第98話 エピローグ7 ずっと一緒に

 今日は最終日、明日にはアイの仕事があるので、今日中に異世界(ヤレス)へと戻らなくてはならない。

 転移魔法でリクの家には帰られるので、日帰りでも問題ない。

 岡山駅からバスを乗り継ぎ、一行が向かうのは湯原温泉。

 リクは岡山に行くとなった時に、どこかいい温泉地がないかとアイに尋ねたところ、ここを薦められた。


「アイは行ったことあるのか?」


「うん、一回だけだけどね。温泉地って感じのいいところだよ。砂湯もあるし」


「砂湯とはなんじゃ?砂の温泉なのか?」


 ルーシーが聞きなれない言葉に反応する。


「えっと、たしか温泉が砂と一緒に噴き出すからだったと思う。無料で入れる混浴露天風呂なんだよ」


「混浴って男女一緒に入るあれかしら?ちょっと恥ずかしいかも」


「じゃあお父さんも一緒に入れるね!」


 エルが一応乙女らしく恥じらい、フーはいつも一緒に入らないリクと温泉に入れることが嬉しいようだ。


「うん、でもお金はかかるけど女性は湯浴み着があるから大丈夫。リクはタオルでいいでしょ?」


「……そうだな」


 女性陣が全員湯浴み着を来ているなか、タオル一枚というのは恥ずかしいが、状況的に入らないとは言えそうもない。


 やがてバスが湯原温泉に着くと、五人はひとまず散策をする。

 湯原温泉ミュージアムではスリッパ型のラケットを使った卓球を楽しみ、はんざきセンターではオオサンショウウオを見て楽しむ。


 そして目的地の砂湯の方に歩いていくと、それを見下ろすように大きな壁、湯原ダムが姿を表す。


「ねえねえ、お父さん。あのおっきな壁はなに?」


「ああ、あれはダムだね」


「ダムとはなんじゃ?」


「大きな城壁みたいね」


「えっと、ダムっていうのは……」


 リクはダムの説明をしようとするが、上手い説明が思い付かずアイを横目で見る。


「ダムは水を貯めるものよ。だからあの壁の向こう側は、大きな湖になってるわ。それでダムの目的なんだけど、洪水にならないように川に流す水の量を調整したり、農業とか発電とかに使う水を貯めておいたりするの」


 相変わらずの知識を見せるアイに一同は感心する。

 アイがいてくれることで、家族のバランスがかなり良くなったとリクは感じる。

 エルとルーシーは基本的に研究者気質なので、気になることが出来たら他のことが手がつかない。

 その点、アイは周りのことをよく見ており、上手く回るように調整してくれる。騎士団で重宝されているのも納得だ。


 そして目線を下の方に移すと、露天風呂が目に入ってくる。平日なのでそこまで人は多くない。

 砂湯の横には簡易的な脱衣所があるので、女性陣は事前にレンタルしておいた湯浴み着に着替え、リクは全裸にタオルだけになる。


「……寒い」


 流石に魔法で緩和しているとはいえ、十二月の寒空のもとタオル一枚では寒すぎる。

 リクは女性陣を待っていようかと思っていたが、堪らず湯に浸かることにする。


 温泉に浸かるには順番があるようで、まずは美人の湯の湯尻に掛け湯をしてから入る。

 次に子宝の湯、長寿の湯の順番で入るとのことだったので、一先ず美人の湯でリクは女性陣を待つ。


 やがて脱衣所から女性陣が湯浴み着で出てくると、赤色の湯浴み着が色っぽく見える。


「あ、リク。ちゃんと順番に入ってるね」


 アイが感心したような口調で声をかけてくるので、リクは当然と言うように軽く手を挙げて頷く。

 先ほどリクがそうしたように、四人も掛け湯をしてから、美人の湯に入る。


「ふわぁ、温かい……」


 とろけるような表情を見せるエルに、思わず一同が笑う。


「エル、だらしない顔になっておるぞ」


「しょうがないじゃない、でも寒い中の露天風呂っていいものなのね」


「うん、私も気持ちいいな。お父さんも一緒で嬉しいし」


 リクの横にフーがぴったりとくっつく。


「そう言えば、こうしてみんなで一緒に風呂に入るのは初めてだな」


「あれ?そうなんだ、夫婦だから入るのかと思ってた」


 意外そうな声を上げるアイに、リクが困惑する。


「つまりアイは一緒に入るつもりだったってこと?」


「え?あー、うん、リクがいいなら」


 顔を赤らめながら、答えるアイにエルとルーシーが待ったを掛ける。


「アイ、遠慮せんでいいとは言ったが、妾が先じゃからな!」


「ちょっと、私が先に決まってるじゃないの!」


 口論を始める二人を見てリクは嘆息する。


「……ていうか本当に二人で入るの?何だか恥ずかしいんだけど……」


 嫁とはいえ二人で入るのが気恥ずかしく、できれば一人で入りたいとリクは思う。

 そういう気持ちで言葉にたのだが、四人からは別の受け取り方をされたようで、驚きの表情で見られる。


「まあリクがいいって言うなら、毎日一緒に入ってあげようかな」


 エルの言葉は明らかにおためごかしで、リクと入れるのを喜んでいる。


「あ、私も入る!」


 アイがここに来てかなり積極的になっているが、その顔は耳まで赤くなっており、温泉のせいではなさそうだ。


「もちろん妾も入るからな!」


 負けじとルーシーも声を上げるが、アイに先を越されたため、少し悔しそうな表情を見せる。


「私も入るよー」


 フーは相変わらず無邪気に笑っているが、いつの間にかリクの前に陣取って、背中をもたれ掛からせて、頭を撫でてもらっている。

 相手が愛娘のフーとなれば、三人は無理矢理引き剥がすわけにもいかず、どうやら今後一番の強敵となるのはフーだと認識する。


 そしてリクは四人が自分の意図とは違う受け取り方をしているのに気付くが、今さら訂正することなど出来そうもない。


「……うちの風呂狭いから……」


「「「「広げればいいじゃん」」」」


 逃げ道がないことを悟り、リクは天を仰ぐと、雲一つない空が広がっていることに今更ながら気付く。

 こうして自分を慕ってくれる家族に囲まれて、温泉に入れることの幸せを噛み締める。


「はは、夜だったらもっときれいだろうな……」


 その呟きに四人が首をかしげると、リクが嫁たちと娘の顔を見回す。


「じゃあうちに温泉作ろう!完成したらいつも家族一緒に入る、それでいい?」


「いいじゃん!頑張って作るわよ!」


「うむ、最高の温泉にしてやろう」


「私も毎日入りたいのに……休みの日には絶対行くからね!」


「楽しみだなー!」


 こうしてリクたちは戻ったら温泉を作ることにする。

 この先何があっても家族がずっと一緒にいられるように、願いを込めて。



※後書き

というわけで最終回でした!

処女作ということもあり、思うように書けず四苦八苦しましたが、

なんとか完結まで持ってくることが出来ました。

まあ嫁が三人になるから終わらせたと言っても過言ではありませんが……

続編の構想は今のところないのですが、あるとしたらもっとのんびりしたものになるでしょうね。

拙い作品ながらも最後まで読んでいただきまして有り難うございました。


あと2話、小説家になろうに投稿した番外編を、昼と夕方に投稿します。

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