第3話 天才思考と大例外

人の心が読める……皆さんはどう思いますか?


「めっちゃいいじゃん!何考えてるか読み放題ってことでしょ!?」とか、「最強スキルじゃん、人生イージーゲームだろ!」とか、普通ならこう考えるでしょう。

そんな単純な話じゃないんです。


読みたくなくても人の心の内が読めてしまう……醜さ、愚かさ、欲にまみれた考え一つ一つが大きな一つの言霊になって罵声として浴びせられる———そんな感覚なんです。



そんなことをなぜ知っているのか?それは、私が読心能力者だからです。

石原黄泉菜、15歳。私は———人の心を読む特殊能力を持っています。






私が人の心を読めるようになったのは、私がまだ幼い頃、小学二年生のときでした。

最初はぼんやりとした感覚で、妙にみんな正直なことばかり言うなぁ。ぐらいの感覚でした。喋っている声は耳から入ってきますが、結局脳内で言葉が処理されるので心を読んだ時の聞こえ方とほぼ同じなんです。


つまり、心が読めるようになった頃はどの言葉が喋っているもので、どの言葉が読心能力によって読まれたものなのかわかっていませんでした。



本当に人の心をが読めるんだと確信したのは小学四年生のときです。


喋っている声なのか、心の声なのか、判断がつかなかった私は色々な失敗をしました。

他の人を悪く思っている人に対して口論して喧嘩になったり、自分のことを嫌っている人を避けたりしたせいでますます仲が悪くなったり……


その時初めて『心を読む』ことができることを認識しました。本当はもう少し早く気づいていればよかったんですけど、相談相手もいるはずがなく、誰に話しても「そんなことない」で済まされるのが嫌で、結局自分で気づくまでに時間がかかってしまいました。



それからというものの、この読心能力は無くなることなく、私自身も「あぁそういうものなのね」と理解するようになりました。


読心能力だと分かってからは理解するのも早かったです。心を読みやすい(心の声が丸聞こえ)人もいれば、そこまで深く考えていないと心の声が聞こえないという人もいました。


ただ、一つわからないこととしては、自分自身この能力の制御方法を知らないことです。どのようにして心を読んでいるのかもわからないし、もちろん医者を頼っても「わからない」で終わってしまいます。


そんな不可解な能力を持ちながら、今まで苦労をしながら生活してきました。




そして現在に至ります。

今は読心能力を上手に使っています。正直なところオン・オフの切り替えができるようになるのが一番なんですけど、高校生になってもその制御の仕方はわかりませんでした。




高校生活をいいものにするためにも、私はこの能力と共に生きていくしかないんです。




だからこそ初日から自己紹介という読心能力が十分に発揮される場面でほとんどの人の心を読み、上手に接していくのがこの能力との付き合い方だと考えるんです。



初日に告白してきた男子の心も読んで、綺麗に断りました。考えていることが外道だったので。

こういう時ばかりは読心能力があってよかったなとも思います。



ただ、最近になって少しずつ気になっていることがあります。

それは『年齢を重ねるにつれて人の心を読む力が強くなっている』ということです。


一見いい話のように聞こえますが、制御の仕方がわからない以上どうすることもできないのが現状です。




そんな中、私は一人の男子生徒と出会いました。

学校が始まってから5日が経った、初めてクラス全員が揃った日のことです。



5日も経てば、私はみんなの心を読んでどんな人なのか見当をつけて、趣味が合う子と親しくなっていた頃でした。



有馬壮太——初日からインフルエンザで休んでいた人でした。


特にこれといった特徴もなさそうな、平凡な男子生徒。真面目で優しそうで、でも人と絡むのを苦手としてそうな人だなって印象でした。




ただ……どこか腑に落ちない感情に苛まれたんです。




(あれ……普通の人なら心の声が聞こえてもいい頃合いなんだけど……もしかして読みにくい人なのかも。)


色んな人の心の声が滝のように脳内に入ってくるんですが、肝心のインフル少年———有馬壮太くんの声だけ何故か送られてこないんです。



そんな不思議な現象にそわそわしていると、いつの間にか自己紹介の流れに切り替わっていました。

彼が教壇に立ち、一人独立した場面ですら心の声が聞こえないのです。




「僕は出席番号2番、有馬壮太です。出身中学校は谷張中学校です。」


結局壮太の心の声は聞こえることなく自己紹介が始まりました。

もちろん私は驚きすぎて呆然としています。


(え!?嘘でしょ?)



