第13話 ティータイムに花言葉

【ティータイムに花言葉】


 そしてチェスははじまった。

 やはり白薔薇が飾られているプレイルームに場所を移しチェス盤の置かれた小さなテーブルを挟んで対面する。


「珍しい肌の色をしているね。東北地域の生まれかい?」


「さぁな。物心ついた頃には東北地域にいたが、母親は踊り子で国中を回っていた。父親は誰だか知らないし、周りも肌の色やら髪や瞳の色はごちゃ混ぜだったな。アンタみたいに真っ白な奴は初めて見た。王族はそんな色をしているのか?」


 はじめたはいいが真夜はルールをよくしらない。傭兵仲間がプレイしていたのを横から見ていた記憶で駒を動かしてみる。白がアル。黒が真夜だ。


「兄も三人の王子たちも金の髪を持っている。私だけだよ。悠久庭園の管理人は代々この姿なのさ」


 真夜がテキトーに動かしてもアルはなにも言わないのでそのまま続けていく。


「なるほど。ここの結界の力ってやつか」


 そもそも、真夜はこのゲームがどうなれば勝ちなのかもわかっていない。


「結界の力?」


 アルが指を顎に当て首を傾げる。視線は盤上に向いたままだ。黒の集団の中に白の駒が突っ込んでくる。


「アンタの体に染みついている。ここの白薔薇にも。結界の気配だ」


 真ん中を突っ切ってきた駒を防ぐにはなんか強そうな駒をぶち当てればいいのか? と、馬の形をした駒を白い駒の目の前に置いた。


「結界士なのかい?」


「ちょっと違うな。詳細は職務機密だ」


 なんか駒をとられたので真似して取り返してみる。


「興味があったのに残念だ」


 とった駒をどうしていいのかわからない。


「謎めいていたほうが探り甲斐があるだろう?」


 手薄になったところに置いてみる。

 アルはなにも言わず駒を進めた。


「そうだね。ますます知りたくなった」


 白の集団に黒い駒が飛び込むとアルの手が止まった。腕を組んで長考に入る。


「おれはアンタの仮面の下が知りたい」


「ずっと見つめているといい。そうすればいつか見られるかもしれないよ」


 盤上を見つめているため二人の視線は合わない。口はゲームにまったく関係ないことをつらつらと話す。


「テイレイイオの繁殖行動を見ていたほうが退屈しなさそうだな」


 真夜は防御か突進されるかと予想していたがアルは白の駒を後退させた。


「テイレイイオ? 生き物かい?」


 ゲームが始まってから初めてアルが盤上から視線をあげた。釣られた真夜と目があう。


「東北の海にいる魚だ。知らないか? この辺では食べないのか?」


 目があったからとどうするわけでもなく、自然と二人の視線は盤上に戻った。

 誘われているのか、そもそもどっちが優勢なのか真夜には判別がつかない。そういうとき、彼女は攻めるのが癖だった。


「東北の魚と言えば、こちらで食べられるのはリュウウントビかな」


 黒が攻めた分だけ白が散る。


「それは鉱山山系で取れる川魚だろ。海魚はなにを食べるんだ?」


 これは確実に逃げている、と、考える真夜は浮いた駒に狙いをつける。


「アイレイタイかな?」


「まてまて、それは東の西端にある内海の特産物だろ。アンタが言う東北地方はやたら王都よりだな」


 もう一個駒をとる。


「私が知っている世界は、君が知っている世界よりもっとずっと小さいんだよ」


「なら外に出て見てくればいいだろう?」


「そうはできない理由がある。君は自分が自由だと思うかい」


「庭園領から出さないつもりのアンタがそれを聞くのか? え? 雇用主様?」


 カツンッ! と駒を置いたらアルの眉間に皺が寄った。手が動かない。


「おい、これ勝ったのか?」


 傍に控えていたキースに聞く。


「それもわからずやってたのか!?」


 頓狂な真夜の疑問にキースの素がでた。


「そもそもルールを知らん」


「なるほど。だから駒の動きがめちゃくちゃだったのか。どう動くか予想できなくてなかなかおもしろかったよ」


 アルの言動にケントが声を出して笑った。


「それに付き合う旦那もどうかしてますよ!」


 ひぃひぃ言ってケントの笑いはなかなか治まらない。

 そこまで笑われて真夜は唇を尖らせる。


「おい、始める前にルール説明しろよ」


「いや、君の思うとおりにプレイすればいい。既存のルールには飽きてきたところだ。さて、もう一回仕切り直そう」


「まてまて、なら勝利条件だけでも教えろ。どうなれば勝ちだ?」


「私にキスができたら」


「庭の薔薇をむしって突っ込むぞ」


 ケントだけでなくクレイオも笑い出した。キースだけがぽかんとしている。



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