第13話 指輪
漸くニアが再起動したので話を続ける。
「それでギルドに所属したってことは依頼を受けてくれるのか?」
ガウェインが期待の籠った目で三人の顔を見ながら尋ねる。
「悪いけどあんまり興味ないわ。Fランクの受けられる以来なんて雑魚モンスターの討伐とか薬草採取でしょ?今さらそんなのをチマチマやるの面倒だし」
ソファーにもたれ掛かったまま心底面倒くさそうなエル。
「それについては心配要らない。裏技みたいなのがあって、ギルドから直接依頼っていう形にすればランクは無視できる」
「ふむ、つまり妾達にはギルドの手に余る依頼をこなして欲しいということか。それならば退屈はせんじゃろうな」
相変わらずの察しの良さでルーシーがガウェインの意図を言い当てる。その様子はいつもの不遜な態度ではあるが嬉しげだ。
―ルーシーのやつ、何か嬉しそうだな。どう考えても厄介そうな感じだけど…これも人助けか―
「特別依頼に関しちゃあ報酬はギルドからの謝礼を上乗せして、本来の二割増しにさせてもらう。もちろんランクアップの実績も普通の依頼より上だ」
「ずいぶん気前がいいんだな?」
解せないという様子のリクの問いかけに、肩を竦めてガウェインが答える。
「こちとら雇われの身だからな。割に合わなくて塩漬けになってる依頼や、高難度で失敗の確率が高い依頼がたまっちまうのは避けてえんだ」
「その辺りの実績でギルドの予算が決まるって訳ね。世知辛いわねぇ」
言葉とは裏腹に、全く気の毒では無さそうなエルの様子にガウェインは苦笑する。
「まあ俺も昔はお前らみたいに気ままな冒険者だったからな。あの頃の自分でもそう言うだろうよ。けど年を重ねると心境の変化ってのは出てくるもんだ。特に息子くらいの年齢のやつらが無茶やって死ぬのを見ちまうとな。何とかしたいと思ってたら、いつの間にかこんなことをするようになっちまった」
そう語るガウェインの様子を見たリクは漸く得心がいったというように頷く。
先程絡んできた(まあ半分くらいウチの婚約者二人が原因な気もするが)粗暴な冒険者やニアが、ガウェインに対しては大きな信頼を寄せていると感じていた。見た目は怖いが良い兄貴分、親代わりといった感じだろう。
「話は分かった。けど俺たちは普通の冒険者みたいにいつもギルドに顔を出すわけじゃ無いんだが、連絡手段はあるのか?」
リクの言葉にガウェインが置物状態のニアを小突く。
「ひゃ、はい!皆さんが先程発行されたギルドカードには連絡手段がついています。と言っても文字を送ったり出来るわけではありませんし、こちらからの一方通行です。今は裏側には何も書いておりませんが、こちらが呼び出したときにはカードが振動して、呼び出したギルドの所在地が浮かび上がるようになっております」
―ちょっとしたケータイ、いや劣化版ポケベルみたいなもんか。どういう仕組みなんだ?―
「これどういう仕組みかしらね。分解していい?」
「うむ、妾も気になるな」
―うん、ウチの魔法オタクどもはフリーダムだな―
早くも分解しようとしているエルとルーシーを慌てて止めるニア。
「ダ、ダ、ダメですよ!」
「えー、仕方ない帰ってからにするか…」
「ちょっと待った、もしかして改良とか出来るのか?」
「えっと…ギルマス?」
「仕組みを見てみないと分からないけど、出来るかもしれないわね」
「うむ、カードが魔力を受ける魔道具ならばギルドには魔力を送る魔道具があるのじゃろ?それも一緒に見せて欲しいのう」
かなり食い付き気味なガウェインに困惑するニアと、冷静に受け止めるエルとルーシー。
「ぜ、是非頼む!ずっと文字が送りたいと思っていたんだ」
「まあ妾達にとっても悪い話じゃないからのう、吝かではない。旦那様はどうじゃ?」
「ああ、いいんじゃないか。ただ俺がいても出来ること無さそうだし、バロンのところに行ってきてもいいか?」
