第12話 強者の思考と有名人

「…これでよし。」


黄泉菜との買い物も終わり、俺の心理部への入部がほぼ確定となったので仮登録用紙に『心理部』と記入する。


それでも他部活と迷ったりもした。


黄泉菜との件、心理部の実績や先輩後輩の仲の良さなど、他の部活とは違ったものがあったので決めたということもあったが、それよりどうしても部活を決める決定打となり、気になったのは海先輩からの言葉だった。



「本当の自分を見失う…かぁ。」


考えすぎ…か?

とは言っても実際自分が言いたいことを言えなかったりするのは本当であり、本来の自分を心の中で支配する他のモノに操られている証拠と言っても過言ではない。


特に最近はそういうことが頻繁に起こっているような気がした。



(あれが本当の自分を失う…ってことなのかな。)


自分でもよくわかっていない。





(無意識的に起こっている…)


海先輩はそこまで言っていた。


言いたくないことでも制御が効かずに言ってしまうのが自分の思考に関係しているとすれば、海先輩の言っていることは当てはまっている。



「…だから俺を直すのか。」


実際どういう風に直すのだろうか…

予想も全くつかない。むしろ他人の体を直せるものなのか?



「やっぱり俺の思考は人とは少し違う、何か変な力が働いているのかな。」



前に一回俺の心がどうやって見えるのかを黄泉菜に聞いたことがある。


だが、どう頑張っても俺の心の声は聞こえる事がなく、なぜ聞こえないのかも不明のままだ。



(人の心が読める特殊な力を持つ黄泉菜まで俺の心が読めなかったのに、なんで海先輩はあの時すぐに俺の心の変化に気づいたんだろう…)


海先輩もまた、黄泉菜や俺のように特殊な人間なのかもしれない。


もし海先輩の力が単なる優れた洞察力のみのものだとしても、それもまた特別な能力にすぎない。


「海先輩って何者なんだ…」


考えれば考えるほど自分と他の人たちの異質な力に悩まされる。何もできない自分にとって、この話は考えるだけ無駄なのかもしれない。

椅子に座った状態から大きな伸びをして深く考えるのをやめる。


あまり無駄な事を考えないように自分の机の周りを見渡すと、自分のスマホが目に入った。


(そうだ。心理部の部活実績ってテレビ出演だったよな…先輩方を調べたら出てくるのか?)


単なる興味本位だが、同じ部活のメンバーになる者、実績くらいは知ってもいいだろうと自分のスマホに手を出した。



「霧原 海」



海先輩を検索するとたくさんのテレビ番組出演の動画があった。


スクロールしてもどんどん出てくる。


(これは、、桁違いだな。)


他にもたくさんの場面で功績を残しており、なにから手をつけていいのかわからなくなるほど多かった。


「テレビ特集に論文、雑誌にも取り上げられてるのか…」


将来有名というよりも、今のままでも十分有名人を名乗れるほどの人だった。


「スターの卵ってわけだな…」


海先輩の実績が気になった俺はどんどん海先輩を調べていく。


「天才少年、メンタリスト破れる、脅威の読心力…心理系の世界だとものすごい有名人だな。」



逆に言えばこの学校の心理部、俺がこれから入部する部活にスターがいることになる。


「まさかここまで有名な人だとは思ってなかったな…」


海先輩はとりあえずすごいということがわかった。


(海先輩がすごいことはわかった。じゃあ他の部員は?)



