第28話 子供は祭りを待ちのぞむ
【子供は祭りを待ちのぞむ】
王宮の紅一点、第三王子のアリエルはお気に入りのサロンでぷんすこ怒っていた。
「お兄様たちったら廊下ですれ違っても目も合わせないのよ!? 以前は、セドリックお兄様がどんなに避けていてもオスカーお兄様は嬉しそうにしゃべりかけていたのに、今では私までのけ者! 叔父様のガーデンパーティーに誘っても考えておくっていうばかり! いやになっちゃう!」
「落ち着いてくださいなアリエル様。お二人ともお忙しいのですよ」
「マーサ!? オスカーお兄様はともかく、セドリックお兄様はシュシュ公爵贔屓の貴族のパーティーに呼ばれてばかり。いいように使われているだけよ!」
「そんなことおっしゃってはなりませんよ、アリエル様」
乳母のマーサ相手に愚痴を零す。友達が来るまでの時間つぶしだったが過熱していくのを誰も止められない。
「アリエル様、ティーナ様がいらっしゃいました」
乳母の夫でアリエル付きの執事リールが声を掛けた。実のところ、リールとマーサはセドリック、オスカー、アリエルの実の両親で、リールはニコールの直系子孫にあたる。名乗り出ることはないが常に三兄弟を見守ってきた。
リールに先導されアリエルと同年代の少女が入ってくる。ベルアィーダ公爵の遠縁に当たる伯爵令嬢でアリエルの一番信頼している友達ティーナだ。
「いらっしゃいティーナ、待っていたわ! 私、素晴らしい計画をおもいついたの!」
「まあ、アリエル、さっそく聞かせて!」
「もちろんよ! 早くこちらへ。マーサ、リール、これは乙女の秘密だから聞いてはだめよ!」
「あらあらうふふ。ではしかたありませんね」
「なにかあればお呼びください」
「わかったから! ほら、二人きりにして!」
二人を追い出したアリエルは手を引いてティーナを座らせ彼女がカップに口をつけるよりもはやく身を乗り出した。
「白薔薇公爵領のガーデンパーティーが近いのはご存じよね!?」
「え、ええ」
嬉々として話したのは、いつも兄の付き添いがなければいけなかったガーデンパーティーに二人で行く計画だ。毎年セドリックたちも楽しみにしていたのに今年ははぐらかしてばかり。だから勝手にいく。
「でもアリエル。お父様も今年はいい顔をなさらないの。計画が知られたらきっとお叱りを受けるわ」
「叔父様にとりなしてもらうように頼んでみるわ。それに招待状は届いているんだもの大丈夫よ」
アル直筆の招待状を掲げてみせる。カワイイ姪に会えるのを楽しみにしている、とまで書いてある。
悠久庭園領のガーデンパーティーは公爵邸だけでなく庭園領総出のお祭りである。華やかさがどの領地の収穫祭にも勝る。めったに表舞台に現れない白薔薇公爵が姿を現し、貴族令嬢にとってはダンスを踊れるチャンスまである。ティーナにとっては王宮から離れて兄たちと遊び歩ける特別な日だ。
強行すればどちらかが追ってくることも織り込み済みの計画で、叔父も甥たちの顔が見たいに違いない、と確信している。
「そうかしら……私のお友達はご両親から止められてるって。もしかしたらなにかあるのかもしれないわ。噂もあるもの」
「噂って?」
「鉱山暴動は白薔薇公爵様の差し金じゃなかって。それから、オスカー殿下が医療研究施設を設立されるでしょう? 薔薇の回復薬の売り上げが落ちるのを防ぐために暗殺も計画されているのではないかとか、おそろしい噂よ」
ティーナは噂を仕入れてくるのがうまい。特にベルアィーダ公爵と不仲なシュシュ公爵に関する噂は最速で仕入れてくる。その情報網を買われてベルアィーダ公爵からアリエルの友達として推薦された。
「そんなっ!」
アリエルは顔色を真っ青に変えた。そんなはずはないと信じられるが噂は時々本当になることをアリエルは察している。
「なら、なおさら私が行かなくちゃ! ティーナ、この話は聞かなかったことにしてくれる?」
「アリエル!? お一人でいくつもりなの? 危険だわ」
「それでも行かなくちゃだめなの。だってセドリックお兄様もオスカーお兄様も自分を守らなくちゃいけないもの。今動けるのは私だけ。なら、私が叔父様に直接お目にかかって噂は噂なんだと証明するの!」
詳細なことは決めていない。でも、とにかくいてもたってもいられない。なら彼女は動くことを決める。
「わ、わたしも行くわ!」
「ティーナ?」
「アリエルを一人では行かせられないし、それに、わたしなんだかワクワクしてきたわ!」
きゃっきゃうふふとはしゃぐ少女二人。サロンの外で聞き耳を立てていた夫婦二人は、なんとも言えない表情で誰になにを報告すべきか考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます