【変わらないメモリーボックスに『特別』を添えて……】
第343話 11月30日(『まだ』……ううん、『もう』時間がない)
リビングに飾られたクリスマスツリー。
てっぺんの星飾りを見つめて、彩弓さんはにんまりと笑った。
「なんか一気にクリスマスって感じするね」
ぼんやりと突っ立っていた彼女を通学鞄片手に追い抜いていく。
「……しますけど。気が早くないですか?」
玄関で履き終えた靴の踵へ指を滑り込ませていると、後ろからのんきな声が聞こえてきた。
「えー、そうかなぁ? だって、明日から十二月だよ?」
「でも、まだクリスマスまで三週間以上ありますよね?」
「っていうことは、もう一ヶ月もないってことだ」
「…………」
言い方ひとつで、印象は変わるものだ。
「……はぁ」
深い溜息を吐いた途端、「どうしたの?」と心配されてしまった。
「いえ、試験までもう二ヶ月もないんだなって」
直後、背中にどんっと衝撃を感じる。
『なんですか?』と文句を言おうとした瞬間――、
「ごめんっ、ちーちゃん! 大丈夫、まだ一ヶ月以上あるよ!」
――耳元で叫ばれたのだった。
◆
「いただきます」と言って合掌するなり、茉莉は肩を竦めた。
「夕陽、ご飯の時くらい勉強やめたら?」
お箸片手に単語帳をめくっていた夕陽の手がぴたりと止まる。
「……それ、智奈美にも言いなさいよね」
矛先が向くと理解した私は、咄嗟に――、
「気にしないで。私のは勉強じゃないし」
――と言って、読んでいたレシピ本の表紙を見せた。
しかし、夕陽から「いやいや」と反論があがる。
「それだって勉強じゃない! 料理の勉強!」
「これは息抜きだから。気分転換の内でしょ」
「あたしから見たらどっちもどっちだけどね」
茉莉の一言で私と夕陽は互いに言葉を飲み込んだ。
その後、二人で目配せをして、どちらともなく食事に集中していく。
「ま、気持ちはわかるけどさ。こうしてる時間が勿体ないって気持ち」
「そうなのよ!」
突然弾けた悲痛な声に、思わずびくりと体が震えた。
「なに、急に……」
「だって、こんなことならもっと早くから勉強しておけばよかったなって」
項垂れる友人の気持ちは痛い程理解できた。
だから「……気持ち、わかるよ」と口にしたのだが――、
「嘘だ! この優等生共めっ! 先週の小テスト、悪かったのアタシだけだったじゃん!」
――夕陽は優しさを知らずに育った野良犬よろしく吠えだしてしまう。
その後、半べそかいてお弁当をかき込み始めたので……、
「今は、そっとしとこっか」
「……ん、それがいいかも」
茉莉と頷き合ってから静かに昼食を再開した。
「ま、きっとなんとかなるよ」
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