第6話 薔薇園観光
【薔薇園観光】
「どうだ? 王国随一の結界だ。王族以外は家令か庭師の直接対面許可がないと入れない」
悠久庭園領から王族紋章つきの飛行船が飛び立ったあとの夕刻、観光客を装ってフマルクと真夜は公爵邸を覆う結界の下見に来ていた。
庭園領内はどこも薔薇だらけだが、白薔薇一色で染め上げられた白薔薇公爵邸庭園は外から見るだけでも格が違うとわかる。そしてそこを守る結界も、常人には見えないが、仕事道具として結界を扱う真夜には要塞の砦のように見えた。
この世界は大地に魔力が循環しており、その魔力が人々の生活を支えている。結界は魔力を使い作る目に見えない壁であり、出入りする存在を識別して監視する防衛技術だ。大抵の結界は人の侵入を拒むだけだが、中には触れた人間を害する結界もある。高度な結界ほど管理が難しいが効果も絶大で、ムリに破ろうとすれば誰がどのようにして突破したかわかってしまう。真夜の特技は、その結界に誰にもわからないように扉をつくり自由に出入りできるようにしてしまう結界改変技術だ。真夜自身はその技術をピッキングと呼んでいる。
集められた真夜以外の三人は武器の調達と偽装工作を担当している。真夜も工作兵なので、全員が工作兵という偏った構成だ。
「さすが公爵様の結界だ。入るだけなら四半刻ってところだが細工するなら半刻かかる。出ることを考えるなら一刻半だ」
足下の地面から陽炎のように立ち上る結界は空を覆い半円球の形で白薔薇公爵邸を守っている。ハッキリ見えるそれが常人には見えないというのだから、真夜は常々「自分は奇妙な奴」だと、おもっていた。
「思ったより早いな。鉱山の時は一日かかったときいていたが」
「範囲が広い上に大量の人員を送り込まなきゃいけなかったからな。結界の規模がでかけりゃ時間はかかる。ここの庭園ぐらいならそんなもんだ。それに、似てるんだよ」
結界には結界士の癖が現れる。真夜は一度見た結界の癖は大抵覚えていた。思い出すのは花屋の看板だ。
「なにに? 鉱山か?」
「あの鉱山も国営の結界が貼ってあったがココとは別物だ。ずいぶん古い印象を受ける術式だ。薔薇だな」
「薔薇ねぇ」
白薔薇にまとわりついている気配とそっくりな結界を、真夜はしげしげと見つめた。見つめれば見つめるほどなにかに覗かれているような気分にさせる。何重にも張り巡らされた術式は薔薇の形に似ていた。。
「念を入れるなら二刻ほしい。稼げるか?」
フマルクは盛り上がる筋肉を唸らせて胸を叩いた。
「やろう。相手は詳細不明の公爵様だ。依頼主よりもそっちが怖い」
「依頼主はずいぶん急いでいるんだな。こんなむちゃくちゃな依頼は珍しいだろ」
情報もよこさなければ準備資金も大してよこさない。その上早急に依頼を達成しろとせっついてくる。高額な成功報酬がなければ見向きもされない仕事だ。
「その分金がいい。依頼主を探ったら深みにはまるやつだな」
「戻れなかった奴の分は山分けだったな」
片頬を吊り上げて笑う真夜に同じ笑みをフマルクは返した。
「慈悲はないからな?」
「こっちのセリフだ」
キレイに整えられた庭園に二人は一度背を向けた。
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