第95話 エピローグ4 エルとのデート

 今日はエルとのデート。リクとエル+三人は名古屋駅まで出てくると、そこから目的地に向けてバスに乗っていた。

 もちろん二人は隣り合った座席に座り、エルはリクの肩に頭を乗せて甘えている。ちなみにこの体勢はバスに乗ってからではなく、家を出てからずっとこの調子だった。


「今日はずいぶんとくっつくな?」


「当たり前じゃないの、だってこうして一応二人でデートするなんて久しぶりなんだよ?アイとはいっつもしてるくせに。もっと釣った魚に餌をあげても、バチは当たらないと思うけどな」


「う……ごめん」


 確かにアイとは普段会えないので、その分二人で過ごすようにしており、エルとルーシーよりも明らかにデートの回数は多い。


「まあ今日次第よ!ていうことで、今日は存分にくっつくことにしたから」


「ああ、分かった、エルの気の済むまで付き合うよ」


「ふふ、よろしい」


 満足げな笑みを浮かべるエルに、リクは苦笑する。もちろんリクはエルのことも大好きなので、その要求が嫌なわけがない。

 ただリクにとってのエルは最初の仲間というのもあり、どうしても相棒的なポジションが板についている。

 そのためこうして二人でのデートとなると、四人のなかで一番気恥ずかしい思いになるのだった。


 バスは何事もなく目的に向かって進んでいく。窓側の席に座るエルは、楽しそうに流れる景色を眺めている。


「私たちの世界もこうやって発展するのかしら?」


「むしろこっちより発展してもおかしくないんじゃないか?物理法則は同じだから、家電製品だって作ろうと思えば作れるし、なにより魔法もあるしな」


「そっか、確かにそうよね。私たちの世界の方がずっと出来ることは多いはずよね」


 エルが拳を握り、何やらやる気に満ちた表情を見せている。


「エル、急速な発展はダメだからな?」


「分かってるわよ。少しずつよね」


 リクはこの世界に来るにあたって、エルとルーシーに技術を持ち帰るのは構わないが、行き過ぎた技術は歪みを作るので気を付けるように言い聞かせていた。

 二人もその意図は理解してくれたようで、その話に同意している。


「お、観覧車が見えてきたぞ」


「わぁ、ホントだ!大きいわね!……あの大きな骨組みみたいな物は何?」


「あれはジェットコースターだよ。ほら、今ちょうど落ちるところだぞ」


 食い入るように見ているエルにリクが説明する。


「で、でも輪っかになってる部分があるわよ?」


「そりゃあ一回転するんだよ」


「ええ!?何それ!?めちゃくちゃ楽しそう!」


 さすがはエル。怖いという発想はないらしい。


 エルがデートに選んだのは遊園地。ナガシマスパーランドだった。

 二人はバスから降りると、早速パスポートを買って入場する。


「リク!早く早く!あれ乗ろう!」


「分かったよ……」


 エルが乗ろうと言うのはスチールドラゴン、説明を見ると一番高い部分は九十七メートルもあり、全長は三キロ近くあるらしい。

 今日は絶叫マシン三昧かなと思い、リクは少しゲンナリする。

 ちなみに真冬の平日ということもあり、並ぶ必要はほとんどないので非常に助かる。


 エルは張り切って一番前の席を確保すると、リクはその隣に座る。


「足つかないのかよ……」


「成程ねー、確かにこの方が面白いかも!この靴で良かったわ」


 今日は遊園地で遊ぶと決めていたので、エルは張り切ってスニーカーを履いてきている。

 やがてコースターが出発すると延々と登り始める。


「うわー高いわねー」


「そ……そうだな」


 リクはジェットコースターの経験がほとんどない。にもかかわらずいきなりこんな大きな物に乗せられたら、顔も青くなるというものだ。


「へー、怖いのね?」


「い、いや?そんなことないぞ?」


 なんとか気丈に振る舞うリクだが、エルにはバレバレだ。

 エルは仕方ないなぁと言いながらリクの手を握る。


「ほら、これで大丈夫でしょ」


「……ああ」


 ほんの少しだけ恐怖感が緩和され、その時を待つ。

 そして頂上まで来ると眼前には海が広がる。


「……きゃーーーーー!」


「ぐっ……」


 コースターの落下に合わせてエルが大声で楽しそうに叫び、リクは何とか耐えようと歯をくいしばる。


「わぁーー!横向いてる、横向いてるよ!」


「……」


 リクには楽しそうなエルの言葉に反応する余裕はない。骨組みの間を通ったり、トンネルを通ったりする度にエルは楽しそうに声を上げ、リクはひたすら耐える。


「あーおもしろかったー!」


「……そ、そうだな」


 コースターから降りたエルがリクの手を引いて次のアトラクションに向かおうとする。


「もう、リクだって本気出したらあれくらいのスピード出せるでしょ?」


「いやいや、自分でスピードを出すのと、振り回されるのとでは訳が違うだろ?」


「え?そういうものかしら?」


「……まあいいよ。今日はエルにとことん付き合うよ」


「ふふ、ありがとう!」


