第14話 ゲーミング思考と人間関係《2》

『ウルファーウェイ』


数人で行う心理ゲーム。

簡単に言うと人狼ゲームの派生版だ。


主なルールは人狼と同じで、決められた役職の中の「ウルフ」という他の役職に化けている人を村から追い出すことで勝利することができる。


逆に、ウルフの役職をもらった人は誰にもバレることなく村の人の人口を一人一人削っていき、自分を含めて二人になった時点で勝利することができる。



単純かつスリルのある心理戦だ。


しかし、このウルファーウェイというゲームは普通人狼ゲームとはちょっと変わったルールがある。


『自分の役職はウルフ同士以外の場合、味方に話してはいけない』

というルールだ。


この「ウルファーウェイ」というゲームは人狼ゲームと違って『「ウルフ」という役職が一人以上』の絶対条件の他に役職の振り分けに全く規制がない。


完全にランダムで決まるものだ。



それによって全員が能力付きの役職かもしれない。

逆を言えば全員が能力なしの役職かもしれない。


誰がどの役職なのかわからないままこのゲームは進んでいく。



そんな感じのゲームだ。





俺は竜が始めたグループ通話にお邪魔する。


「こんばんは。有馬壮太です。」


「あ!壮太くん来てくれたじゃん。やっほぅ!」


伸也の声が聞こえる。

グループ通話って聞くともっとわちゃちゃしているものだと思ったのだが、案外静かだった。


「こんばんは〜鈴です。」

「こんばんは。凛です。」


続けて鈴と凛も挨拶する。


「よーし、全員揃ったな。今専用ルーム建てたからみんな入ってきていいぞー。」


竜は一足先にウルファーウェイで専用部屋を作ってくれていた。


「名前はなんだ?」


「あ、ルーム名か。《あああああああ》だ。」


「いやテキトーだな。」


竜と伸也は学校と全く変わらないテンションだ。


俺はゲームを立ち上げて竜が作ってくれた専用部屋を探す。



「たっつん、《あ》の数って何個?」


鈴が聞く。


(竜って『たっつん』って呼ばれてるんだな。)


嫉妬…ではないが、竜が女子からあだ名で呼ばれているのに何かいいなぁと思ってしまう。


「《あ》の数は七個な。」


俺は竜の言っている通りに検索の場所に《あ》を七個打って検索した。


「あ、あった。これでいいのか?」


俺は竜の言われた通りにルーム名を入力し、その部屋に入る。

すると、ゴツイ装備をした騎士が一人ルームにいた。


コードネームに「タッツー」と書いてある。


(タッツー…たっつん呼びの派生から生まれたネームなのかな)


「大正解!みんなも早く来いよ〜、壮太一番乗りだ。」




次々と人がルームに入ってくる。


「これで全員揃ったかな…とりあえず集合しようか。」


ルームの中央にある円卓を中心にみんなで集合する。



「まず、今回初めて参加してくれる人もいるから全員自己紹介でもしとくか!」


竜が司会となって進める。


「自己紹介いらないかもしれないけど一応やっとくか。俺は山神 竜だ。多分このメンバーの中で一番のしっかり者だ。よろしく!」


「「いや、それはない。」」


俺を含め、全員同じ意見が揃った。


「まだ俺の方がしっかりしてるだろ。って事で自己紹介、俺は三巳 伸也。よろしく。」


「あ、よろしくお願いします。」


俺に向けて言ってるとわかって自分も挨拶する。


「じゃあ次は私だね。私の名前は獅ノ井鈴ししのいすず。気軽に声かけてくれると嬉しいな!」


「よろしくお願いします。」


獅ノ井 鈴…初めて出会った時は陽キャ特有のぐいぐい来る感じが苦手でちょっと話しにくい人かなと思っていたけど、意外と話せそうな気がした。


「この流れだと次は私だね。私は鳥河凛とりかわりん。ちょっとムスッとしてるのは多分恥ずかしいだけだからジャンジャン声かけてね、それでも人見知りだからあんまり喋らないかもしれないけど、仲良くしてくれると嬉しいな。よろしく。」


