第11話 冒険者ギルド
ベルファス火山から戻った三人は再びトカナ村を訪れていた。もちろん魔素濃度上昇の原因を取り除いたことの報告と、今後についての相談をするためだ。
「では魔素濃度を上昇させていたのは強力な魔物が原因で討伐してきたと?」
「ええ、ですので今後は魔物も弱体化していくと思います」
「にわかには信じられんが…まあ魔物の被害などが減っていけば少しづつ人が戻るかもしれんが」
「ちなみにこれが今回採掘してきた魔法銀です。まだまだ沢山ありましたから魔物が弱体化したとなればまた活気づくと思いますよ」
「本当に採掘してきたんじゃな…これがあれば信憑性も増すじゃろうな。お前さんらにこんな事を頼むのも悪いんじゃがヘルプストの冒険者ギルドに魔法銀がまた取れるようになったと連絡してくれんか?そうすれば腕利きの冒険者が調査に出向くじゃろう。それで安全が確認されれば再び採掘が始まるはずじゃ」
「確かにそれはいい考えね。私もここの温泉気に入ったし、それくらい協力するわ」
「うむ、あの温泉の為なら大した労力でもない」
エルとルーシーが村長からの依頼を快く引き受ける。
「ありがとう。今日も泊っていくといい。道中の話も色々聞かせてもらいたいしの」
「ではお言葉に甘えて早速温泉に入らせてもらおう」
「行こ!ルーシー」
リクが口を挟む暇もなく宿泊が決定するのであった。
翌朝トカナ村を出発した三人はキアへと転移を使って移動し、例の横並びスタイルで冒険者ギルドに向かっていた。
「冒険者ギルドか、そういやまだ登録してないな」
「そりゃそうよ。別に私たち依頼を受けてお金を稼ぐ必要もなかったし、身分証も王国に発行してもらっていたんだから」
エルが興味ないと言わんばかりに手をひらひらさせながら答える。
「でもルーシーは登録しないと身分証が無いよな?いつもいつも認識阻害ですり抜けるのも面倒だから発行してもらったら?」
「まあ確かにあった方が便利ではあるじゃろうな」
渋々といった感じではあるがルーシーが同意する。
「じゃあ折角だし俺とエルも登録しとく?」
「そうねぇ…何かメリットでもあるのかしら?」
「それならば受付に聞いてから判断すればよかろう」
ルーシーのどストレートの正論により、とりあえず話を聞きに行くことにした三人だった。
街の人に場所を聞いて教えてもらうと、特に迷うことなく着くことが出来た。さすがに周りに冒険者らしき人が多くいたので目印になっていた。
「ここが冒険者ギルドか、なんかあんまり治安の良さそうなイメージじゃないんだけど絡まれないかな?」
不安そうな声を漏らすとエルが叱責する。
「何言ってんのよ!絡まれたら返り討ちにしたらいいじゃない!相手が強いかどうかも分からないくせに絡んでくる奴らが悪いんだから」
まったくじゃという様子でルーシーも頷いている。
「そりゃあ最悪の場合はそうするけどね…」
「だったら堂々としていればいいわ。ていうか最終的に解決する手段を持っているのに、そんなことを考えるのはおかしいと思うんだけど?」
その通りじゃなという様子でルーシーも頷いている。
―まあそれはそうなんだけど、この腕組みスタイルは絡んでくださいと言ってるようなものではないかと思うわけです…―
「じれったいわね!とっとと行くわよ!」
エルが扉を開けて先頭を歩く。もちろん腕は組んだままである。
そして案の定、ギルド内にいる冒険者らしき輩からは怪訝そうな目であったり、敵意をもった目を向けられるのであった。
―こうなったらもう仕方ない。堂々としているしかないな―
受付には二十歳ほどと思われる栗色の髪の毛を二つにくくった可愛らしい女性がいた。
「いらっしゃいませ。受付のニアと申します。当ギルドは初めてでしょうか?」
一見するとにこやかな笑顔ながら、心なしかリクを見る目が冷たい。女性二人を連れていることから女の敵だと思っているのだろう。
「ええ、登録しようか迷っているんだけど登録した場合のメリットを教えて欲しくて」
「畏まりました。それではギルド登録した場合に出来ることをご説明させていただきます」
そうするとニアは一枚の紙を取り出す。
『バカでも分かる冒険者登録のすごいとこ』
1.身分証明書の発行がされます
2.ランクに応じた依頼を受けることが出来ます
3.収集した素材の売却をすることが出来ます
4.戦闘訓練を受けることが出来ます
5.ランクに応じてギルドを通して様々な情報を得ることが出来ます
「紙を見ながらご説明させていただきますね。まず一つ目、これはもう言うまでもありませんね。付け加えるとすれば冒険者ギルド完全な独立機関ですので、どこの国に行っても使える身分証明書となります」
三人がへーっという顔をしているのをみてニアは満足気に続ける。
「次に二つ目、ランクは一番上がS、一番下がFとなっております。Bランクまでは依頼の達成件数や達成割合を考慮して判断されます。Aランクへの昇格は実績と試験の合格、Sランクへの昇格は人類史を揺るがすほどの偉業が必要とされます。ですので基本的にはAが最高ランクと思っていただければよいかと存じます。最初はどなたもFランクからスタートしていただきます。そして受諾できるクエストのランクは冒険者ランクの一つ上までとなります」