 リクの頬にエルがキスをする。リクも怖いのは怖いが、楽しくないわけではない。それにエルが喜んでいるのだから尚更だ。


「次はどうするんだ?」


「えっとねー、次はあれにしようかな」


 そこから怒濤の絶叫マシン巡りが始まる。きりもみ状に回転したり、後ろ向きになってみたり、一回転してみたり。

 エルはどれに乗っても怖いよりも、楽しいが上回るようで、笑顔を弾けさせる。

 唯一怖がったアトラクションはお化け屋敷。終始リクにくっついて体を震わせていたが、お化け屋敷は怖くないと楽しくないのだから、正しい楽しみかただと言える。


「あー、怖かった!思わず燃やすところだったわ」


「……冗談に聞こえないんだが」


「やだなー、冗談に決まってるじゃないの」


 怪訝な表情を見せるリクに、エルは慌ててフォローを入れる。


「まあいいや、昼御飯はどうする?」


「私ハンバーガーがいい!」


「ええ?そんなんでいいのか?」


 ここには普通のレストランもあるのに、わざわざハンバーガーがいいと言うエルに尋ね返す。


「うん、何でか分からないんだけど、遊園地といったらそういうのを食べたくならない?」


「あー、初めてのデートの時もそうだったな」


「そうそう、だから私の中では遊園地といったらハンバーガーなのよ!」


「分かった、分かった。じゃあ食べに行こう」


 二人は手を繋いでバーガーショップへと向かう。席は外なので、やはりこの冬空の中ではあまり人はいない。リクとエルは魔法である程度寒さを緩和しているので問題ない。


「あ!」


「……ビールか?」


「あはは、よく分かったね」


「当たり前だろ?嫁のことくらい分かるよ」


「うん!」


 エルは顔を赤らめると、嬉しそうにリクに抱きつく。

 結局エルは単品のハンバーガーに、ポテトと生ビール。リクは照り焼きバーガーのセットを食べる。


「はー、昼間っからビール飲むのは最高ね」


 若いきれいな女性が遊園地デートの最中に、冬空の下で昼間からビールを飲む。なかなかお目にかかれる光景ではないが、エルらしいなと思わずリクも苦笑いをする。

 エルは唯我独尊タイプで、別に周りからどう見られていても気にしない。


「エル、一杯にしとけよ。酔ってアトラクションに乗るとかダメだからな」


「大丈夫だって、魔法で分解するから」


「それもそうか……」


 早々に一杯目を片付けると、二杯目に取りかかるエル。そんな様子を呆れながらも、楽しそうにリクは眺める。

 最終的に三杯飲んだところで、魔法を使って酔いをさましてアトラクション巡りを再開する。


「食べたばっかりで絶叫マシンは良くないわよね」


「そうだな、じゃあ大人しいやつに行くか」


 二人はもらった園内マップを見て、物色するとエルの目線が止まる。


「あ!これこれ、車に乗れるじゃん!」


「ああ、ゴーカートか。確かにいいかもしれないな」


 エルも車の運転には興味を持っていたものの、さすがに本物を運転させるわけにはいかないので、ゴーカートはいいチョイスだと言える。

 二人は早速ゴーカート乗り場に向かうと二人で乗る。もちろん運転はエルがする。


「さあしゅっぱーつ!」


「スピードは程々にな」


 張り切って出発すると、エルはぶつかったりすることなくすいすいと運転する。


「エル、上手いじゃん」


「うん、だって私たちが作った馬車とそんなに変わらないもの」


「あー、そういえばそうだな」


 特に何事もなくコースを走り終えた二人が、次のアトラクションに向かう。

 リクはその辺にぶつかってあたふたするエルが見たかったので、少し残念そうな顔をする。


「なにか不満げね?」


「え?そんなことないって」


「どうせ私のことだからぶつかるとか思ってたんでしょ?」


「はは、鋭いな」


「ふふん、私も成長してるってことよ」


 薄い胸を張って自慢げなエル。竜種となった今でも彼女は何も変わらない。

 二人はその後も一通りは乗ろうと園内を回っていく。


 そして最後はあの日のデートと同じように観覧車に乗る。向い合わせではなく隣り合って座る二人。


「楽しかったね!」


「ああ、他の遊園地にも行ってみたいな」


「それいいね!全国の遊園地巡り」


 リクの提案に乗り気になるエルは体を密着させる。


「今日はありがと」


「……どうしたんだ?」


「だって色々連れ回しちゃったし」


 柄にもなく殊勝なことを言うエルに思わずリクが噴き出す。あまり絶叫マシンが得意でないリクに、強引に付き合ってもらったという自覚はあるようだ。


「ちょっと、真面目な話なんだけど?」


「ごめんごめん、そんなこと気にするなって。俺はそうやって自分のペースで突っ走るエルが好きだよ」


「あ、ありがとう」


 リクは頬を赤く染めるエルの頭を撫でると、抱き寄せてキスをする。


「また来ような」


「うん」

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