「よろしくお願いします。」


鳥河 凛…前に一回話しかけようとした時に無愛想な感じであまり話せなかった人だ。

まさか恥ずかしがり屋なだけだったとは…



「んーじゃ最後、壮太!盛大に自己紹介して噛んでやれ!」



「やめてくれ!それ初日にやったやつじゃん!なんでまだ知ってるの!」


その掛け合いに竜のイツメンは楽しく笑う

くそ…ハメられた。



ここにきて過去の話を持ってきた竜め…次出会ったら許さん。


「えーと、竜に誘ってもらって来ました。有馬 壮太です。決してウルファーウェイが上手なわけじゃないので期待は…しないでください。もう二度と噛みません、よろしくお願いします。」


「よろしく〜!」

「壮太くんよろしく!」

「よろしくね。」


とりあえず初日みたいに噛むことはなかった。


「まぁ羊ちゃんのことで色々あるかもしれないけど、俺らは大丈夫だから気軽に話してよ。」


伸也くんは俺にそう言ってくれた。


伸也くんには他のメンバーより気軽に話せそうだ。




「それじゃあ始めますか!」


そう言って竜はstartのボタンを押す




読み込み画面が終わり、みんなに一枚ずつカードが配られる。


(俺の役職は…)


水晶を持ったおばあさんの絵が描いてある。


占い師だ。


占い師は昼間に一人、自分が気になった人を選んで敵か味方かを知ることができる。


しかし、ウルファーウェイは味方を確実に見つけるのが難しい。


占った人が敵か味方かをみんなに伝えることはできるが、口頭ではなく村の中央にある掲示板に占い結果を載せるだけなので占い師が誰なのかは公表されない。


(いきなり能力付き役職かぁ…能力付き役職の味方が他にいないと結構難しいなぁ…)


ウルファーウェイは役職の数が決まっていない。


よって自分だけが能力付き役職の場合もあり、全員が能力付き役職の可能性だってある。




〈一日目です〉


全員が集められてゲームが始まる


〈犠牲者はいませんでした。証拠として、プレイヤー「タッツー」の部屋近くでウルフの足跡が発見されました。また、プレイヤー「すーずー」の部屋近くで血痕が発見されました。〉



ゲームは夜にウルフが動いた行動を証拠としてみんなに伝える。


こうして一日目が始まった。


「やっぱり一日目は行動なし…か?」


「私の近くに血痕あったんだけど…狙われてる?」


「わからないですね…」


みんなで考察しだす。


昼間の間は円卓で話し合う。

話し合い方は基本的にチャットなのだが、ウルファーウェイ特有のルール上役職の名前や役職を彷彿とさせる言葉などは厳格に伏せられてしまう。



(竜の近くで足跡、鈴の近くで血痕かぁ…でもウルフはまだ誰も殺してないし、そうなると鈴の近くの血痕は操作ミスかなぁ。だとすると使える証拠が竜の部屋付近にあった足跡だけ…)


ウルフの足跡はそのまんまの意味で、部屋の近くまでウルフが来ていたことを表す。また、血痕は犠牲者が出たあとに付く印でありウルフはそれを隠すように自分でわざと血痕をつけることもできる。


一応俺は占い師、誰かをこの時間帯に占うことができる。


(可能性としては竜か鈴のどちらかだな。それ以外は証拠も出ていないし、まずはどっちかを占うべきだよな。)


証拠がつくのは完全にランダムであり、ウルフが部屋を出た時すぐに証拠として足跡がついてしまうこともある。


(一日一回しか使えないが、出し惜しみする必要はないだろう。)


どちらかを占うか迷ったが、俺は鈴を占った。



結果、鈴は白…味方だ。


(そうか、じゃあ圧倒的に竜が怪しいな。)



ここまで考えたところで考察タイムが終わる。


〈夕方になりました。市民集会です。〉


この時間はそれぞれ能力付きの役職の人の結果が掲示板に貼られる時間だ。


村人はこの結果を見て即座に考察し、その後投票によって一人の村人を追放することができる。


〈掲示板には以下のことが記入されています。〉


一行目には俺の占った「プレイヤー『すーずー』は白です。」が書かれていた。



(俺以外に能力付きの役職はいないのかな…)


まだこの時点では確定できないが、そう仮定しておこう。


〈投票を開始します。即座に投票してください。〉


夕方の掲示板の公表後、投票までは考察タイムがない。


いかに早く、適正な判断を下して村人を追放するか、それが大切だ。



(伸也は全く証拠がないが、鈴が白で竜の方は足跡があった。)


結論として、俺は竜に投票することにした。



後は他を待つだけ、、

俺はゆっくりと他の人の投票を待った。



〈投票が終わりました。結果、一人に決まらなかったため追放者はいません。〉


(そのパターンか!)


