第92話 エピローグ1 みんなで元の世界へ
あの日から三ヶ月、今日は初めて家族にアイを加えた五人でリクたちの世界に遊びに行く日だ。リクとアイを除く三人は昨日からテンションMAXだ。
実はあれからも家のメンテナンスのためにリクたちは何度か元の世界に行っている。そしてようやくリクの家がきれいになったので、そこに泊まって色々なところへ遊びに行こうというのだ。
「リク早く行こうよ!」
朝起きて早々にエルがリクに急かす。
「……エル、まだ朝の五時だぞ…」
普段は飲み過ぎで昼間で寝ていることも珍しくないエルだが、今日ばかりは早起きだ。と言いたいところだが実は寝ていないだけである。竜種になった今ではそこまで睡眠が必要なわけではないらしい。
「リク、早く準備するのじゃ」
「お父さん、早く行こ?」
ルーシーとフーまでエルに賛同する。元気な三体の竜種により、もはや多数決で圧倒的に不利な状況のリクは仕方なく起きる。別に一週間ほどの滞在は出来るのだから、そんなに焦らなくてもいいだろうと思うが。
「アイはまだ来ていないだろ?」
「大丈夫、さっき通信魔道具で連絡したときにはもう宿舎を出るとこだって言ってたから」
あの日から三ヶ月かかったのはアイのまとまった休暇の取得に時間が掛かったからだ。アイは自分に構わず行ったらいいと言っていたが、どうしてもアイをつれていく必要があった。今回の滞在でリクはアイにプロポーズをする予定だ。
お互いの気持ちを知ってからというもの、リクはアイの休日には必ず二人で出掛けるようにしていた。そしてやっと今回のプロポーズ計画を実行に移すこととなった。もちろんエルとルーシーも計画は知っているし、準備を手伝ってくれた。
「リク、指輪ちゃんと持ってる?」
「ああ、大丈夫。一番最初に入れたよ」
「アイに見られんように気を付けるんじゃぞ?」
「お父さん、頑張ってね!」
「ああ、と言ってもプロポーズをするのは今日じゃないぞ?」
リクの計画は今回の滞在五日目にレストランで夜景を見ながらプロポーズをするというものだ。相当ベタな計画ではあるが、こういうのは奇をてらうと失敗する気がするのでオーソドックスに行く。それになんだかんだアイはそういうのが好きだとリクは思う。
「お邪魔しまーす」
アイがスプール王国の拠点から転移してきた。すでに王国の拠点の鍵も渡しているので、ちょくちょく遊びに来ている。
「アイお姉ちゃんいらっしゃい!楽しみだね!」
「そうだね、でもさすがに早すぎないかな?」
「そんなことないわよ、ねえルーシー」
「うむ、さっさと行くのじゃ」
やはりアイもいくらなんでも早いと思っていたようだ。とは言え三人の気持ちも分からないでもないので、苦笑しながらも何も言わない。
「そういえばエルはともかくとして、ルーシーとフーのその髪と目は目立つなぁ」
「あ、確かにそうだね。二人とも黒髪黒目に変えられるの?」
「そういえば二人の国はほとんど黒髪黒目じゃったな、なぜエルはいいのじゃ?」
首をかしげる三人にアイが説明をする。
「私たちの世界で二人みたいな髪の色と目の色って自然にはいないのよ。染めたりカラコン入れたりする人はいるけど珍しいから目立つの。エルのような金髪はそこまで珍しい訳じゃないから、そのままでも大丈夫だとは思う。まあそれでも顔立ちが整ってるから目立つ気はするけど」
「ふむ、カラコンと言うのがよく分からぬがこれでいいか?」
ルーシーがパチンと指を鳴らすと二人の姿が変わる。
「おお、二人とも可愛いよ」
普段とは違う二人の雰囲気に思わずリクが素直な感想を口にする。当然エルは面白くない。
「むぅ、じゃあ私も変える」
するとエルも指を鳴らして姿を黒髪黒目に変える。率直に言ってかなりの美少女がそこにいた。
「お、エルも可愛いじゃん……なんか結局こんなに可愛い娘ばっかりだと目立つな」
「その中には私も入ってるの?」
アイが聞いてくるのでリクはもちろんと答える。顔を赤くしながらも嬉しそうにしており、その姿は本当に可愛らしかった。
元の世界では見ず知らずだった二人が異世界で出会って、今ではプロポーズをしようとしている。恐らく、と言うか間違いなく元の世界にいたままだったら、二人が結婚するようなことはなかっただろう。
