第4話 謙虚な思考と恐怖心
学校が始まって数日がたった。
俺も授業形式になれたし、竜が人をたくさん惹きつけるので俺自身も一人で過ごす事は比較的少なくなってきた。
そんな中、まだ決めていない『アレ』がやってきた。
「今日から部活見学週間です。まだ部活で悩んでいる人も、ちょっと新鮮な部活に興味がある人も、ぜひ一度見てみるのもいいかもしれませんね。」
笹原先生が朝の諸連絡で話す。
そう、部活だ。
自分自身何がしたいという欲があまりないので部活にはあまり興味がわかなかった。
中学生の時はテニス部に入っていたが、あまりいい成績は残せずに引退してしまった。
(もう一度テニス部に入ることもありかもしれないけど、高校生のテニスって化け物だからなぁ)
中学生の時に高校生の試合を見に行ったが、本当に化け物ばかりだった。
玉は速い、めちゃくちゃ体力いる、正直俺ができそうな感じではなかった。
真剣に悩む中、後ろからいつものように体が伸びてくる。
「なぁ壮太。お前どこの部活にするか決めたか?」
「絶賛悩み中。あまり運動神経良くないから運動部はそこまで視野に入ってないかな。」
「なんだよお前結構運動できそうな体してるのにもったいねぇなぁ。」
竜はいつものようにちょっとトゲのある言葉をポンポン放ってくる。
「運動のコツを掴むのが苦手なの。竜はどうするんだよ。」
「俺か?そうだなぁ、バスケかサッカーかテニスか…やっぱり迷うなぁ」
「ガッツリ運動部だね。」
思った通り運動部希望だった。
がたいがいいのは目に見えてわかるのに加えて、竜とよく一緒にいる友達とミニゲームをしているのを帰り際に見た時平気でバク転していたのを目撃してしまったから運動神経だけはずば抜けてすごいと言える。
「壮太、そういえば中学の時部活何してたんだよ。」
「テニス部だったよ。まぁあまりいい成績は残せなかったからもういいかなって」
「お前テニス部だったのかよ!それなら都合がいいじゃねぇか!俺もテニス部に入ろうか悩んでるんだよなぁ。」
「…人の話聞いてた?俺テニス部はもういいかなって思ってるんだけど」
人の話をあまり聞かないのが竜の悪いところだ。
でも実際のところ竜がテニス部入るなら俺も頑張ってみようかなと少し考える。
部活は自分の好き嫌いがあったりするけれど、一番みんなが決めてるのは多分『仲のいい友達がその部活に入るから』という単純すぎる考えだと思う。
そして実際俺もそう思っている。
実力は初心者でもやり続ければついてくるはずだ。
実際、高校生から初めて大きな大会で優勝してる人もいる。それなら尚更仲のいい友達と同じ部活に入った方が良いだろう。
「そうと決まればテニス部を見学しに行くか!今週いつなら行ける?」
「もう俺の考えは無視なんだね。まぁ見に行くなら明日とかのほうがいいかな。今日はどんな部活がどこでやってるのかを見ておきたいし。」
「了解!明日絶対な!」
結局竜の思惑に乗せられて話が進んでしまった。この感じだと多分高校もテニス部になりそうだ。
そう思っていた。
(あ、LINE来てる)
帰りの時間、電源を落としていたスマホの電源を入れるとLINEが来ていた。
(こんな時間になんだ…?広告かなぁ、でも俺広告のやつ全部削除してるし…)
中学生の時に仲がよかった子もそんなに頻繁にLINEを返してくる感じの子じゃなく、高校の子のLINEは未だに竜のですら持っていない。
誰か予想できないままLINEを開くと、一番上に黄泉菜の名前があり、メッセージが届いている。
(あ、そういえば俺、黄泉菜さんとLINE交換したんだ。浮かれすぎて忘れてた。)
屋上に呼び出されて黄泉菜の能力を知った日、俺は黄泉菜からの連絡先交換に応じてLINEを交換していた。
その日の夜は一目惚れした子から連絡先交換を申し込まれたことに喜び、LINEが来た時には少しだけ既読をつける時間をずらしたりする卑劣な行為をしていた。
今回もLINEが来てることに嬉しさを覚えてニヤニヤしそうになったが、流石に学校で教室内だったということもあって片手で口の表情を隠しながら黄泉菜とのトーク画面を開いた。
側から見ればスマホを見ながら片手で笑みを抑えるただのヤバいやつだ。
今回竜が早めに帰ったのが幸いだ。
もしこれで竜がいたらまたいじられるところだった。
黄泉菜とのトーク画面は昨日、しょうもない話で盛り上がったのでスクロールできるくらいになっている。
その中で、一番下の最新のメッセージに目を向ける。
「今日から部活見学週間だね。今日もしよかったら一緒に部活見学しない?私、ちょっと気になった部活があるの。どう?」
文は若干途切れ途切れで、句読点を多様に使っているが、今の俺にはそれすら可愛らしく見える。
周囲を見渡すが、黄泉菜の姿はない。
俺は黄泉菜に返信する。
「行きたいです。とりあえず屋上に集合でいいですか?」
すぐに既読がついた。おそらくトーク画面を開いたままにしているんだと思う。
すぐに返信がきた
「そういえば集まる場所を言ってなかったね。いつも通り、屋上で待ってる。」
(もうこんなの俺に惚れてるじゃん!)
