第15話 物件探し
翌日、同じ宿に泊まったファングの出発を見送ったリク達はフォータムでの拠点探しをすることにした。
「やっぱりギルドに近い方が便利だよな?」
「そうね、予算はどれくらいかしら?」
「金貨二五〇枚までなら」
リクに言葉にルーシーが驚く。
「なかなか豪気じゃな」
「ああ、我が家の周辺の魔物を狩ればいくらでも金を稼げるからな。四か国で金貨千枚ってとこだな。確か冒険者ギルドは住居の斡旋もしてるらしいから、とりあえずニアに会いに行くか」
「ちょっとリク、ニアに会いに行くとか言うのは止めて。そこは冒険者ギルドに行こうでしょ!」
「そうじゃぞ、いい気分ではないぞ」
「…はい、すみません」
釈然としないと思いつつ謝ると三人は冒険者ギルドへ向かう。
「あ、みなさんいらっしゃいませ。今日はどうされましたか?」
にこやかに接客をするニア。今回は自分に任せろと言って聞かなかったエルがニアの前に出る。家事で役に立てないのが悔しいのかもしれない。
「この街の拠点用に家か部屋を買いたいんだけど」
「住居斡旋依頼ですね、予算はおいくらほどでしょうか?」
「金貨二五〇枚で」
「ぶふぉっ」
いきなり唾を噴出するニアと慌てて後ろに避けるエル。何とか躱すことが出来たようだ。
「ちょっといきなりどうしたのよ?汚いじゃないの!」
「す、すみません。ついついみなさんが非常識な事を忘れていました」
「…ケンカを売っているのかしら?」
エルのあまりの剣幕にニアがブルブルと体を震わせる。
「…ニアは言葉のチョイスが絶望的じゃな。エルもニアの性格を考えれば、いちいち怒っていてはキリが無かろうに…」
二人の様子を眺めていたルーシーが苦笑しながらボソッと呟くが、エルが任せろと言ったので口は挟まない。
「だ、だって金貨二五〇枚も出せば大きな屋敷でもない限り買えますし…」
ニアが目に涙を溜めながら反論する。そこでエルは自分の非常識さを知ったが、そもそも金貨二五〇枚と言い出したリクが悪いのだと心の中で恨み言を言う。そして今更引くに引けないエルはそのまま突っ走る。
「じゃ、じゃあ早く高いところから案内しなさいよ!」
「は、はいー」
「無理矢理押しきったな…」
「そうじゃな…」
とりあえず丸く収まって(?)二人について物件を見に行くことになった。
「ここがちょうど金貨二五〇枚の物件です!」
ギルドでの失態から完全に立ち直ったニアが三人に向かって言う。
「大したことない気がするんだけど…?」
これにはリクとルーシーも同意する。確かに悪くはないが金貨二五〇枚の価値があるとは思えない物件だった。そんな三人の様子を見てニアが自信満々に宣う。
「ここはかつて流人様が住んでた場所なのです。こんなに価値のある場所はどこを探してもありま、ひぅ!」
ニアが話し終わる前にエルが魔法でニアを拘束して宙に持ち上げる。よく見ると白い肌に青筋が浮いている。
「そういうのは要らないの。私たちは流人の伝説よりも住みやすいとこがいいの」
エルの指摘はもっともである。こういった物件は流人に対して特別な思いがあったりする人に紹介するべき物件であり、普通の冒険者の拠点探しという時に連れてくる所ではないだろうと二人も思う。尤も魔法で拘束するのはちょっといただけないとは思うが…
「ひゃ、ひゃい…」
続いての物件
「こちらも金貨二五〇枚の物件です。」
「ふーん、ここずいぶん広いわね、家どころか屋敷じゃない。安すぎないかしら?」
エルの疑問に対して、またもやニアが自信満々に言う。
「はい、ここは亡霊が出ま、ぎゃふっ」
またもや拘束されるニア。エルの顔が怒りで染まっている。
「なんで二件目が曰くつきの物件なのよ。いい?こういうのは物語とかでよくある『いいの無かったですね。あと一件あるんですが…一応見てみます?』っていう物件でしょ。最後に出してくるべきよ!」
「な、成程、確かにそうです!」
―…何だこれ?なんか良く分からない師弟関係が生まれてる…―
エルの良く分からない指摘を受けてニアが感激している。その様子を見ていた残り二名はエルに任せたのは間違いだったのでは…と思い頭を抱える。
そしてそれからさらに二件巡り、五件目。ギルドから歩いて十分ほど。立地は申し分ない。
ここは一軒家ではなく、三階建ての建物のワンフロア全てを購入するということになるらしい。
「ここは本当に自信あります。金貨二〇〇枚です。今までのところはここに決めていただくための前座です!」
エルの講義を受けて自信をつけたらしいニアを見てリクが呟く。
「…別にそこまでこだわろうとも思ってなかったから最初に連れてきてほしかったな…」
先程とは違い、手入れの行き届いた内装で部屋数も申し分ない。
「うん、問題なさそうね。リクとルーシーはどうかしら?」
エルの問いかけに問題ないと頷く二人。
「じゃあここにするわ!ありがとうニア」
突然の謝礼に、思わず頬を赤らめるニア。
「え、あ、分かりました!ではギルドで手続きをさせていただきましゅ、ます」
最後まで締まらないニアであったが、エルにお礼を言われて嬉しそうだ。そんなこんな二人の様子を見てリクは思い出したように言う。
「多分エルってニアより年下だよな…?」
「まあエルじゃから仕方あるまい。あの娘にはそれが許される不思議な雰囲気がある。言葉遣いがあれでも決してバカにしているわけではないと相手も分かるのじゃろう」
その言葉にリクはお前もなと言いそうになったが、確かルーシーは一二〇歳位と言っていたのを思い出し止めておいた。
魔族は長命だが精神の成熟度は遅く、ルーシーも人間で言えば未だ二十代半ばといったところらしい。
リクは人族と魔族の寿命の差に少し悲しい気持ちが沸き上がるのを感じたが、気を取り直すように三人に声をかける。
「じゃあ物件も決まったしギルドで手続きをしようか」
「ちょっと!最後の最後で仕切らないでよ!」
エルの言葉を笑っていなすと四人はギルドへ戻っていくのであった。
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