第27話 薔薇は王を癒やさない

【薔薇は王を癒やさない】


 王国の中心、フィデリオ。威容を誇る王城。謁見の間はクリスタルの柱できらめき魔力鉱石と宝石、クリスタルで飾られた王座にある王は輝く黄金の髪と全てを見透かす夜空色の瞳で人々に畏怖を与える。ニコール・グランデ・ヴァルツ。アルの兄にして聖域から〝命の薔薇〟を盗んだ主犯。神から才を与えられた賢王である。

 王座下段に控える宰相フォンと共に長く国を支えてきた。寄せられる無理難題を裁く言動は見事だが、年々夜空がくすんできていた。一番近くに仕える宰相は曇る様を日々見せつけられている。


「陛下、本日の謁見は終わりましてございます」


「わかった。予の決済が必要なものだけ執務室へ。自室へ下がる」


「かしこまりましてございます」


 威風堂々としていた姿にも倦怠感が見える。フォルは思わず目を背けた。

 重い王冠に歩みを鈍らせマントを引きずる王は今にも倒れ込みそうだ。従僕はすでに追い払っている。長い廊下を一人歩く。王城と王宮を繋ぐ廻廊から空を見上げた。



◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



 夜空色の瞳が見つめる青空には水晶の台座が浮いている。〝命の薔薇〟の台座と同じ形だが規模は公爵邸が収まるほど大きい。王城の真上、シャンデリアのように光を王都に振りまいている。盆にのっているのは薔薇園だが、誰も立ち入ることができない。薔薇園の中心に茨が巻きついたクリスタルが鎮座している。クリスタルの中にはミモザ色の長い髪を輝かせた美しい女性が眠っていた。ただひたすら、時が止まった薔薇園で、原初の頃より眠りについている。

 王は、ただ見上げることしかできない自分を嘆き孤独に喘ぎ、ついに膝を折った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る