第26話 祝福

 冒険者ギルドを出てバロンの鍛冶屋へと向かう三人。そういえばと思い出したようにリクが二人に話しかける。


「実は指輪を作ってくれたのはバロンなんだ」


「そうなんだ、いつの間に用意したの?」


「ギルドの魔道具を改良した時一人で行ったろ?あの時だよ」


「つまり、その時にはもうリクは決意しておったという事じゃな?」


「ま、まあそういうこと、だね…」


 リクは鋭い指摘にしどろもどろになり、照れくさそうに頭を掻く。そんな仕草を見て二人は花のような笑顔を見せて笑っている。

 直接的な愛情表現というものをするのが苦手なリクだが、きちんと自分たちのことを考えてくれていたということが分かり嬉しいのだろう。昨日は寝る前にキスをするなどしてくれたが、まだまだぎこちなく無理をしている感じは否めない。

 けれども二人は決してそれが不満なわけでは無い。恥ずかしがりながらも努力してくれているのが分かるので、それでいいと思っている。それにさらっとやられるのは、なんだか女慣れしているようで複雑な気もしてくるのだから難しいものだ。


 やがてバロンの鍛冶屋が見えてきて、三人は中に入る。


「「「こんにちはー」」」


「おう、お前さんたちか。約束通り三人で来たな、リク」


 カウンターでいつものように読書をしていたバロンは三人の姿を見て本を置く。そして三人の指にはめられた指輪を見て満足気に頷く。


「ああ、おかげさまで上手く行ったよ。今日はその報告に来たんだ」


「指輪ありがとう、バロン」


「うむ、綺麗で気に入っている。ありがとう」


「いいってことよ、商売でやってることだからな。それよりも三人ともおめでとう。リクは嬢ちゃんたちの為に指輪のデザイン頑張ってたぜ」


 バロンが笑いながら暴露する。それを聞いた嫁二人があらあらという感じで見てくるので、リクは咄嗟に顔を逸らす。


「まあリクは腕っぷしは強いが、女の扱いは初心だからな。嬢ちゃんたちも、気をもむことになるかもしれん。二人なら分かってると思うがな」


 もちろん分かってますと首肯する二人。自分を蚊帳の外に置いて繰り広げられる会話に恥ずかしさを堪え切れず、逃げ出そうかと思っているとバロンが話題を変える。


「そういや手甲と、杖の方は順調だぜ。あと二週間もありゃあ仕上げて見せる」


「そ、そうか、じゃあまた二週間後に来ることにするよ」


 やっと終わったと、ほっとした様子でリクが答える。


「しっかり嬢ちゃんたちを大事にしろよ」


「ああ、もちろん」


 そうして三人は鍛冶屋を出て、次の目的地へと向かう。もはや腕を組んで歩くのも慣れたものだ。

 程なくして着いた目的地はまるで時代劇にでも出てきそうな外観をしている。猫獣人のオルトとミアの店だ。


「あ、いらっしゃいニャ」


(リクさん例の件どうなったニャ?)


 三人を見るや否やミアはリクに近寄り、ピンと張った耳をピクピク動かしながら進捗を聞き出そうとする。心なしか尻尾の形がクエスチョンマークのようになっており、それを怪訝そうに見る二人。


「ああ、その件なんだけど、今日は結婚の報告に来たんだよ」


「にゃにゃ!おめでとうニャ!お二人さん、リクさんは私にすごい剣幕で『プロポーズってどうしたらいいんだ』って聞いてきて大変だったニャ」


 またしてもの暴露に、二人がやれやれ困った人ですねぇと言わんばかりにリクを見てくる。


―挨拶回りとは、かくも恥ずかしい思いをする者なのか…―


 自業自得ではあるが、リクが顔を覆って悶絶していると、オルトもそこにやってくる。フレンドリーな接客が身上と宣うミアとは打って変わって、相変わらずの丁寧な口調だ。


「こんにちは、お三人方。いらっしゃいませ」


「こ、こんにちは。実はこの度、私たち結婚を致しましたので、その挨拶に伺いました」


 なんとか気を取り直して、報告をする。オルトと話をするとついつい口調が丁寧な物になってしまう。


「そうでしたか、それはおめでとうございます!わざわざお越しいただき、ありがとうございます」


「ありがとうございます。それで今日の夕食なんですが、オルトさんのレストランで個室を取っていただけないかなと思いまして」


「ええ、畏まりました。料理はその時に注文されますか?」


「そうですね、もしかすると人数が多くなるかもしれませんので」


「分かりました。今日は予約も無いので、人数が増えても大丈夫だと思いますよ」


「助かります。それではまた夕方に来ますので」


「はい、お待ちしております」


「待ってるニャー」


 丁寧に対応してくれるオルトと、相変わらず間の抜けた雰囲気のミア。二人に見送られて、三人は再び冒険者ギルドへと向かう。

 すでに冒険者ギルドを出てから二時間ほど経っていたので、四人とも集まっているかもしれない。


「ただいま戻りました」


 三人が戻るとファングの四人は既に集まっており、中央のソファに座って、ガウェインが淹れたであろう紅茶を飲んでいた。


「おう、久しぶりだな」「久しぶりー」


 ウィルとアキが声を掛けてきて、ラークは軽く手を上げ、アイリスは小さく手を振っている。


「すまん、待たせたみたいだな」


「いいってことよ。それよりなんか話があるって聞いたぜ?」


「ああ、俺たち結婚したんだ。それで今日は世話になった人たちのところに挨拶回りをしててな」


「おめでとー!!」


「「え?あ、ありがとう…?」」


 なぜかアキがエルとルーシーにダイブして、目には涙をためている。三人が混乱しているとウィルが話しかけてくる。


「あー、お前ら今日は時間あるのか?」


「ああ、この前行った店で夕食を取る予定があるくらいかな。一緒にどうだ?」


「そりゃあいいな。ご相伴にあずかるとするか」


 ガウェインに礼を告げると、七人は冒険者ギルドを出てオルトの店へと向かう。まだ向かうには早くないか?と三人は思っていたが、やはりファングはこの街のエースだけあって、いろいろな人に声を掛けられていた。どうやら彼らは慕われているようだ。おかげでなかなか前に進むことが出来ない。

 その様子を見て三人は感心する。


―同じ冒険者でも彼らのように街の人に好かれる者もいるんだよな、恐らく人助けのような依頼もコツコツやってきた結果なんだろう。あれも目指す一つの形かな―


 込み入った話は着いてからということで、七人は取り留めも無い話をしながら歩いていくと、ちょっとした料亭のようなオルトの店に着く。


「今日は三人が主役なんだ、俺たちに仕切らせてくれよ」


「ああ、じゃあお願いするよ」


 前に来た時もそうだったよなとは言わない。相変わらず手際よく注文していくウィル。

 注文した麦酒が届くと、ウィルが立ち上がって乾杯の音頭を取る。


「それではリクとエルとルーシーの結婚を祝って、乾杯!」


「カンパーイ!!」

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