だんだん人の心が読める能力の力が上がっている中での出来事で正直私もびっくりしました。


(なんで!?なんで聞こえないの?もしかして既に聞こえてる……?でもそれらしい声は聞こえないし……)


私もこの時ばかりはすごく焦りました。

普段は読まなくていい人の心まで読めるはずなのに、自分が読もうとしてる人が全く読めないなんてことは初めてな出来事でしたので。


「あまり人と話すことが得意ではないので、仲良くしてくれると嬉しいです!よろしくお願いしまづっ……ぁっ、あっ……」


(か、噛んだ!?)


壮太はクラス全員の前で顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにしているけど、問題はそこじゃないんです。

普通ならここで『恥ずかしい〜噛んじゃった〜』みたいな心の声が聞こえてもおかしくないのに、どうしてもその心の声が聞こえないんです。



(なにこの子……もしかしたら、本当に心が読めない子なのかも?)


私の能力が心を読むのだとしたら、もしかしたら壮太くんは心を読まれない能力を持っているのかもしれない。


(ここまで全く心が読めないなんてことはいままで無かったし……私と同じ何か特殊なものを持っているのかも。)


初めての出来事に驚きこそしましたが、私自身こういう特殊能力持ちなので例外の一つや二つあるだろうと考えたらなんとなく落ち着きを取り戻すことができました。


ただ———


(有馬壮太くん……この人になら私の能力のこと、話してもいいかも。)



自己紹介が終わり、そそくさと自分の席へと戻る壮太と目が合った私は、『これからよろしく』の意を込めて微かに微笑みました。








その後のことは私が考えた予定通りに話が進みました。

屋上で待ち合わせをして私の特殊能力のことを話し、協力……というほど拘束的な話ではないですが、お互いによろしくといった形になりました。



ただ、私自身相手の心が読めないのは想定外なもので、壮太くんが何を考えているのか分からず話もまともにできませんでした。


その様子を見て壮太くんが気を遣ってくれたそうで、


「えっと……黄泉菜さんから見たら僕は他の人とは違った特別な人になると思うんですけど、……その、な、何か気をつけた方がいいとかあります?」



「そ、そんな気を遣わなくても!私だけの問題なのでそんな気にしなくてもいいですよ。」


「でも、流石にこの話を聞いた上で白々しく生活するのもなんか嫌じゃないですか。他の人には多分話せる内容でもないですし……僕が例外だったからこそ相談できた話でもあると思うので、手伝えることがもしあるのなら協力したいなって……」


「それなら……」


そう言って私はスマホをポケットから取り出しました。


「連絡先……聞いてもいい?」



……正直恥ずかしかったです。

心が読める人であれば「仲良くなりたいから連絡先欲しいなぁ」みたいな声が聞こえるので素直に連絡先交換ができるんですけど、今回ばかりは本当に何も分からない状態——もしかしたら断られる可能性もあり得る中での行動でしたので一生に一度レベルの勇気を振り絞った気がします。


……心が読めないのはこんなにも大変なことなんですね。



「あ、え、いいんですか!?」


「……ダメでした?」


「全然ダメじゃないです!むしろ僕がお願いする方ですよ!そもそも今日が初登校だったからまだ誰とも連絡先を交換してなくて……これから一年間、よろしくお願いします。」



硬く身構えていた割には歓迎されたので予想外だったんですが、連絡先の交換ができてひとまず安心しました。




「あ、えっと、、じゃあ僕はこれで。また連絡しますね!」


「私こそいきなり呼び出したり自分の話ばっかり聞かせたりしてごめんね!ありがとう!」




これで、初めて心が読めないの男子生徒——有馬壮太くんとの初対面が終わりました。


















「今日は本当にいろんなことがあったわ……なんか思い出しただけで疲れてきちゃった。」



いきなり現れたインフル少年

そんな子がまさか心が読めない人だったなんて……


「なんだか楽しみ。」


私はボソッと呟いて、部屋の電気を消すのでした。

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