第17話 プロポーズってどうやるの?

 朝食後、今日の予定を話し合うと、エルとルーシーは家で魔道具の開発をするというので、丁度いいと思いリクは指輪を受け取りにバロンの鍛冶屋へ一人向かう。


「お、来たな。いよいよだな」


 バロンが読書中の本を閉じて出迎える。その顔は完全ににやけている。


「もう出来上がってるぜ、物理防御と魔法防御の術式も刻んである。後は魔力を流すだけだ。」


「ありがとう。それじゃあ早速やるよ」


 まずは自分の指輪に魔力を込める。指輪にはそれぞれ異なる色の魔石が埋め込まれており、そこに魔力を流し込めば術式が発動する仕掛けだ。リクが魔力を込めると内側に刻まれた術式がわずかに光る。


「よし、完成だな。魔石は上質なやつを使ってっから何年かは持つと思うぜ。効果が薄くなったら魔力を込めてやりな」


「本当にいい出来だな」


 リクの指輪には黒い魔石が輝きを放っている。細工の見事さに目を細めながら試しに嵌めてみると、防御力の向上を僅かだが感じる。どうやら魔力の充填も問題ないようだ。

 そして残り二つも同様に魔力を込める。二人の顔を思い浮かべながら…

 そんな様子を眺めながらバロンがリクに語りかける。


「儂もプロポーズの時は緊張したもんだ。恐らく受けてもらえると思っていても足が震えそうになったわ」


意外な言葉にリクが驚く。


「あれ?バロン結婚してるのか?」


「当たり前だ。ここは工房だからな、ちゃんと別に家はある」


「そうか、世の男性達はみんなこれを乗り越えて結婚するんだな…」


「ああ、そう言うこった。これには腕っぷしなんざ関係ねぇ。ビシッと決めてこい!」


 そう言うとバロンはリクの背中を思い切り叩く。


「痛た、ありがとうバロン。おかげで勇気がもらえたよ」


「おう、次に来るときは三人で来な!」


 バロンに手を振り、リクは転移するためフォータムの拠点へと向かう。


「指輪は用意したし、あとはシチュエーションか…向こうの世界ならきれいな夜景を見ながらとかだよな?でもなんかそういうのに拘るのは俺らしくない気がする…かと言ってどうすればいいのか全然分からん」


 一人でぶつぶつ言いながら歩くリクはとても不気味で、街行く人から胡乱げな目を向けられる。しかし全く気付く様子はない。かなり余裕がなく追い詰められている様子だ。


「さすがにプロポーズは一人一人にしたいから二人きりだよな。そうすると家で二人きりになったタイミングか?でも不意に二人きりになって慌てずにプロポーズなんて難易度高くないか?それならデートしようと言って一人づつ連れ出すほうが現実的か?でもそうなるとまた順番で悩む…」


 頭を抱え懊悩としながら歩くリクは傍から見ると、かなり異様な光景だ。そんなリクに聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「ありゃリクさんじゃないかニャ?変な動きをしてどうしたのかニャ?」


「ミアか…この際君でもいいから参考に聞かせて欲しい!」


「にゃ、にゃんか失礼な感じがしないでもないけど…まあ一応聞くニャ」


 余りのリクの勢いに、若干引き気味になりながらミアが先を促す。


「実はエルとルーシーにプロポーズをしようと考えている」


「おめでとうニャ!それでにゃにを悩んでいたニャ?」


「ああ、贈り物も準備したんだが、タイミングが分からないんだよ…」


「ふーむ、それはラッキーだったですニャ。この恋愛マスターミアに任せるニャ」


 薄い胸を張って自信満々なミアを見て非常に不安な気持ちに駆られたが、自分から相談を持ち掛けたこともあり、ツッコみを我慢して黙って聞く。


「ズバリ!女の子というのは雰囲気に弱いものニャ」


「ふむふむ、それで?」


 意外と普通だなと思いながらリクがミアに続きを促す。


「終わりニャ」


「…その雰囲気作りが分からないんだよ、このポンコツ猫!」


「ひ、ひどいニャ!景色が綺麗なとことか、二人の思い出の場所とかあるはずニャ。そういうところに行くのが定番のはずニャ」


 ミアが目に涙をためながら割とまともなアドバイスを言ってくる。


―だったら最初からそう言えよ―


喉元まで出た言葉を飲み込んで謝罪と感謝を伝える。


「ご。ごめん。ちょっと余裕がなくてな。ありがとう、参考になったよ」


「まあ人生最大のイベント前ニャ。大目に見て上げるニャ」


 また店に顔を出すと約束してミアと別れる。


「二人の思い出の場所か、うーんエルはあそこかな?ルーシーは……あ、もう昼になるのか。二人とも魔道具にかかりっきりで作ってないだろうし、早く帰って作らないと」


 とりあえず方針は固まったと思い、フォータムの拠点から深淵の森へと転移をする。


 リクが家に戻るとリビングの上に手紙が置いてある。



『私たちを見つけてください


 三日後、それぞれの思い出の場所で待っています』



 リクは思いがけない展開に頭を抱える。恐らくこれは二人に甘えて自分がはっきりとした態度を示さなかったことが原因だと理解できた。

 思えばサプライズに拘る余り、二人の気持ちを蔑ろにしていたかもしれない。

 プロポーズ前に好きだと言ってはいけないという道理などない、これは当然の帰結だと思えた。だが、幸運にも先程ミアの話を聞いて考えていたこともあり、向かうべき場所の検討はついていた。


「やっぱり順番からしたらエルからだな。そのあと転移でルーシーのところに行けば一日で二人に会える。二人ともちゃんと見つけるからな」


 そう言うとリクは急いでエルが待つであろう場所へと向かう。

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