2021/01/27 点対称にうってつけの日
本名は
Zは逆さにしてもZである。これは点対称というものだ。しかし、90°回転するとNにもなる。さらに、一捻り加えるとSにも見える。
だから《Z》みたいな男だった。
でも、少し気弱なところがあるから《z》な男の子かもしれない。
何を考えているのか、すぐに分かるときもあれば、まっすぐに考えても分からないことがある。今がその、分からないときだろう。彼は私の方ではなく、窓の方を見ている。つまり私は彼の横顔を、側面を見ているというわけだ。
横顔を見ているときは、もう片方の側面を見ることはできない。月面みたいだ。真横を向いた月はきっと三日月だろう。三日月なら線対称かな。
「アナタさん、点対称と線対称、どっちが好き?」
その横顔が、私の思考を読んできたかのように訊ねてきた。
因みに、私の名前は
「うーん」上に向きながら考えた。「線対称かな。ほら、私の名前って漢字で書くと線対称でしょ」
「ふぅん」膳所くんは、私の方を向き直ると意外そうに言った。「アナタさんって、意外とそういう趣味なんだ」
「何よ。膳所くんの《善》って名前だって、線対称じゃない」
彼の言い草に少し腹が立って言い返してみた。
「まぁ、そうなんだけど……、そうであっても、ちょっと困るというか。いや僕はどちらでも構わないんだけど」
などと要領を得ないことを言う膳所くん。
端から見たら私が彼を困らせているように見えたかもしれない。そういうことは前にもあった。
廊下で膳所くんに両手を押さえられたことがあって、そのとき周りの人は膳所くんが私を襲っているように見えたらしくて騒然となった。ホントは、私が彼を襲おうとしたのにね。これが視点の違いなのかな。膳所くんは気弱な癖に力だけは男の子っぽくて、そのときはちょっと驚いちゃったな。
で、話を戻して、
「どちらでも構わないって、膳所くんが最初に点対称と線対称どっちがいいって訊いたんじゃないの」
「そう。そうなんだよ。これは他言無用なんだけど……」
私の沸々と湧き上がる苛立ちも天地無用の姿勢制御が必要なことを膳所くんに伝えておいた方がいいのかな。
「つまるところはだね、穴田さん」
膳所くんは学生服のポケットから何かを取り出して、私の目の前にそれを挙げる。
片方は遊園地のチケットで、もう片方は少し離れた場所に建つ天文台ののチラシだった。
「明日は見事な快晴らしいから、行くならどっちって意味なんだ……」
目の前に出てきた二種類の紙をじっと見比べた。
ああ……!
合点がいった私はそこから一枚を取った。
「こっち!」
天体ショーと戦隊ショーね。
お題:【z】をテーマにした小説を1時間で完成させる。
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