第97話 エピローグ6 アイとのデート&プロポーズ
今日は朝早くから移動。目的地はアイの地元、岡山県だ。
五人は新幹線に乗り、岡山を目指す。
さすがにリクとアイが一緒にいて、三人が離れるのは不安なので、今日は一緒に移動する。
「私はいいよ。みんなの家族旅行についてきてるだけだし」
出発時のアイの言葉に四人は困ったような顔を見せる。
言い分としては正しいのかもしれないが、四人はすでにアイも家族だと認めている。
だからこそリクは決意する。今日きちんとプロポーズをしないといけないと。
「……どうしたもんかな」
新幹線から見える景色を眺めながら、思わずリクが独り言つ。
「どうしたの?」
隣に座るアイにも聞こえていたようで、顔を覗き込まれる。
席順は五人が横並びになっており、二人席の方には、リクとアイが並んで座る。
今さらながらアイはかなり美人なので、こうして顔を近くに寄せられると、リクは思わずどぎまぎする。
「え?ああ、いやどこに行こうかなって。岡山ってあんまり知らないからさ」
「ああ、そういうことね。じゃあ私に任せてもらおうかしら?」
拳で自身の胸をとんとんと二回叩きながら、自信満々にアイが言う。
リクの言葉は半分本当で半分嘘だ。本当に困っているのはプロポーズをする場所だ。
当初はベタでも東京のスカイツリーのレストランなんかがいいんじゃないかと思っていたが、岡山となるとよく分からない。
「じゃあ最初は倉敷に行こうかな、それから岡山市に戻ってホテルに行けばいいよ」
「倉敷って何があるんだ?」
アイが中空を見ながら、思い出すように観光地や名産品をあげていく。
「えっと、やっぱり美観地区かな?あとはジーンスが有名だし、瀬戸大橋もあるよ」
「へー、色々あるんだな」
「うん、岡山市よりも観光で行く人が多いと思う。たぶん美観地区が一番岡山で観光客が多いんじゃないかな?」
アイもすこし複雑な気持ちはありつつも、やはり地元に帰れることは嬉しいようで、リクに岡山の魅力を説明する。
やがて新幹線は岡山駅に到着し、リクたちは在来線に乗り換えて倉敷へと向かう。
「じゃあここから少し歩くからね」
アイに先導されて一行は歩きだす。もちろんリクはアイと手を繋いでいるが、やはり二人きりではないので、少しデート感は薄い。
「おお……」
美観地区のエリアに入ると、昔ながらの雰囲気を持った建築物や、なまこ壁がそこかしこに見られる。
電柱も全て地中に埋められているため、まるでタイムスリップしたような感覚になる。
「どう?いい雰囲気でしょ?」
「うん、ちょっと驚いたよ」
周りには観光客も多く見られ、確かに人気のスポットだと頷ける。
「アイはよく来てたのか?」
「ううん。二、三回くらいだよ。学校行事とかで来たくらいで、あんまり地元の観光地って行かないでしょ?」
「ああ、確かにそうかも」
リクも名古屋城に何度か行ったことがあるかと言われると、恐らく一回か二回だろうと思い返す。
二人は川沿いをのんびりと歩きながら、景色を楽しみ、気になった店に入って楽しむ。
エルとルーシーが気を利かせて少し離れたりするのだが、アイが三人を常に気にしているので、やはり二人きりという感じではない。
最初の頃からそうだったが、アイはとにかく人に気を使う。
子供の頃からの癖だと本人は言っていたが、もう少しわがままになってくれてもいいのにとリクは思う。
「あ、あそこ入りたい!」
アイが指差したのはパフェなどのデザートが有名な店だった。
昼食は怪しいデニムまんなど、軽く食べ歩きをしていただけだったので、リクも了承する。
「すご……」
メニューを見て思わずリクが絶句する。パフェに二千円ほどの値段がついており、普段こういう店に来たことがないリクには別世界だ。
「やっぱり岡山はフルーツが有名だしね。それをふんだんに使うと、どうしても高くなるよ」
「そっか、まあこんな機会も滅多にないしな」
そしてアイは白いイチゴのパフェ、リクはマスカットのパフェを注文する。
「本当は桃のパフェが良かったんだけどね、まあ旬じゃないし仕方ないか」
「アイって甘いもの好きだったっけ?」
あまりそんなイメージがなかったので、思わずリクが尋ねる。
「嫌いじゃないよ。だけどお菓子とかよりも、どっちかというと果物が好きかな」