投票数が同じ数、またはパスを希望した人が多かった場合には追放は行われない。


そうして夜になった。



夜はウルフのターン、ウルフが行動できる。

逆を言えば村人は全く行動ができない。


夜の間はそれぞれの部屋(自室とも呼ぶ)に入りメモ機能を使って状況を整理したり、夜に行動できる役職やウルフが行動をしたりする。


(まぁまだ伸也が白確定ってわけじゃないし、そう簡単に決まらないよなぁ。)


ここでウルフは必ず動くだろう。誰か一人を追放できていればもう少し簡単に推理することができたかもしれない



〈二日目です〉


ゲームはテンポよく進んでいく


〈死体となってプレイヤー『リンリン』が発見されました。〉


「えぇ?ひどいなぁ…」


ここ凛がリタイア。

役職付きなのかどうなのか分からないが、俺のやることは一つだけだ。


〈証拠として、プレイヤー『リンリン』の近くで血痕が発見されました。また、プレイヤー『深夜の伸也』の近くで足跡、プレイヤー『タッツー』の近くで血痕が発見されました。〉


たくさんの証拠を残して二日目の考察タイムが始まった。


「まずいぞ…誰が何かわからん」


「掲示板の結果は誰のだ?」


竜と伸也が話し合っている

どうやら俺が占い師だということはバレなかったので生き延びることができた。


(次占うのは竜しかないよな。証拠からも竜のところに二日間あるのは明らかに怪しいし。)



そう考えた俺は竜を占った。


結果、黒だ。


(やっぱりウルフは竜か…)



俺の役目はこれで終わりだ。


後は他のみんなが俺の占い結果を信じて竜に投票してくれるのを願うばかりだ。


〈夕方になりました。市民集会です。〉


そして迎えた市民集会。


〈掲示板には以下の事が記入されていました。〉


一行目には俺の占った「プレイヤー『タッツー』は黒です。」と書かれていた。


そして二行目に「あるプレイヤーが、プレイヤー『深夜の伸也』を監視しました。」と書かれていた。


(さぁどうくる…)


掲示板には嘘の情報を流しても問題はない。だからこそ俺の占い結果が必ずしもみんなに通るとは限らない。



〈投票を開始します。即座に投票してください。〉


一日目と同様、俺は竜に投票した。



(わかってくれよ…他のみんなにかかっているんだ!)



俺はまたみんなの投票を待つだけだった。


〈投票が終わりました。結果、プレイヤー『タッツー』が追放されました。〉



「えぇ!?俺かよ!」



竜はここでリタイア。


〈ウルフがいなくなったので、村人の勝利です〉



竜の追放後、村人の勝利でゲームは終わった。


プレイヤー『タッツー』   ・ウルフ

プレイヤー『深夜の伸也』  ・村人

プレイヤー『リンリン』   ・村人

プレイヤー『壮太』     ・占い師

プレイヤー『すーずー』   ・村人


今回は村人が多めの割り振りだった。


「やったぜ!」


俺は声を上げながらガッツポーズをする


「いや〜ナイスだった!」


「面白かったわ!」


みんな楽しそうだ。



「くっそ!なんでバレたんだよ!」


正直なところ竜もいい動きをしていたし、今回は俺が占い師で本当に良かった。


「今回は占い師だった壮太くんがMVPだ。今回はすごかったぜ。ナイス!」


ゲーム後のみんなの役職と動きの流れの結果を見て伸也が話す。

普段全くゲームが上手じゃない俺にとって伸也に褒められたことは嬉しかった。



「俺は納得しない!もう一回だ!」


「はいはい。まぁそういうと思ってたよ。よし!もう一試合いっとくか!」


伸也の言葉と同時に二試合目が始まる。








かれこれ二時間は遊んだだろう。




「今日はありがとう!こんなにゲームで楽しめたの初めてかも知れません!また誘って欲しい!」



「当たり前だろ?今回壮太くんとやってみてめちゃくちゃ面白かったし、新しい人が増えるとまた楽しいもんだね。また誘うよ!今日はありがとう!」


こうして俺は竜のメンバーと仲良くなった。


まぁ羊一人を抜いての話だけど…






羊を攻略するのにはもう少し時間がかかりそうだ。



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