


普通の人狼では共犯者のみウルフが誰なのかを知ることができ、ウルフに自分が共犯者だという事を教えてながら協力して勝利を掴むのだが、ウルファーウェイはそうもいかない。

ウルファーウェイ特有の、誰がどの役職についたのかは誰一人教えてくれない。

ただ分かるのは、共犯者が役職としてあるのでウルフが少なくとも1人以上いるということだけだ。


(たしかに難しい役だけど、頑張ってみますか!)



こうして心理部による本気の読み合いが始まった。



〈1日目です〉



全員が円卓に集められてゲームが始まる


〈犠牲者はいませんでした。証拠として、昨晩は雄叫びが聞こえました。プレイヤー「壮太」の近くでウルフの毛が発見されました。また、プレイヤー「NaNa」の付近で血痕が発見されました。〉


犠牲者なし、証拠だけが残る1日目がスタートした。


(初日は誰も死ななかった。みんなで楽しむための先輩方の優しさかな。しかし八人となるとみんなを総合的に判断するとなると厳しいな…)


みんなを一気に判断するのは難しいため、一つ一つ整理していく。


(まず、雄叫びが聞こえたことから昨日少なくともウルフが動いたみたいだ。俺の近くにウルフの毛があったことから、俺はだいぶ狙われてるのかな。そして奈々さんの近くで血痕かぁ。これは操作ミスなのかイタズラなのか…)


いくら考えても他の人のアリバイが少なすぎて迂闊に判断することもできない


(俺が勝手に決めて村人を一人減らすのも先輩方二人には好ましくはないよな。とりあえず占い師やその他の結果が掲載されることを待つだけだな。)


共犯者はウルフと同様、夜に誰か1人を殺すことができる。だが証拠が残りやすく、『ウルフの認知』という状態効果が必要であり、ウルフ側の申告でしか得られないので意地でもウルフに申告してもらうしか殺した時の恩恵が得られにくい。



とりあえず俺は夕方の市民集会まで待つことにした。


正直俺が出来ることはウルフが誰なのかを把握して、そこから自分が占い師に化けてウルフを庇う占い結果を載せて村人を誘導させながらも自分が共犯者である事をアピールし、その後で村人同士で昼の投票争いを起こして勝利の確率を上げていくことだ。


この考えがシナリオ通りに進んでくれれば一番楽な話だが、ここまで素直に言ってくれるかが問題だ。

そう簡単には上手くいかない。色々と選択肢は広げておこう。


〈夕方になりました。市民集会です。〉


ここで能力のある村人が動き出す。


〈掲示板には以下の事が記入されていました。〉


一行目には「プレイヤー『壮太』は白です。」と書かれている。


二行目には「あるプレイヤーがらプレイヤー『NaNa』を監視しています。」と書かれている。


三行目には「プレイヤー『カイ』は白です。」と書かれている。



今回の掲示板はこれだけだ。


監視というのはチェイサーの特殊能力で、二つの能力が使える。

一つ目の能力として事前に掲示板に監視する人を掲示することで、その夜の間指定した人が夜に動いた形跡を見ることができる。

二つ目の能力として事前に監視する人を決めて夜に動いた形跡を見ることができ、次の日に誰を監視したかを掲示板で掲示することができる。


上手に使うことで村人のヒーローになれるほどの頼れる戦力になる。逆に言えばウルフにとっては脅威となる。



(沢山情報が飛び込んできたな…それでもまだ名前が上がってないのがいるのか…)


竜のメンバーでやった五人の時はなんとなく考察がしやすかったが、三人加わるだけでこんなにも難しくなるのか。


〈投票を開始します。即座に投票してください。〉


こうして投票タイムが来た。


まだ全員のアリバイがわかっていない以上、ウルフに投票して自分の首を絞めてしまう可能性に恐れた俺は『パス』という形で投票した。


市民投票では怪しい人に票を入れる他、パスという選択肢もある。


(まだ初日だし、流石に数を減らそうとしてウルフを追放したら負けるからなぁ。)