「そうね、じゃあ別行動にしましょ」
「うむ。では旦那様、形状はこの杖のままで、作り直してもらえるように頼めるかの?」
「ああ、分かった。終わったらまた戻ってくるから」
三人はひとまず別れてリクはバロンの鍛冶屋へと向かった。
「こんにちはー!」
カウンターには何やら本を読んでいるバロンがいた。こちらに気付くと本を閉じて向き直る。相変わらず客がいないけど大丈夫なのだろうか。
「おお、リクか、無事だったか!魔法銀は取れたのか?」
さすがは鍛冶屋、素材が気になって仕方ないようだ。リクが荷物袋から魔法銀を取り出す。
「おお、間違いなく魔法銀だな。しかもかなり純度、上物だ」
どうやら魔法銀の融点が高いのが幸いして火竜のブレスにより不純物が大分取り除かれたようだ。ルーペのようなもので魔法銀を眺めるバロンの目が輝いている。
「あとこれも使ってもらっていいか?」
そう言うと火竜の牙を取り出す。
「またとんでもねえもんを持ってきたな。もしかしてまた竜種の牙か?」
「ああ火竜の牙だ。あと代金代わりにこれやるよ」
そう言うと火竜の鱗を十枚ほどカウンターに置く。恐らくこれを売るとなれば、金貨百枚出す者もいるだろう。しかしリクは腐るほど持っているので気にしない。
「こいつは火竜の鱗ってわけか。どう考えても代金以上の価値なんだが…」
「いいもの作ってくれれば、それでいいよ。じゃあこれで俺の手甲とルーシーの杖を頼むよ。あと一個相談があるんだがいいか?」
「こんな最高の素材を貰ったんだ。喜んで受けてやるよ」
ホクホク顔のバロンに、リクは真剣な顔で、少し顔を赤らめながら話を続ける。
「実は俺の故郷では結婚すると、揃いの指輪をつける風習があってな…」
「成程な、つまり身を固める決心をしたから指輪を作りたいんだな?」
バロンが全てを察して、うんうんと頷く。
「まあ…そういうことだ。それで魔法銀を使って指輪を三つお願いしたい。あと仕上げに俺が防御魔法を付与したいんだ。ってサイズ分かんねえじゃん…」
がっくりと項垂れるリクにバロンが明るく声をかける。
「心配すんな。あの二人魔法使うんだろ?指輪のサイズ調整なんぞ朝飯前だよ」
「そ、そうか。別に秘密にする必要は無いんだけどな…」
「一生に一度のことだ、驚かせたい気持ちもあるんだろ?最高の物を作ってやるから任せとけ」
「助かるよ。ところで一般的には結婚するときは何か贈るのか?」
「決まってる訳じゃないな。何か身に付ける物ってくらいだ。だから指輪で問題ないぞ」
「そうか、じゃあよろしく頼むよ」
「全部が仕上がるのは大体一ヶ月くらいだが。指輪を先に作ろうか?せっかく決心したなら早い方がいいだろう」
こちらの考えをすべて見透かしてくるようなバロンにリクが感心する。この鍛冶屋は読心術でも出来るのだろうか。
「良く気が利くな…」
「はっ、一応これでも長年客商売してるからな。それで、指輪だけなら三日もありゃあ十分だぞ」
「そうか、それで指輪のデザインなんだが…」
指輪のデザインが決まった頃、リクのギルドカードが震える。
【戻って来て】
「なんだギルドカードじゃねえか。文字なんか出るのか?」
「いやエルとルーシーが改良するって言ってたから成功したんだろう」
目を丸くしているバロンに向かってリクが事も無げに言う。だが現状のギルドカードでも最先端技術の結晶なのだ。ある程度技術に精通しているものなら、これがどれだけ非常識なことか良く分かる。
「全く、お前といい嬢ちゃんたちといい、大したもんだな」
「じゃあ呼び出しを食らったんで戻るよ。また三日後に来るから」
「ああ、任せとけ」
バロンに別れを告げると、リクは足早にギルドへと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます