トンネル

「ね、ねぇ。もう一時間過ぎてるよ。やっぱりあの噂、本当だったんじゃ」


「そ、そんなわけないだろ。あいつとろいから、どっかでばたついてるだけだって……」


「だから私、嫌って言ったんだ。肝試しなんてする場所、他にもあったでしょ。ここのトンネルは本物だから、絶対ダメだって」


「バーカ。お前ら何、ビビってんの? 前の修学旅行の時みたいに漏らしちまってるだけだろ。あぁ、そうだ。お前らあいつをいじめてばっかだから、おどかそうとでもしてんだよ」


「お前だって、やってるくせに」


「あっ、なんか言ったか。お前、最近調子に乗ってないか」


「ごめん。悪かった。だから殴らないで」


「おーい」


「ねぇ、声、聞こえない?」


「やっと戻ってきたのか。ったく、殴られ損。あいつでも一発殴って……」


「す、すみません。遅くなって」


「うぉっ、と、もういたのかよ。暗いからすげえ遠くにいるような気がしたぜ」


「で、なんでこんな遅くなったんだ。幽霊でもいたか。もしも幽霊を見たってバカみたいなこと言ったら殴るからな」


「えっ、み、見てな――」


「見てないって言っても、殴る。つまんねーから」


「ねぇねぇ、今日はもう帰ろ。なんか私、寒くなってきた」


「こ、怖いですもんね」


「はっ、怖くねーし。怖いから寒いんじゃねーし、寒いから寒いんだし。つーか、お前が遅いからだろ。ハゲ。つーか、マジでなんでこんなに遅いんだよ」


「トンネルの入り口で踏ん切りがつかなくて……」


「またビビってたのかよ。また前みたいに漏らしてねぇだろーな。お前が漏らしたせいで、俺がどんだけあのクソ教師に切れられたか分かってんのか?」


「知らないよ。そんなこと……」


「あっ、なんか言ったか。お前、最近調子に乗ってないか」


「俺の真似かよ。ダサ」


「まぁ、ダサいのはいつものことだけどね」


「くそっ」


「……その漏らしたって話があったから――」


「あっ、なんか言ったか!」


「戻って来た時に、修学旅行のこと話してたから声掛けづらかったんだよ……!」


「漏らしたお前が悪いんだろーが!」


「ね、ねぇ。なんでその話知ってるの?」


「なんで、って……近くにいたから」


「だって『おーい』って呼んでたじゃん。そんなに遠くはなかったけど、私たちの話が聞こえる距離じゃなかった……。あの話って、あれより前だったよね?」


「何の話? 『おーい』なんて言ってないよ」


「ねぇ」


「な、なぁ。今の声って、お前――?」


「そんなわけねーだろ。もう一発殴るぞ」


「な、殴ってから、い、言うなよ……」


「ねぇ」


「う、うるさい。静かにしてよ。お願いだから。もう帰ろうよ!」


「やっと、気付いてくれた」


「きゃー」「ぎゃっ」「うぉ」「うわーーー」

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