第27話 祝福2
「そういえば、なんでアキはいきなり飛びついてきたの?」
エルが尤もな疑問を投げかける。ルーシーもそれに同意して目線をアキに向ける。
「う…」
アキがどう答えたものかと困っていると、アイリスが助け舟?を出す。
「…アキは余計なアドバイスをしたかもって気にしてた」
その話を聞いて、リクははっとする。
「もしかして…二人が家出したのはアキのアドバイス?」
リクの言葉にアキは観念したかのように言葉を漏らす。
「…うん。だって二人ともリクがどう思ってるか不安そうだったから…」
これから叱られると思っているのだろう。今にも消え入りそうな声だ。そんなアキの頭をルーシーが撫でながら、諭すように感謝の言葉を口にする。
「アキ、妾は感謝しておるぞ。妾たちにとっては必要な事じゃったのだ」
「…本当に?」
思いがけない言葉に肩を震わせながら、アキがルーシーの顔を見上げる。
「妾は嘘は言わぬ。以前伝えておるが、お主らも妾が元魔王じゃと知っておるな?」
ルーシーの言葉にファングの四人が頷く。
「そしてリクは勇者じゃ。本来結ばれてはいけない二人のはずじゃった。傍にいれば、いつかリクの迷惑になってしまうと思っておった」
ぽつぽつと静かに語るルーシーの言葉に、四人はただ静かに耳を傾けている。
「じゃから妾は自信が欲しかったのじゃ。それでもリクの傍にいて良てもよい、妾がリクの妻だと心から言える自信がの。そしてアキのおかげでそれを持つことが出来た。リクは絶対分からないじゃろうと思った場所に来てくれた」
その時のことを思い出しているのだろう。微笑みながら語るルーシーの目には涙が浮かんでおり、アキとアイリスはぽろぽろと涙を流していた。ウィルとラークはよくやったとばかりにリクの背中をバシバシと叩いている。
ちなみにリクはすごく恥ずかしい思いをしているのだが、雰囲気的に口を挟むことは出来ないので、静かに懊悩している。
「そうそう、あの時のリクはホント格好よかったんだから!きっと誰が見ても惚れちゃうわね。みんなにも見せてあげたかったわ!」
エルが折角のお祝いの場なのだから楽しい雰囲気にしようと軽口を叩き、リク以外の五人がほほ笑む。
「エルさん、ルーシーの時点で限界です…もう勘弁してください…」
止めを刺されたリクは、耳まで真っ赤にして両手で顔を覆って蹲っている。
それを見た六人が笑い出し、和やかな雰囲気が戻ってくる。
「…良かった。多分三人は大丈夫だろうと思ったけど、いい方に出たみたいで」
アイリスの言葉を聞いてアキがうんうんと頷いている。それを見てアイリスが続ける。
「…でもアキは夢見すぎ。自重した方がいい」
「…はい、気を付けます…」
そんな二人のやり取りで、また笑いが起こる。
その後、話題はウィルの言葉でベルファス火山へと移る。
「そういえばベルファス火山の件、聞いたんだろ?」
「ああ、問題なかったみたいだな。助かったよ」
「それにしても、あの戦闘の跡見たぜ?よく生きていられたな?」
「ん?ああブレスの跡か、確かにあれはヤバかったよ。真正面から喰らったときは死ぬかと思った」
こともなげに語るリクの様子に四人が絶句する。まさかあれをまともに受けているなど、夢にも思わない。その様子に気付かずに、その時のことを四人に語る。
「あの時は体中から水を噴出させて、燃え尽きるのを防いだんだ。もちろんすぐに蒸発してしまうから、出し続けることになるけどな」
「リクって職業は格闘家なのよね?そんな器用な事、魔導士でもできないわよ?」
アキが信じられないといった様子で聞いてくる。
「俺は魔力操作が得意なんだ。それこそ体のあらゆるところから魔法を出すことが出来るぞ?あと水竜の加護を受けているから初級魔法なら無詠唱も出来る。だからそれを組み合わせて、水球を体中から出すイメージでやったら出来たんだ」
「リクの魔力操作は変態的だからね。まあそういうスキルだからと納得するしかないわ」
「うむ、確かに変態的じゃな。ブレスでリクが見えなくなった時はもうダメじゃと思ったわ。それが障壁を張ったら生きておるんじゃからな」
「…うちの嫁さんたち、言葉が強過ぎないですかね?」
あの時火山での戦闘跡を見たときに分かっていたが、改めて話を聞くと四人はリク達との力量の差に愕然とする。そして、あの時の決意を三人に示そうと頷き合い、ウィルが切り出す。
「なあ、三人に頼みがあるんだ」
「ん?どうしたんだ?改まって」
「俺たちに稽古をつけてくれないか?」
