第365話 12月22日
今、彼女は背伸びをしている最中だ。
けれどそれは、
ちなは大人になる一歩を踏み出す前に……これから見る景色を、踵をあげて覗いているんだろう。
でも、だからこそあの子はまだ子どもなんだ。
◆
部屋の窓から夕日が見えたので、『今日はもう来ないな』と思う。
その後、珈琲を飲もうと
(慣れないとな。ちなが卒業したら、今日はもう来ないじゃ済まなくなる)
心なしか、口に含む珈琲が普段よりも苦い。
しかし、カーテンの隙間から月明かりが入り込み始めた頃――スマホに通知が入り、感傷的な気持ちはなくなってしまった。
『今から、友達の家まで迎えに来てください』
◆
車へ乗り込むと、また一件の通知が入る。
スマホを確認した途端、『本当に二人は似た者同士だな』と思った。
『駅まで迎えに来て! 今すぐ!』
一瞬、断ろうかとも考える。
だが、駅で待ち合せるならちなを迎えに行く過程で拾えるだろう。
だから、『了解です』と返事をしたけれど……駅に着いた瞬間、後悔が生まれた。
「こっちこっち! 早く! 店が閉まっちゃう!」
「店?」
腕を引っ張られながら、「どういうことですか?」と訊ねる。
すると――、
「ちーちゃんへのプレゼントまだでしょ! もしもの為に買わせとこうと思って!」
――などと言ったので、無理やり車に押し込めた。
バックミラーで確認すると、先輩は不満そうに頬を膨らませている。
「だって、直前に何か言われても間に合わないかもしれないでしょ?」
つい、確かにと頷きそうになった。
だが、『待ってほしい』と言われて、待たない訳にはいかない。
「けど、ここで隠れて何か買ってしまったら……ちなは本気で怒ると思いますから」
「……それは、そうかもしれないけどさ」
不機嫌そうに結ばれた唇。
それは、ちなと会うまで開かれることはなかった。
◆
「わざわざ、ありがとうございます」
会釈するちなに後部座席を指差す。
直後、彼女の表情が柔らかくなった。
どうやら笑顔を取り戻した彩弓さんと目が合ったらしい。
それからすぐにリアドアが開いて閉まる。
さっそく車を出そうと思った時――こんこんと、茉莉ちゃんに窓
「少し、いいですか?」
窓を開けるなり、顔が近付いて来る。
「何かな?」と首を傾げた所――、
「ちなのこと、ちゃんと待っててあげてくださいね」
――どこか大人びた口調で告げられてしまった。
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