第360話 12月17日(あなたの言葉は、私にとって……)
期末試験が終わったということは、部活動の再開を意味する。
勉強会で集まっていた茉莉たちと別れる
「あの、本当に見ているだけでいいんですか?」
申し訳なさそうに首を傾げる秋へ、「ん。十分」と伝える。
「……一応、『やめた』って宣言してる手前ね」
直後、綺麗な動きで竹刀を振っていた後輩の口がぽかんと開いた。
「……秋?」
剣道でいうところの残心を行っている訳ではない。
ただ、ぼうっと静止してしまったようだ。
「……大丈夫?」
「あっ――す、すみませんっ! その……ちーちゃん先輩、すごく自然に笑ってたので、そんなこと言いながら、ふらっと竹刀を手に取ってくれるんじゃないかって」
竹刀を握りしめる秋へ、「そんな風に見えた?」と訊ねる。
こくりと頷く姿はなんというか、自然体で……妙な期待感など抱いてはいなかった。
「今のちーちゃん先輩、剣道をやめたなんて……嘘みたいです」
小声で呟かれた言葉を、そっと受け容れる。
だって、気付いてしまった。
今の私は、以前より……剣道と関わることに抵抗を感じていない。
だから――、
「……もしかしたら、やめてなかったのかもしれないよ。剣道」
――いつか、彼から聞かされたような言葉を口にした。
「え?」
「私がやめたのは、あくまでも部活……でしょ?」
◆
帰宅後、リビングで志望校の過去問と対峙する。
「……よし」
一通り問題を解き終わり、自己採点へ移ろうとした時――、
「お疲れ様」
――彼が、珈琲を差し入れてくれた。
「ありがとうございます」
先日は言えなかったお礼の言葉。
それを彼に伝えられただけで胸の奥が温かくなる。
そして、一段落しようとマグカップを手にした瞬間――彼の視線が問題集へ注がれていることに気付いた。
「気になりますか?」
「少しだけ」なんて答えが返ってきたけれど……気にしていることはバレバレだ。
「別に、見ても大丈夫ですよ? 隠している訳でもないですし」
平気な顔で言ってみせたが……あの夜が無ければ、彼の目に付く場所で、コレを広げることはなかったと思う。
「……ここが、ちなの行きたい所なんだな」
「……まだ、選択肢の一つと言うだけです」
口出ししないと言ってくれて、私を信じてくれていることがわかった。
それだけで、心へ余裕が生まれた自分の単純さには呆れてしまう。
だけど、もうこの気持ちを依存だなんて思わない。
もっと前向きな感情だと、捉え始めていた。
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