「急にどうしたんだよ?」
「急じゃないわ、あの火山の戦闘跡を見た時に、お願いしてみようって話し合ったの」
パーティの司令塔アキが口を挟んでくる。その勢いに思わずリクものけ反る。
「私たちはAランクまで来て、もうこれ以上は強くなれないかもって思ってたの。でもあの戦闘の跡を見て、今の話を聞いて分かったの。上には上がいる。私たちもまだ強くなれるって。だからお願い、見返りはなんでもいいから」
彼らは十分強い。体の使い方を見れば分かる。なのにどうしてそんなに力を求めるのか。リクもかつて直面したその問いに、彼らはどう答えるのか興味がわいた。
「実際に戦闘を見ていないとはいえ、ファングの四人は十分な強さがあるように見えるよ?なんでそんなに強くなろうとするんだ?」
リクのその問いに四人は目を合わせて頷き合い、ウィルが代表してその思いを語る。
「この街は俺たちが生まれ育った街なんだ。街の人たちも俺たちに良くしてくれてる。だから絶対に俺たちが守るって誓って冒険者になったんだ。だけどベルファス火山で、自分たちがどうあがいても勝てない存在がいることを知った。火竜よりも強い奴がそうそういるとは思えないが、それでも可能性はある。守りたいものを守れずに死ぬのは嫌なんだよ」
その言葉を聞いてリクは思う。恐らく人が力を求める理由は、突き詰めればそこに行き当たるのだと。確かに自分のために強くなることも出来る。だが降りかかる火の粉をただ払うだけなら、そこまで力を突き詰める必要はない。危なければ逃げればいいだけなのだから。
しかし誰かを守ることは難しい。自分の後ろに守るべきものがあるのなら、決して逃げることは許されない。だから強くならなくてはならない。たとえどんな相手であろうとも退けられるほど。
「エルとルーシーはどう?」
「私は構わないわ。人に教えるのも勉強よ」
「良いことを言う。さすがはエルじゃな。妾も構わぬよ」
二人も四人の決意に自分達に似たものを感じたのだろう。それにアキとアイリスは二人にとって初めての友人だ。仲を深めたいというのも、あるのかもしれない。
「よし、いいよ。だけど俺に教えられることって何があるんだ?」
その問いにウィルが答える。
「実は今度ダンジョンに潜ることにしてるんだ。一緒に来てもらって参考にさせて欲しい。このメンバーなら今までの記録を抜けるかもしれない」
この申し出には正直助かったとリクは思う。自分はそこまで人に教えることが上手くないし、見て学んでくれるというなら願ってもない話だ。
「ダンジョン!いいわね。冒険のニオイがするわ!」
何故かハイテンションのエルにリクとルーシーは胡乱気な目を向ける。以前は冒険者ギルドも面倒くさがってたのに、どういう風の吹きまわしだと思っていると、それに気付いたエルが力説する。
「いい?ダンジョンには色んなお宝が眠っているというわ。それこそ貴重な魔道具や魔法書までね。失われた魔法の一つや二つ手に入ってもおかしくないわ!」
「なんと、そうじゃったか!エルよ、それは行かねばならんな!」
―ああ、いつもの病気か…―
リクは疑問が解消したので、急激に興味を失いウィルに尋ねる。
「ところでそのダンジョンはどこにあるんだ?この国にあるのか?」
「いや、ザマール公国だよ」
「へー、行ったことないよ。そりゃあいい。新婚旅行にもなるといいな」
既に新たな魔法と魔道具を手に入れたつもりなのか、浮かれていた嫁たちがリクの言葉に反応する。
「新婚旅行?なにそれ?」
「あー、俺のいた世界では結婚すると旅行に行くんだよ」
「ほう、それは良いのう。ではダンジョン探索して、そのまま観光するのが良いな」
「ああ、時間はあるしな。のんびり行こう」
この話を聞いていた四人が驚愕して目を見開いている。それに気付いた三人が怪訝そうな目を向けると、アキが口を開く。
「リク…元の世界ってどういう事?」
「あれ?知らなかったのか…そういえば他国には異世界からの召喚だって公表されてなかったな。俺はこの国で言う流人なんだよ」
その言葉に四人は目を見開いて驚いている。フォータム共和国の国民にとって流人は尊敬する存在、というよりも信仰の対象に近いものがある。
口をぱくぱくさせている四人を放って新婚旅行について話し合う三人。
こうして一行の次の目的地はザマール公国のダンジョン&観光に決まったのだった。
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