第11話 繰り返す思考と至近距離

俺は、どうしてこんなことになっているのだろうか……


「それじゃあ壮太くん。行きましょうか。」


「はい、わかりました。」



俺は今日、この休日の日に、

黄泉菜とショッピングモールに来ていた。


どうしてこうなったのかは二日前、最後の部活見学の時に起こった。








「あ!そういえば、壮太にやらせたい事があるんだった。」


部活も終わり、もう帰るというところで海先輩から提案された。


「壮太と黄泉菜はほぼ心理部で確定してるんだよな。それなら少し頼み事をしてもいいか?明日か明後日の間で買い物をして欲しいんだが。」


「…はい?」


驚く俺を軽く無視して海先輩は話し続ける


「買い物してもらうのは部室に置くことのできる大きめな棚だ。部員数が増えるとこの部活にも置いておかなくちゃいけない物も増えてくるだろう。」


「まぁ、たしかにそうですね。」


『しかしなぜ俺が買い物を?』と、言おうと思ったが、そこには触れないでおこう。


「お前、その黄泉菜って子と仲良いらしいじゃねぇか。智恵から聞いたぜ。」


智恵先輩、余計なことを言ったな…


「そんな、仲良いとかそーゆーわけじゃ…」



仲が良いと言うのか何というのか…

実際俺と黄泉菜は『心が読めない人』という繋がりで関わってきた。


じゃあその関係は仲が良いと言っていいのか…?


