第13話 ゲーミング思考と人間関係《1》

部活仮登録の紙提出締め切りの日、

俺は『心理部』と書かれた紙を提出した。



(これでよかったんだよな。)


本当はもっと仲の良い人…例えば竜とかと同じ部活に入って楽しく喋りながら部活を楽しわだりしたかった自分もいる。


黄泉菜は確定で心理部だということがわかったが、超絶美人の高嶺の花だ、あいにくそこまで仲良く話せるほど俺はメンタルが強くはない。

むしろ緊張して喋れない方が強い。


(やっぱり竜と一緒の部活にすればよかったかなぁ。)


そんな事を思いながらフラフラと自分の席に戻っていると、これから部活登録用紙を提出しに行く竜に出会った。


「あ、壮太じゃん。そういえばお前って結局何部にしたんだ?」


提出し終わった俺に竜が話しかけてくる。


「ああ…僕は心理部にしたよ。海先輩の凄さとかを知っちゃったから自分もその姿を追いかけたいなって思ってさ。竜はどうしたんだ?テニス部とか、バスケ部にした?」


「俺か?俺はだな……」


たくさんのプリントが詰まったファイルから出てきた仮登録用紙に書いてあるのは『心理部』の文字だった。



「竜、心理部にしたのか!?」


驚いた。てっきり運動部に行くんだと勝手に思っていた。


「やっぱり海先輩すごかったからなぁ、あそこまで人の心が読めるってめちゃくちゃすげぇと思わないか!?」


「たしかに海先輩は凄すぎだよな。」


心理部自体も相当すごいものだったが、それよりも『海先輩』という存在に二人して惹かれてしまった。


「俺だって部活は運動部になるんだろうなって自分で思ってたのに、人の心って動かされるものなんだな。」


どうやら竜は初めての心理部部活見学の時に海先輩に心を読まれて以来、心理やら読心力やらに興味を持ったらしい。


「心が読めるってやばいよな…鋭い洞察力で相手を読み、上手に操れば相手の行動までもを制御できる…応用すればとんでもないことができるんだぜ!?」


竜ってチャラい見た目をしているのに考え方とか行動は思ったより少年なんだよなぁ…


「制御とかが出来ると使いやすそうだけど、そこまでできたら人間の域超えそうだよね。」


俺は黄泉菜から聞いた人の心が読める世界を想像しながら竜に応えるのだった。


「まぁでも、壮太と一緒に部活やりたいって気持ちもあったからな。一緒になれてよかったぜ。」



いきなりの本音に俺自身なんだか照れてしまった。


「ところで、俺も壮太に話したかった事があるんだ。」


「ん、なんだ?」


意外にも竜から話題を持ち出して来た。

普段からくだらない話ばかりしていたので、ちゃんとした話題が出されるのにびっくりした。


竜は左ポケットに入っていたスマホを取り出して何かを起動させたのちに俺に向けて見せてくる。


「壮太って『ウルファーウェイ』ってゲームやってるか?」


「あぁ知ってる。インストールして少しだけ遊んでみたけど…なんで?」




ウルファーウェイ




今日本で人気のオンラインゲーム。

今年、いろいろなyoutuberがこのゲームを取り上げたことによって今の日本では上半期ダウンロード数一位をキープしているらしい。



もちろん俺もやっている。


あまりゲームは得意な方じゃないけど、男子の会話なんてほとんどがゲームの話だからせめて流行には乗っておかないとと思って入れたものだ。


「今日俺らのグループでウルファーウェイをやろうって言う意見が出てきてやることになったから壮太もやらねぇかな〜って思って。」


高校生活初のお誘いだった。

もともとゲームを好んでやるタイプじゃなかった俺にとって、この出来事はご褒美だ。


「それはとても嬉しいけど、いきなり僕が来ても大丈夫なの?」


他の人が何も知らず急に参戦してもお互い気まずくなるだけだろう。せめて竜から事前に言ってもらわないと困る。


「もちろん!みんなにそのことを言ったら三対一で賛成だったよ。」


