初雪はつもる、雪のように
第363話 12月20日(そんな反応、するなんて思わなかった……)
放課後、帰り道を歩く最中――、
(今年はランニングシューズ。去年はガラス製のマグカップとアロマキャンドル。一昨年は入学祝いに財布をもらって、ストールはクリスマス、あと誕生日には確か……)
――これまでに彼からもらったあらゆるプレゼントを指折り数えてみる。
利き手の一家がお辞儀をする度、脳内に浮かでは消えていく贈り物たち……幼い頃にもらったぬいぐるみを思い出した所で、深い溜息が出た。
(……家族でもないのに、
以前、夕陽から『彼がしているのはお姫様扱いだ』と指摘されたが……今更になって、頷けてしまう。
あれこれ悩んだ末に――、
(そうだ。これまでにもらったことがない物をリクエストしよう。初めてもらうから特別感が出るかもしれないし……)
――などと思い立った訳だが……後悔することになるとは予想できなかった。
……認めるしかない。
彼は、私が喜ぶ選択をし続けていた。
これまでに贈られた物を除いていけば、もらっても嬉しくない選択肢しか残りかねない。
(……また、考え直しか)
そうして、前方不注意気味にぼんやり歩みを進めていると――
「ただいま」
「……あれ? ちな?」
――玄関を間違えていた。
「…………」
つい昨日まで一ヶ月もの間、彼の家に帰って来ていたんだ。
考え事に気を取られていれば、こういう事も起こりえる。
だから、恥ずかしくない。
そう自分へ言い聞かせてみたものの……羞恥心を抑えきれなかった。
しかも――、
「まさか、間違えたのか?」
――追い打ちが飛んで来たのだから堪らない。
ただ、優しく『お帰り』と迎えられるよりは万倍マシだった。
すぐさま目線を逸らし、靴の踵へ指を入れる。
そして、細い息継ぎを挿んでから、「まさか」と強がった。
「私はただ、また勉強する場所を借りに来ただけです」
秋頃まで続けていた習慣を言い訳にした途端、少し頭が冷える。
玄関マットを踏んだ時には、どう言い返してやろうかと考える余裕もできた。
「そんなこと言って、実はあなたが寂しかっただけじゃないですか?」
即座に、彼の余裕ぶった笑顔や冗談めかした返事を想像する。
しかし……返ってきたのは沈黙だった。
「…………」
「……え?」
胸中に言葉が浮かぶけれど――、
(まさか、図星だったんですか?)
――声に出せる筈がない。
頬が熱くなった瞬間、冷静だった自分はいなくなる。
「部屋、お借りしますっ」
急いで隣を通り過ぎる刹那、少しだけ照れくさそうな横顔が見えた。
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