そんな感じがするだけだ。実際どうなのかは中学校生活で青春をしていない俺にはよく分からないものだ。
だが、こんなに異性とLINEしたこと自体が初めてだった俺にとって今この状態は天国みたいなものだった。
急いで帰る支度をして屋上に向かう。
気分上々のまま屋上への扉を開けたが、そこにいたのは多分同級生の男の子だった
(あ、あれ?)
男の子も俺が扉を開けた音で気がつき、俺の方を向く。
「…キミ、誰?」
男の人…それも、俺の知らない人。
真っ黒でちょっと長い髪、冷酷な目、ちょっと小さい身長は、俺に何かしらの恐怖を与えてきた。
(な、なんだこの感じ…すごい威圧感というか、距離があるのにすごい視線の圧を感じる…!)
どうやら黄泉菜も来ていなさそうだ。
俺は目の前にいる男に対して慎重に話す
「…僕は有馬壮太。1年A組の出席番号2番。」
「ふーん、そう。」
男の子は聴こえるかどうかわからないほどの小さな声で返事をしたのちに、そのまま俺を無視して遠くを眺め始めた。
目線から逃れられたはずなのに、何故か体の緊張が抜けない。
(なんなんだあの人、俺のクラスにはいなかったから他クラスの人だよな…それにしてもなんだこのピリついた嫌な空気は……)
ぼーっとその男を観察していると屋上扉の四角からフッと女の子が現れ、俺の手首を掴んだと同時に屋上の扉を閉める。
「うわっ!」
俺は訳のわからないまま扉の中に引き込まれ、そのまま無抵抗に倒れ込んだ。
一緒に倒れ込んだ女の人はそのまま俺の上に乗って俺の口を手で押さえる。
完全に抵抗できない馬乗り状態だ。
「静かにして!」
状況がわからない俺はとりあえず上に乗っている女の子が誰か知りたくてつぶっていた目を開けると、そこには息を荒げた黄泉菜がいた。
「も、もみままむ!?」
俺の口は押さえられているので上手に話せない。
黄泉菜は何かを気にするかのように屋上の扉の方を向いたのちに、俺に小さな声で話した。
「あの男の人、壮太くんの知り合い?」
黄泉菜はゆっくりと俺の口から手を離す。
「い、いえ、今さっき顔合わせしたのが初めてです…」
「そう…それならよかった。」
黄泉菜は「いきなりこんな乱暴なことしてごめんね」と謝りながら、ゆっくり体を起こして座り俺に手を差し出す。
俺はその手をとって体を起こす。
「えっと…なんだったんですか…?」
正直俺には何が起こったのかわからない。
黄泉菜がどうしてこんなに焦っているのかも、あの人に対して黄泉菜が敏感なのも。
「ごめんなさい。いきなり倒したりして…」
「それは心配しなくても大丈夫なんだけど…何かあったんですか?」
黄泉菜はもう一度扉の方を向いて何かを確認したのちに、小さな声でゆっくりと話し始める。
「本当に倒してしまってごめんなさい。私、壮太くんとLINEしたのちにすぐに屋上に向かったの。けど、扉を開けたらあの人がいて…」
「あの人は黄泉菜さんも知らないんですか?僕はてっきり黄泉菜さんが呼んだ人なのかと…」
すると黄泉菜は急に青ざめる。
「そんなわけないじゃない!あんな恐ろしい子…私も知らない。」
「恐ろしい?確かに威圧感みたいなのは感じましたけど、それ以外は特に…」
「…そうよね。心を読めるのは私だけですもんね。順番に話します。」
黄泉菜はどこか不安を感じているように、 虚ろな目をしていた。
「屋上の扉を開けた私はその男の人と目が合いました。多分壮太くんも目が合ったならわかるはずだけど、すごい威圧感を感じたの。」
「それは僕もわかりました。結構な距離があったのにすごい視線の圧みたいなのを感じました。」
「それで私あの子の心を読んでしまって、そしたら…ごめんなさい。なぜかそこからが…思い出せないの。」
そう言って黄泉菜は痛そうに頭を抑えた。
「大丈夫ですか!?そんなに無理しないでください。とりあえず保健室に行って休みますか?」
「何が言いたいのかはっきりしなくてごめんね…」
俺は黄泉菜に肩を貸して立ち上がり、そのまま肩に手をかけながらゆっくりと保健室へと向かった。
「有馬壮太。面白い人だね。」
屋上でただ一人、夕日で赤くなった雲を眺めながら呟く。
「これはまた、面白いモンを見つけちまったなぁ!!!」
下校時刻の真っ赤な空の下で…
男は屋上で不気味な笑い声を響かせるのだった。
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