何故だろう…

『三対一』の『一』の部分が誰かわかる気がする…

竜よ、それは名前を伏せるために隠しているんだと思うが意味ないぞ。


「他のみんなは大丈夫かもしれないけど、やっぱり寺島くんには申し訳ないよ。」



寺島 羊


俺の事を嫌っている竜のイツメンだ。


数日か前に喧嘩をしてしまい、一応一件落着な感じで終わったのだがいまだに話すことができない。


羊も俺のことを避けてるんだと思うが、俺自身も若干の苦手体質を持っているらしい。


「まぁそんなに考えるなって。たしかにアイツは性格がとんがってるかもしれねぇが、そういう奴ほどいつのまにか仲良くなってることって結構あるからさ。」


竜は俺に気を遣って励ましてくれているようだが、今回の投票の『三対一』でも分かるように羊もあまり俺と関わりたくなさそうだ。


「竜の言ってることも正しいかもしれないけど、やっぱり羊も俺のこと気にしてるよなぁ…」


いまいち返事がはっきりしない俺に対して竜もなんだか面倒くさそうになってくる


「なんだ?今日は俺らのグループは遠慮するって事でいいのか?」


そういう事じゃない。


これでまた羊の話にもどると終わらないだろうと考えたので、

「わかった、やるよ。一応みんなに言っておいてね。」

と、軽く承認しておいた。


「おっけー!今日はみんな夜遅くまでやるつもりだが、壮太はそういうの大丈夫か?」


俺の介入にわかりやすくテンションが上がっている竜を横目に俺はしばらく考える


「そうだね…明日も学校だし、多分他のメンバーにとって僕とは『はじめまして』だと思うからちょっとだけにするよ。」



俺自身遠慮しがちなタイプなので多分長い時間することはないだろう。


だが、あまりゲームが得意ではない俺にとっても通話しながらのゲームはなにかと楽しそうだった。


「じゃあみんなに伝えとく!あとLINEのグループに誘っとくから、入っといてな!」



そらを伝えた竜は「んじゃあいつらの方にも話つけてくるわ」と言い、イツメンの方へと歩き出した。







(俺はこんなにも優遇されていいものなのだろうか…)


そんなことをふと考えてしまった。


インフル少年から始まり、竜や黄泉菜のおかげでここ数日の間「たくさんの人との出会い、交流があった。


ここまで色んな人と出会って楽しくさせてもらって、本当にいいんだろうかと思う。



(けど、)


たしかにこれは俺が決めた道だ。

いろんな出来事があったが、それは全て俺が決めた道にあるイベントだと考えればいい。




「竜!」


「ん?なんだ?」


俺はとびきりの感謝を告げる。



「いつもありがとう。これからも、よろしく!」



「お、なんだいきなり…嬉しいからいいけど…」


竜は照れを隠すように首を手で抑える。


「なんだお前…あ!そうやって俺にあらかじめ媚び売って助けを求める気だな?」


「そんなことしないよ。日々の感謝と、これからの感謝だ。」


「そうか。まともにこうやって感謝されることなんてなかなかないからな。俺もお前と出会えて良かった!」


竜は元気にそう言った。







そして今日、

初めて竜のメンツと遊ぶことになった。


現在時刻は午後七時半、


「確か、竜は八時から始まるとか言ってたよな…」


イヤホンをセットして今日竜が誘ってくれたグループを開いて待機する。


「みんな集まってるかい?」


竜のLINEにみんなが反応する。


(みんな待機してるのか…)


これから通話するとなると無駄に緊張する。


「全員いるらしいな。それじゃあ始めますか!」


そのLINEの後、グループ通話が開始される。







初めての世界、初めての環境、初めてのメンバーで、




俺は、ゲームの世界に飛び込んだ。



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