「まぁとりあえず買ってきてもらえるとありがたい。他に用事があったりするならやめるが、アホ部長と小説バカに頼んでもどうにもならないと思ってな。」


アホ部長と小説バカ…知恵先輩と花音先輩だと思うが、海先輩はそんなふうに思ってるのか…


「そうですか…わかりました。学校に持ってくるのが困難なので買ってくるとしたら組み立て式になりますが、それでもいいですか?」


「そこは任せる。もし組み立て式ならあの二人に任せておけばなんとかしてくれるだろう。」


海先輩にとっての部長と花音先輩に対する呼び方がすごく気になるなぁ…


「じゃあよろしく頼む。」


海先輩に言われるがまま、断れない俺は黄泉菜に事情を話して買い物へと行くことになった。







そして、現在に至る。


「壮太くん。」


「はい、どうかしましたか?」


久しぶりの会話すぎて言葉が自然と丁寧になる。


…もともと丁寧だったのは気にするな。


「部活、心理部に入部するって本当?」


黄泉菜からの質問は意外にもに素朴な疑問だった。


「はい。まだ登録用紙には書いてないんですけど、一応そのつもりでいます。」


「竜くんはどうするの?」


「竜は…どうだろう。けど俺は竜にどうこう言って行動を縛るようなことはしたくないからなぁ。」



行動を縛らない



羊くんに喧嘩を売られてわかった。

たとえ羊くん一人の意見かもしれないが、その意見は立派な〝第三者からの視点″だ。


第三者に不満を感じさせた以上、直したいとは思っている。



もちろんたくさんの人の不満を聞いて解決しようと努力するなんてできるはずがない。


しかし、羊くんのように行動に出してくれるのは明らかに俺が『してほしくないこと』をしているためである。


考えれば考えるほど自分の悪いところは出てくる。けど、とりあえず今は第三者からもらった課題をこなしていこうと思う。




「とりあえず…家具が売ってるところ行きます?」


ずっと目的地もないのに歩き回っても意味がない。

とりあえず俺と黄泉菜は家具の売っている場所に向かって歩き出すのだった。




渡された部費は五千円、これで頼まれたのは『とびきりシンプルで使いやすい棚』というのが海先輩からのオーダーだ。





俺たちは家具店に着くなり、いろいろな棚を見た。


「こんなものはどうですか?」


「こっちの方がシンプルな気がします!」


「でも容量としてはこれの方がいいんじゃない?」


「でもそれは組み立て式じゃないね。」


話し合いながら棚を決める。

二人でたくさんのところを回った。


お昼も二人で食べて、寄り道をしたりして、俺にとって素晴らしい一日になった。


だけどなんだろう、これでいいのかと考える自分もいる。


「そういえば部活見学の最終日に心理部をするけど、また智恵先輩が俺の心を読もうとしていたんですよね。」


ほんのちょっと呟いた程度の俺の話を黄泉菜は拾って質問する。


「それで、またやってもらったの?」


「やってもらいました。ですがその時も正解とは言い切れる答えじゃありませんでしたね…」


「そ、そう。それなら良かったわ。」


…何がいいのかわからないが、黄泉菜は意外と上機嫌なので何も言わないでおこう。


「やっぱり俺の心って読めないんですかね…」


「そんなことないわ!」


黄泉菜は全力で俺の言葉を否定する。


「私は確かに壮太くんの心が読めない。けどいつか壮太くんの心を読んでみせるわ。」


黄泉菜の言葉はしっかりとした重みがあり、本当にそう思っているみたいだ。


しかしここにきて思うことは、


「もし読めるとして、俺の心を読んでどうするんですか?」



その言葉の返答に黄泉菜は若干答えるのに苦戦し、

「…読めてから話したい。その時はその時で…」

と、俺の問いを先延ばした。



黄泉菜は俺の方を見ない。

しかし、黄泉菜は耳を微かに赤らめていた。


「あ、今度はこっちの家具屋を見に行ってみましょ!?」


黄泉菜は自分の感情を隠すかのように部室の棚探しに戻る。

たしかに歩くスピードは速くなってた。



(…黄泉菜の考えてることって本当になんなんだ?)


自分でも薄々気づいているが、俺は鈍感なんだって時々思う。

俺は黄泉菜の行動がわからないまま、黄泉菜の後をついていった。




「これはどうでしょう…?」


数時間を経てようやく見つけたのは意外とシンプルで大きめな、組み立て式の棚だった。


「これいいですね!容量も結構入れることができて…海先輩の要望通りです!」


値段は約四千円、海先輩からもらった部費の五千円を使っても余裕で買える値段だった。


「これいいと思います!どうしますか?」


「購入しちゃいましょう!」


ようやく部室に置く大きな棚を購入することができた。


(組み立て式だから組み立てとかは先輩に任せよう)





購入したものの、持って帰るのが面倒くさい。


「これ…どうしましょう。」


「あー、、僕がとりあえず次の部活まで管理しておきましょうか?」


「いいの!?ありがとう。助かるわ。」


次の部活までは俺が管理するということで俺が棚のパーツを持って帰ることになった。





帰り途中、ふと気付いた俺は黄泉菜に質問してみた。


「黄泉菜さん、僕の心っていまだに読めませんか?」


黄泉菜は一旦立ち止まって考えたのちに、歩き始めながら答える。


「そうだね…みんなの心の声は聞こえるんだけど、やっぱり壮太君の声だけ聞こえないの。強い意志があると聞こえたりする時もあるんだけど、壮太君に関してはそれすら聞こえない感じ。」


「試しに、今僕がどんなことを考えてるか読めますか?」


「今?そうね…『…………トイレ……』」


「やっぱり読めないんですね…」


やはり俺の心は読まれにくい。


前回智恵先輩が俺の心を読んだ時も、今回黄泉菜が俺の心を読んだ時も、言われてみればそんな感じがするだけであって決して合っているとは言い切れない答えが飛んでくる。


「ごめんなさい。やっぱり読めないわ。」


「そうですか…多分他の人の心はもっと的確にわかるんですよね?そう考えると黄泉菜さんにとって僕は本当に例外なんですね。」



普段から人の心が読めていたのに急に読めない人が現れたら確かに動揺するよな…


「ちなみに、壮太くんは今何を考えてたの?」


「そうですね……」



『とても楽しい1日だった。欲を言えばもっと一緒にいたいなぁ』

その言葉を口に出すだけなのに、ただ口に出せばいいだけなのに、俺は心の中にいる偽物の思考に流される。


「一緒に棚を探してくれてありがとう。かな。」


「なにそれ。親切なのか律儀なのか…やっぱり壮太くんは面白い人ね。」


フフッと笑う黄泉菜に俺は尊さを覚えるのだった。







「あ〜、やっと帰れたぁ〜」


重たい荷物を両手に持ちながらやっとの思いで家に着く。


とりあえず次の部活までは用がないので学校のカバンの隣に置いておく。


(楽しかったなぁ。黄泉菜さんとの買い物。)


黄泉菜とは部活見学からあまり話してこなかったので、今日でちょっと距離が近くなれた気がした。


(いや、でも待て…これって……デート判定になるのか!?!?)


俺はとんでもないことに気づき、恥ずかしさのあまり自分のベッドの上で顔を赤らめて転がった。


(いや、まだ大丈夫…大丈夫…多分問題ない…)



そんなことをしているとスマホからLINEの通知音が鳴る。

手に取ってみてみると黄泉菜からだった。


「今日はありがとう。また、どこか一緒に行きたいね。」


(…棚を買いに行っただけなのに、うあぁ反則だろ。)


またさっきのデートという言葉を思い出して恥ずかしくなりながらも何回も読んでその喜びを堪能し、

(こちらこそ!海先輩の急な話で誘って悪かった。次どこか行く時はちゃんと計画たてようね。)

と文字を打つ。


「これで…いいよな?」


若干文がおかしくなってしまったような気もするが、まぁ伝われば大丈夫だろう。


俺はそれを黄泉菜に送信、黄泉菜からはネコの『OK』スタンプが返ってきた。





こうして、部活見学の時に少しだけ空いた距離は、またちょっとだけ縮まったような気がした。

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