〈投票が終わりました。結果、パスが多数のため、追放者はいません。〉


半分以上の人数がパスを選択した場合、追放がなしとなる。


(まぁこの選択が無難かな。)


こうして夜になった。

共犯者の夜はとてもつまらない。


考察をするのもいいが、数少ない情報の中で人より早くウルフが誰なのかを気づくことはとても難しい。


特に、今はまだ二人のアリバイがわかっていない。そうなると掲示板にも話題にならずにいた人はただの村人説が多いかもしれないが、白色情報しか出ていない以上残っている人にウルフが多いことがあるかもしれない。


とにかく今は自分が安全な人であることを村人に植え付けることが大切だと思った。


〈二日目です〉


こうして二日目がやってきた。


〈死体となってプレイヤー『タッツー』が発見されました。〉


「嘘だろ!?」


どうやら竜が目をつけられたらしい。

おそらく積極的に占ってくる竜をウルフは嫌ったみたいだ。


〈証拠として、プレイヤー『NaNa』の近くでウルフの足跡が発見されました。また、プレイヤー『黄泉菜』の近くでプレイヤー『タッツー』の所持物、プレイヤー『カイ』の近くでウルフの毛が発見されました。〉



また出てきたたくさんの証拠を元に推理していく。

証拠は時にウルフを見つける手がかりになる。


「ウルフが行動してきたね。」


「早めに手を打たないとな。」


先輩方もまだ確証的な証拠が見つかっていないためか、ウルフを炙り出すのに苦戦している。


(今二日連続で証拠を見つけられている人は奈々さんか…でも奈々さんは誰かに監視されていたからあまり動きたくないはず…)


まだ証拠も出ていなくて誰の影響も受けていない人は花音先輩ただ一人。


(しかし、黄泉菜の近くに竜の所持物があったのも謎だ。)


そうなると必然的に怪しくなるのは花音先輩と黄泉菜だ。


(海先輩は占いから白って出ているし、敵なのか味方なのかはっきりしていないのは黄泉菜、花音先輩、知恵先輩、そして寧々さんなんだが…果たしてウルフは誰なんだろうか…)


証拠が出れば出るほど考察は難しくなる


(いくら証拠でも嘘の情報も混じっているからなぁ)


ウルフは夜の間に行動してダミーの証拠もいくつか残す。

だからこそ証拠がたくさん出ている人を疑うわけにもいかない。



(ウルフがわからない以上嘘の情報は流しにくいし、『ウルフの認知』をもらわないと殺害するのも難しいし…今日も観察かな。)


〈夕方になりました。市民集会です。〉


そして迎えた市民集会


〈掲示板には以下の事が記入されていました。〉


一行目には「プレイヤー『NeNe』は白です。」と書かれていた。


二行目には「あるプレイヤーはプレイヤー『黄泉菜』を監視しています。」と書かれている。


この二つだった。


(ここで黄泉菜を監視するのはいい結果が期待できそうだ。これでウルフだとわかればあとは俺がカバーするだけ…)


〈投票を開始します。即座に投票してください。〉


俺はとりあえずウルフが有利になるように占い結果で白が出ている海先輩に票を入れた。


(でもまだウルフが誰かわからないんだよなぁ。)


〈投票が終わりました。結果、プレイヤー『NeNe』が追放されました。〉


「えぇ!嘘、私!?」


意外な投票に声が出て部室に響く。


「あははっ。まぁこんなこともあるよ。」


花音先輩は楽しげそうに受け流した。

怪しい…もしかして花音先輩がウルフか?


