第357話 12月14日(自分で決めたいのに、決められないの……)

 二学期に行われた期末試験は内申点に影響する最後の試験だ。

 だからだろうが、級友たちは普段よりも返却された数字に一喜一憂していて……それは目の前にいる親友たちも例外ではない。


「よし! なんとか英語もギリギリ4になりそう!」


 茉莉と一緒に夕陽の答案用紙を覗き込む。

 赤字で書かれた点数60点が見えるなり、茉莉は眉を顰めた。


「それで4? 3っぽくない?」

「そこは大丈夫! 先生が『最低60点取ったら提出物と授業態度で4にしてやれる』って言ってたから!」

「……本当にギリギリだね」


 しみじみと感想を告げた直後、夕陽は答案用紙を小さく折りたたんでしまう。


「成績表に4がつくならギリギリでも何でもいいのっ」

「それはそうだけどさ」


 夕陽が「でしょ?」と言うなり、茉莉は肩をすくめた。

 そして、夕陽は『自分の番が来た』とでも言うように茉莉の答案用紙をはしゃぎながら覗き込み返したのだが――、


「……何コレ、普通に良いじゃん」


 ――書かれた点数86点を目にした途端、声がげんなりする。

 しかも、


「あれ? ちなのは見ないの?」


 なんて質問が飛んでくると、


「智奈美の英語は見てもつまんないでしょ?」


 と溜息交じりに返した。

 そこで、「98点だったけど?」と訊かれてもいない点数をあえて教える。


「ほらみろやっぱり、そんな点数聞きたくなかった!」

「それ、むしろ何を間違えて満点にならなかったの?」

「ケアレスミス。疑問文で疑問符『?』を付けなかったから」


 今日の授業は放課後を迎えるまで、始終慌ただしく過ぎていった。



 マフラーへ口元を埋めた上で、ダッフルコートのフードは目深に被る。

 でも、完全防寒した姿をあざ笑うみたいに、冷たい風はフードの中へと入り込んで来た。


 寒さで体が震え、無意識に唇をぎゅっと結ぶ。

 けれど、自然と口数が減っていく私に茉莉は構わず話しかけた。


「五教科平均、どれくらいになりそう?」

「……たぶん4,8」


 感心したような声をあげた後、親友は「ねぇ」と質問を続けていく。


「志望校、いけそう?」

「……合格はできそう」

「県外の大学、なんだよね?」


 黙って頷いた瞬間、次に飛んでくる質問が予測できてしまい――、


「まだ、彼に話してないんだ」


 ――気付けば、自分から吐露していた。


「……ずっと言わないつもり?」

「そういう訳じゃない……けど」


 相談したら彼の意見がそのまま答えになってしまいそうで……。


 『自分で決められないのではないか?』


 そう思うと、情けなくてだんだん話せなくなっていた。

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