そうだ。



一度見始めたらやめられない。


俺は興味本位で「羽山 花音」と検索した。


もともとあの先輩が心理をテーマにした物語を書いているのは知恵先輩から聞いていたし、書店でたまに見かけたことがあるほどだった。


もちろん検索からヒットしたものは小説でいっぱいだ。


「花音先輩って本気で小説に乗り組んでるんだな…」


普段会話にもあまり参加することなく熱心に何かを書いているのはこの小説のためだったのかと今気づく。


花音先輩が出したであろう小説はどれも人気で高い評価がつけられている。


「書店に置いてあった数からして分かってたけど、めちゃくちゃ人気じゃん…」


花音先輩の小説は出すごとに人気ランキングの上位を抑え、熱烈なファンが湧くほど人気らしい。


「うちの心理部って有名人しかいないんだな…本当にすごいな。」


見ているだけでも楽しい。


ただそれ以上に『身近にプチ有名人と一緒にいる』ということを考えるだけでテンションは自然と上がってくる。



「そういえば、部員二人は調べたけど…」


唯一調べていない人がいる。



『亜矢乃 智恵』



この有名な部員二人を置いて心理部トップの座を持つ部長である彼女の正体が知りたくなった。


「テレビ出演に引っ張りだこの海先輩、熱烈なファンを持つほどの実力小説家の花音先輩、この二人を抜かして部長になったのなら、何かすごい実績でも持っているのかな…」



考えるよりも調べた方が早い。

俺はすぐに部長の名前を打ち込んだ。



「亜矢乃 智恵」



しかし、出てきたのは海先輩が特集されてた番組のインタビューなどにチラッと出てきた智恵先輩の姿だけであって、智恵先輩が主となった動画やサイトを見つけることができない。


「まさか、部長が一番実績がないパターンなのか!?」


それだと海先輩や花音先輩が智恵先輩を辺な呼び方するのにも納得がいく…


「部長に限ってそれなのか…?」


ここまで凄くいい実績を見てきたのに、最後になってオチがないのは後味が悪い。


全力で智恵先輩の実績を探す。





しかし、


いくら探しても部長の実績は見当たらなかった。



「部長、まさかの部員よりも実力ないパターンなのか…」


若干ガッカリした自分もいるが、信頼の厚さや他部員の個人主義的な考えを含め知恵先輩が部長に推薦されるのも納得がいく。


(たしかに今思えば俺の心を二回読もうときた時も外していたな…どっちかというと海先輩の方が洞察力が優れていたし。)



悲しいことに部長が実は好成績という証拠を探そうとしても出てこないのが現状だ。


「じゃあなんで部長はあの部員二人を差し置いて心理部トップにいるんだ?」


素朴な疑問だが、ここまで先輩方の実績を見てどうしても引っかかる点がそれだった。


(二人が無理矢理智恵先輩に部長の座を押し付けたというとかも考えれるが、二人ともが相当優秀な成績を残している中でそんな事ができるのか…?)


もう一度「亜矢乃 智恵」で検索しようとした時、関連ワードに何やら気になるものがあった。



「亜矢乃 智恵 財閥」



(なんだこれ、財閥?)


意味もわからないままその関連ワードをタップする。


検索したその言葉から一番上にあるサイトには『あの財閥嬢は有名な心理部の部長!?』

という見出しがあった。


俺は迷うことなくそのサイトを開く。





「おいおい…嘘だろ?」


そのサイトに書いてあるのは、

『亜矢乃財閥のお嬢、亜矢乃 智恵は一年生の時に心理部を発足、部員を集めて今では部長として頑張っている』

という記事だ。


「智恵先輩って大金持ちの子だったのか!?」



全く想像がつかない。

いや、想像できない。


(まぁそれでも見た目が全てってわけじゃないからなぁ…)


あんな無邪気でフレンドリーな智恵先輩が実は財閥嬢だったなんて、事実を知った今でも信じがたい。


(いや、このサイトが嘘のことを言っているのかもしれない。)


あくまで取り入れたのはネットのお話。海先輩の実績も、花音先輩の実績も、本当のことかどうかはわからない。



「知恵先輩に直接聞くのもあれだし、また海先輩と話す機会があったら聞いてみるのもアリか…」








もともと謎しかない心理部は、先輩の過去や功績を含め、さらに謎に包まれるのだった。

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