第362話 12月19日(感謝の気持ちを込めたなんて、秘密なのに……)

 ここ一ヶ月、彼と彩弓さんは私にとって先生だった。

 だから、最後は二人が食べたいものを作りたいと思ったのだが――、


「グラタンとオムライス……」


 ――リクエストされたのは、どちらも食事でメインをはれる料理だ。

 それに作り方も異なる部分が多い。

 上手くできたとしても人数分を普段通り皿へ盛り付けていけば、ひどく手間が掛かることは目に見えている。


 しかし、足りない食材の調達へ向かう道中、ネットでパーティオムライスというものを知った。

 つまり、巨大なオムライスを作っておき、後から空の皿へ人数分に取り分けていく訳だ。

 これなら、グラタンでも同じことができる。




 そして、大きな耐熱容器いっぱいに作ったグラタンと、こんもりしたオムライスをテーブルへ並べたら……ビュッフェのような雰囲気が出た。

 食卓を飾る料理はご馳走と呼べないかもしれないが、パーティ感はある。


 リクエストされた時は、『面倒くさいことになった』と思ったけれど……ご飯会を締めくくるには丁度いい品だったのかもしれない。


 今日でご飯会はもちろん、彩弓さん達との共同生活も終わってしまう。

 だけど、胸の奥に寂しさなんてなくて――、


「……美味しいですか?」

「うん、凄く美味しい!」

「料理はもう一人前だな」


 ――二人のほこんだ顔を見るなり、達成感で頬が緩んでしまった。


「なら……良かったです」



 撮影していた料理の写真を茉莉へ共有した途端に既読と表示され、メッセージが届く。


『美味しそう!』

『受験が終わったらあたしも作ってもらおうかな?』


 文面にはクラッカーを持ってはしゃぐ犬のイラストが続き、『お祝いだ!』というボイスまで再生された。


(……お祝いか)


 料理を作るかはさておき、無事に受験が終わったらお祝いするのはいい考えだ。

 そこで――、


『いいね』

『受験が終わったら、で料理を持ち寄ってパーティするのはありかも』


 ――と返信した。

 直後、『いいねっ!』と興奮した様子の一言が返って来る。


『クリスマスもお正月も遊べないだろうし思いっきりやろ!』


 短い文章ながら、感嘆符『!』に込められたフラストレーションは計り知れない。

 だから――、


『うん』

『そのためにもまずは目の前のことを頑張ろう』


 ――お互いを励ます意味で、そう送ったのだけれど……茉莉からは、『目の前のこと?』と疑問符で返された。


『何?』


『そういえば、最近聞いてなかったんだけどさ』

『クリスマスプレゼントのリクエスト、何にするかは決まったの?』

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