アイはそんなことないと言うが、彼女を好きになる男性なんていくらでもいただろう。そんな彼女と結婚をしようと言うのだから、人生って不思議なものだなとリクは思う。
「リク?どうしたの?」
「え?どうかした?」
思考に耽っているとアイが顔を覗き込んで聞いてくるが、今しがた考えていたことを言うわけにもいかないのでリクは惚ける。
「んー、なんか幸せそうな顔してた」
「あ、ああ。みんなで元の世界に行くことが叶ってよかったなーって思って」
「そっか、そうだね!」
リクはアイの気持ちを見透かすような言葉に顔が赤くなりそうになるが、なんとか誤魔化す。そしてそんな顔になってしまうのも、きっとそれだけアイが好きなのだろうと納得しておく。
「エル、ルーシー魔道具の用意はできてる?」
「うん、たぶん大丈夫だと思う」
「なにぶん世界初の事じゃからな。やってみなければどうなるか分からん」
二人がこの三ヶ月で取りかかっていたのは異世界への転移魔道具の開発。今までの魔道具の十倍の魔石が必要となるほどの大がかりなものだ。
これが正常に作動してくれれば、いつでも元の世界に帰るとことができる。実はこの魔道具はリクが熱望したものではなく、エル、ルーシー、フーの三人がどうしてもと希望したものだ。
「二人が作ったものなら大丈夫だろ?今までもすごいもの作ってきたんだから」
「ま、まあね」
「う、うむ」
さらっと褒めてくれるリクに思わず二人が顔を赤らめる。
そして気を取り直してエルが転移魔法を発動する。もちろん家のメンテナンスにエルも行っているし、竜種として覚醒した彼女は魔力量もさらに増えているので異世界への転移もお手のものだ。
五人が転移するとリクの家の道場に出る。電気、水道、ガスはもちろん使えるし、しっかりと掃除が行き届いており快適だ。
ちなみにリクの家は愛知県のそこそこ栄えた市にある。大きな会社に勤めている人たちのベッドタウン的なところで、観光地などはあまりないが店は多く不便しない。家から歩いて行ける距離に駅もあるし、スーパーやホームセンターもあるのでリクは気に入っている。
「遊びに行くのは明日からだな。今日は生活用品とか食料でも買いに行こうか?」
「いいんじゃないかな?私はこの辺全然分からないからあれだけど」
アイの実家は岡山にあるのでこの辺りの地理には疎い。そして他の三人もリクの家からは出たことがないので、全く分からない。
「じゃあとりあえずスーパーに行こうか」
「リク、スーパーとはなんじゃ?」
三人が不思議そうな顔をして見てくるので一通りの説明をする。
「へー、便利なお店なのね。じゃあ早速行きましょ!」
エルが早速リクの右隣で腕を組み、それを見たルーシーが左隣で腕を組む。フーとアイは手を繋いで少し後ろを歩く。リクは元の世界でもこのスタイルなんだなと恥ずかしく感じるものの、交通ルールなどを教えるにはちょうどいいかもしれないと思い直す。
「ねえリク!もしかしてあれが車なの?」
「見たところ鉄の塊ではないか、あんなものがあのスピードで走るのか…」
やはり見るものすべてが新鮮で三人の目が輝いている。特に自動車や電気で動くようなものは、エルとルーシーにとっては最高の研究対象のようだ。
「二人とも止まって。あれは信号といって青色だと進んでよくて、赤色だと止まらないといけない」
リクが二人に説明し、後ろではアイがフーに同様の説明をしている。なるべく今日中にこちらのルールを色々と教えておきたいと二人は考えていた。
「成程な、進める方向を限定することで事故を防ぐというわけか」
「そうだね、でもああやって車が曲がってくることもあるから気を付けてな。基本的には曲がってくる車側が止まるんだけど、中には止まらない人もいるから」
「どこの世界でもルールを破る人はいるものなのね」
エルが肩を竦めながら言うと他の面々も同意する。
そしてリクの家から十分ほど歩くと大きなスーパーマーケットに到着する。三人はあまりの大きさと車の多さに口を開けて驚いており、リクとアイはそれを見て思わず噴き出してしまうのだった。
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