「へぇ、やっぱり岡山県民だから?」
「まあそうだね、実家にもよく桃とか届けられてたし」
そう語るアイの表情は少し浮かないものになっており、リクが慌てて話題を逸らす。
「と、ところで岡山市に戻ったらどこに行くんだ?」
「うん、後楽園かな」
「ああ、あの日本三名園の一つだっけ?」
「お、よく知ってるね?」
ちょっと小バカにされた感じだったが、その顔に笑顔が戻っているので気にしない。
「まあな、あとは金沢の兼六園と水戸の偕楽園だろ?」
「そうそう、良くできました」
アイに頭を撫でられ、恥ずかしいながらも、カップルっぽくて嬉しいリク。
そんな二人のもとにパフェが運ばれてくる。
「結構大きいんだな」
「ね?私もちょっと驚いちゃった」
二人は食べさせあいをしたりしながら、デートらしい雰囲気を楽しむ。
果物らしいくどくない甘さが絶品で、多いと思っていたが、問題なく食べきることが出来た。
店を出た二人は再び倉敷駅に戻ると、次は後楽園へと向かう。
「本当は桜の季節や、紅葉の季節の方がいいのかもしれないけどね」
「それならまた来たらいいだけだよ」
「ふふ、そうね」
岡山駅からバスに乗り、後楽園に到着すると、閉園時に落ち合おうという話になりリクとアイは二人にきりになる。
――これってチャンスか?タイミングがあればいいんだけど
「リク?どうしたの?行こうよ」
「え?あ、ああ……きれいだな」
「うん……私もここにはよく来てたの」
先程はあまり地元の観光地には来ないと言っていたアイらしからぬ発言に、リクは不思議そうな顔をして続きを待つ。
「ここ、私の実家の近くなの。年間パスも持ってて、それで家族でよく来てたんだ……」
庭園内を歩きながらポツポツとアイが話し出す。
「一人でもよく来てた。……うん、一人の方が多かったかな?……嫌なことがあっても、ここでぼーっと時間を過ごすと忘れられるの」
リクは手を繋いだまま、体を寄せてアイの話を聞く。
「……ちょっと感傷的になっちゃったね。でもここにはもう一度来ておきたかったの」
「アイ……実家には戻らなくていいのか?」
あまり聞いてはいけないかとも思ったが、ここまで来たからには確認しておきたかった。
その問いにアイは頭を振って、笑って見せる。
「いいの……もう戻れないよ。事情を話しても信じてもらえないだろうし……何より私が戻りたくないの……」
笑っているはずのその目には、うっすらと涙が浮かび、アイの黒い瞳が揺れている。
葛藤がないはずはない。アイは大人びているとはいえまだ二十歳。家族を捨てるという選択は大きかった。
リクがアイを抱き締め、頭を撫でてやると、アイはぎゅっと抱きついて声を上げて泣き出す。
少し落ち着いた頃に、リクが少しだけ体を離し、アイの瞳を見つめる。
「アイ……俺はアイが好きだよ。ずっとそばにいてほしいと思っている」
「……うん、私も好きよ」
リクは徐にカバンから小さな箱を取り出すと、中身を見せて跪く。
「アイ、俺と結婚して欲しい。俺をアイの家族にして欲しいんだ」
「……でも私が一緒にいたら、他の……」
アイの言葉を少しだけ強い口調で遮り、答えを促す。
「アイ、エルとルーシーのことは今は考えなくていい。アイが俺と結婚したいのかしたくないのかを教えてくれ」
アイは俯き少しだけ逡巡すると、意を決したようにリクの目を真っ直ぐに見る。
「……したい。私はリクと結婚したい。ずっと一緒にいて欲しい。私の家族になって欲しい」
「ああ、一緒にいよう。ずっとそばにいる」
リクはアイの左手を取ると、薬指にリクたちと同じ意匠の指輪をはめ、二人は抱き合う。
アイは先程までとは違う、喜びの涙を流し、幸せそうな笑みを浮かべている。
そんな二人の様子を密かに見ていた三人が、我慢できずに二人の元に飛び出してくる。
「あー、上手くいってよかったわ。アイ、これからもよろしくね」
「うむ、見ている方も緊張するものじゃな。アイ、これからは家族なんじゃから遠慮は要らんからな?」
「えへへ、もうアイお姉ちゃんじゃなくて、アイお母さんだね!」
三人に声をかけられ、アイはまた泣き出してしまう。
「うん……うん、みんなありがとう。みんな大好き」
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