第364話 12月21日【妹離れと色付きリップ】
実は、妹と一緒に色付きリップを使ったことがある。
唇を薄桃色に染めた直後、興奮した様子で「お姉ちゃん可愛い!」と羨ましがられたのだ。
最愛の妹から褒められ、有頂天にならない筈はない。
すぐさま陽菜の唇を薄桃色へと染め上げ、そのまま二人で登校した。
……この日に見た妹の顔は今も忘れられない。
当時、あたしは薄桃色の唇が学校でどう見られるかなんて……深く考えなかったのだ。
◆
透明なリップを差した口から溜息がこぼれる。
「まだ決まってないの?」
じとりと見つめた途端、ちなは慌てて目線を逸らした。
この子は、
「少しはうちの妹を見習ったら? 陽菜なんて、一か月前から親とあたしとサンタに『コレが欲しい』って手紙書いてたし」
「……陽菜ちゃん、まだサンタ信じてるの?」
再び目が合った親友へ、「そんな訳ないでしょ」と肩を竦めて返す。
「あの子はプレゼントの数を減らさない
しかし、呆れるあたしとは対照的に、親友は感心した様子で頷いた。
「
これを大真面目な顔で言うのだから、本当に困ってるんだろう。
再度、溜息をこぼしつつ、胸中で『仕方ないな』と呟く。
そして、お兄さんに
「え? 別に、何でも」
ぷつん、と何か切れる音がする。
「……智奈美?」
特別低い声で名前を呼ぶなり、ちなの肩がびくりと震えた。
「……な、何?」
本気で怒った訳でもなし……その驚いた表情で今日は満足しよう。
「何でもない。それより、ちなが何をあげるのかは決まってる?」
てっきり、こっちでも悩んでるのではと心配していたのだが、
「それはもう決まってるけど?」
予想外の返事が来る。
「そうなんだ?」
「ん。茉莉のも決めたよ?」
つい、嬉しい気持ちが顔を出す。
「へ、へー……ちなみに何か訊いてもいい?」
「うん。色付きリップにしようかなって……ただ、どんな色がいいかはわからないから、買う時は付き合ってね」
「それはいいけど、どうして
首を傾げると、ちなは微笑みながらこう告げた。
「だって、来年から一人暮らしだし……茉莉に使ってほしいなって、思って」
ちなは無色のリップを使う訳を知っている。
余計なことをと思う反面……気遣いが嬉しくもあり、
「その、ありがと」
なんというか……
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