「続いて三つ目、取集した素材の売却ですね。一般の店舗では必要ない時は買い叩かれてしまいますが、冒険者ギルドでは下限金額というのを決めております。これは素材を不当に買い叩かれて冒険者が困窮しないようにという配慮です。但し在庫が潤沢にある素材を大量にとってくるのはマナー違反ですのでご指摘させていただくことがございます。素材の在庫量はあちらの張り紙をご確認くださいませ」
「それでは四つ目、当ギルドには指導教官という形でBランク以上の冒険者を雇っております。彼らも現役の為、戦闘訓練では貴重な経験を得られると思います」
「最後に五つ目ですが、冒険者ギルドにはこの世界のあらゆる情報が入ってまいります。希少な魔物や、魔道具の情報、ダンジョンの情報など列挙するときりがありません。ただし最初に申しました通りギルドはあくまで中立ですので国に利する情報や害する情報は扱っておりません」
「ふむ、扱っていないだけで持っているというところか…」
ルーシーの呟きを聞いてリクははっとする。
―ていうことは俺たちの情報も持っているんじゃないのか?だとすると登録するべきか悩むな。俺とエルはともかくルーシーはマズいよな―
「さて、何かご質問はございましたでしょうか?」
「登録はどうやってするのかしら?」
エルが分かってるという様子でリクを見ながらニアに尋ねる
「一人銀貨一枚頂いて、こちらのギルドカードに触れていただければ完了となります。魔力を読み取り名前、ランク、職業が出る仕組みになっております」
少し受付から距離を取り、小声で作戦会議をする。
(そこそこメリットありそうだし、ギルドカードに種族とか出ないんならセーフじゃないかしら)
(うむ、まあ妾は別に出ても構わんがな)
(いやいや、そこは構っとけよ…)
「じゃあ登録します」
そう言ってエルが銀貨三枚をニアに手渡す。
「はい、それではギルドカードをそれぞれ持って魔力を流し込んでください」
三人はそれぞれ手にしたギルドカードに向かって、魔力を流し込む。するとみるみるうちにギルドカードに変化が現れる。
名前:リク
職業:格闘家
ランク:F
名前:エル
職業:大魔導士
ランク:F
名前:ルーシー
職業:賢者
ランク:F
―完全に俺雑魚じゃないか…勇者は世界を救う人物を指す言葉で職業じゃないという事か。ていうか大魔導士-は職業なんだな?-と賢者って凄すぎないか?知られたらヤバそうな気がする…―
複雑そうな顔をしている俺を見て二人が声を掛けてくる。
「大丈夫、リクが凄いのは私たちが知ってる」
「旦那様、気にするでないぞ」
「ありがとう。そうだな、別に何か変わるわけでもないよな」
リクの言葉に二人が頷く。
「えーっと、いちゃついてないでキチンと出来ているか見せてくれませんか?」
ニアがジト目でこちらを見ながら言う。
「ああ、すまん」
三人がギルドカードを出すとニアの目が大きく見開き絶叫する。
「大魔導士に賢者?初めて見ましたよこんなの!なんでただの格闘家と一緒にいるんですかー?」
―えぇ…いきなりディスられた…ていうか職員のくせにそんな事大声で言うの?個人情報の保護っていう概念は?―
その言葉を聞いた様子をうかがっていた冒険者達がリク達目掛けて殺到する。正確にはエルとルーシー目掛けてだが。
「こっちの嬢ちゃんが大魔導士でこっちのお姉ちゃんが賢者?二人とも俺らのパーティー入りなよ。ついでにあの格闘家も入っていいからさ(荷物持ちだけど)」
「いやいやうちのパーティー入ってよ。うちはBランクぞろいだから君らが入ってくれたらAランク間違いなしだ。もちろんそっちの彼も入っていいよ(荷物持ちだけど)」
―おお、俺もついに心の声が聞こえるようになったか…―
「悪いんだけど私たち三人以外とパーティー組む気はないから」
「うむ、妾もじゃ」
―分かっていてもはっきり口にしてくれる二人の言葉が嬉しい―
「大体あんたらじゃあリクに勝てるわけないし、私たちと釣り合わないわ」
「うむ、全くその通りじゃな」
―前言撤回。どう考えても絡まれる流れじゃん…―
「それならこいつに勝てばパーティ組んでくれるってことでいいんだよな?」
冒険者パーティのリーダーらしき人物がリクを見ながら言う。
「ええ、勿論よ。有り得ないことだけどね」
「うむ、万に一つもなかろう」
二人が自慢気な顔をして頷きながら冒険者たちを挑発をする。
そして当然冒険者たちはこちらを凄い形相で睨みつけてくる。
―なんでこの婚約者達は火種に油ぶっかけてうれしそうなの?―
「ニアちゃん聞いたよな?訓練場借りるぜ?」
「え?いや、はい…」
「ほら、さっさと行こうぜ!」
仕方なく訓練場へと連れていかれる三人。リクは二人に向けて非難めいた声を掛ける。
「何やってるんだよ…最初に絡まれたくないって言っただろ…」
「いやー、だってあの受付といい、あいつらといいリクを馬鹿にしてムカつくじゃない」
「うむ、妾がひねってやっても良かったのだが、旦那様の評価を覆さんことには腹の虫が治まらぬ」
―むぅ、こんな風に言われたらやらない訳にはいかないじゃないか…―
「分かったよ。でも今回限りだからな?」
「うん」「うむ」
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