こうしてウルファーウェイの中で夜になった。



(寧々さんが追放されてもゲームが続くということはウルフがまだいるんだ。まぁ寧々さんはあまり情報も出ていなかったし、今回なかなか難しいぞ…)


実際どうして寧々の方に票が集まったのかはよくわからないが、おそらくウルフ側が何かしたんだろう。


(残る人数は六人。智恵先輩、海先輩、花音先輩、黄泉菜、俺、奈々さんだ。)


この中にウルフがいる。


(別に俺はウルフを見つけたって共犯者だから狙わないんだけどね。)


しかし、無駄に投票してウルフを追放させるわけにもいかない。


(だから共犯者は難しいんだよな。)


〈三日目です〉


まだたくさん人数がいる中で三日目が始まる


〈死体となってプレイヤー『NaNa』が発見されました。〉





〈人数により、ウルフ側の勝利です〉





多くの人数を残してあっさりと勝ってしまった。


「え、えぇ!?」


俺を含めた一年生全員がが声を出して驚く。

共犯者である俺を含めてだ。


「楽勝だったな。」


「海くんやるぅ!」


海先輩と智恵先輩がハイタッチを交わす


「ど、どうなったんですか?」


俺はわけがわからずに先輩に聞く。


ウルフと俺が残っていても黄泉菜、智恵先輩、花音先輩が残っていたら最低でももう一人減らさないと勝ちにならないはず…



「とりあえず結果詳細見ればわかる。」


海先輩の言う通りに俺は結果詳細を見る。


そこにはそれぞれの役職が書かれていた。


プレイヤー『黄泉菜』  ・村人

プレイヤー『タッツー』 ・占い師

プレイヤー『壮太』   ・共犯者

プレイヤー『NaNa』 ・村人

プレイヤー『NeNe』   ・チェイサー

プレイヤー『カイ』   ・ウルフ

プレイヤー『ちぇ』   ・ウルフ

プレイヤー『花音』   ・泥棒


だった。


「え!?海先輩と智恵先輩って二人ともウルフだったんですか!?」


しまった。

てっきりウルフは1人だけだという固定観念に駆られていた。役職はランダムだからウルフが2人いてもおかしくないのだ。


「あぁそうだ。あらかじめ智恵が占い師に化けて俺を占って白にしておけば後半までバレることはないからな。」


一日目の海先輩の占い情報番組嘘だったみたいだ。


「逆に壮太は共犯者だったのかよ。全くわからなかったな。」


「それウルフの海先輩から言われたら絶対にダメなやつ!」


今の海先輩のダメ出しが飛んでくる


俺は「皆さん上手すぎてウルフを見つけるのが大変だったんですよ…」と呟く


「それにしてもみんな上手ですね。」


ウルファーウェイで全く役職がわからなかった黄泉菜が話す


「花音先輩は泥棒の役職なんですけど、誰の役職を奪ったんですか?」



泥棒


ウルファーウェイの役職でちょっと癖のある役職だ。


プレイヤーの中で死んでしまった人、あるいは追放された人を対象に効果を発動し、泥棒の役職を持っている人はそのプレイヤーの中で死んでしまった人、あるいは追放された人の中から一人を選択して役職を奪えるというものだ。


「私ねぇ、、タッツーくんのをすぐにもらったんだけど占い師でさ。一日目から行動してないと怪しまれるから役職を貰っても無闇に行動できなかったんだよね。」


どうやら竜の役職を奪ったらしいがあえて使わなかったらしい。


「どうだった?初めての心理部ウルファーウェイだったが上手く作戦通りになったか?」


海先輩が上機嫌で部活を進行する


「いや!俺は納得いかないぜ!」


竜は最初に殺されたのもあって納得がいかないらしい。


「私たちもちょっと考えが甘かったです。」


寧々と奈々も納得がいかなかったらしい。



「…まぁそうだろうな。けどまだ時間はたっぷりある。もう一戦いこう!」



「「はい!」」


一年生のやる気ある返事に対して、花音先輩は「またやるの?」と呟きながらも一年生の要望に応え、連戦を行う。






こうして心理部は、賑やかで完璧なスタートを切った。

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