第342話 11月29日(……まさか、そういうこと?)

 いっそこのまま星飾りを隠してしまおうかとも考えた。

 あれだけ探していた物を家で見つけて、しかもぬいぐるみが抱いていたとは言いたくない。

 子どもの時にしたことだし、怒られないとは思う。

 でも、『小学生の時に悪戯をしていました』と、伝えるのはとても恥ずかしかった。




「あの、コレ……」


 星飾りを手渡すなり、彼はきょとんとしてみせる。


「これ、一体どこに?」


 当然の質問に、一度唇を結ぶ。

 『話すって決めたでしょ?』と自分へ言い聞かせ、静かに口を開いた。


「その……家で、ぬいぐるみが抱いてました」


 ありのままの真実を伝えたが……頭上に疑問符が見える。

 その後、彼はしばらく黙ったまま時計の針が進む音に耳を傾け――、


「あ、そっか。小さい頃にちなが持って帰ってたのか」


 ――大方の事情を察したらしく、一人でうんうんと頷き始めた。

 しかし、納得してすぐ新たな疑問が生れたらしい。


「……なんで星飾りなんかを?」


 首を傾げるなり眼差しは私へと向けられる。


「私に訊かないで、もう理由なんて覚えてないから」


 つんと突っぱねてみたら「まあ、結構前のことだしな」なんて答えが返って来た。


「……結構って、まだ六年くらい前ですよ」


 思わず、言葉に棘が生えてしまう中――、


「あなたこそ、何か心当たりはないの?」


 ――ふと、心に浮かんだ疑問を声に出す。


「例えば、これを私にあげたとか」

 

 別に、悪戯の責任逃れがしたかった訳ではない。

 ただ、もしかして……彼なら、私が忘れてしまったことも覚えていてくれるんじゃないかと思たのだ。


 だが――、


「ごめん、俺も全然覚えてない」


 ――淡い期待を裏切る答えで、僅かにあった反省しようという気持ちがすっかりなくなってしまった。


「もういいです。どうせ、あなたが私を怒らせた腹いせに悪戯をしようと思い付いたんでしょ」

「俺って、そんなにちなを怒らせてた?」


 まるで今は怒らせてないような口ぶりだ。

 やれやれと肩を竦めながら、ツリーへと歩み寄る。


「かして」


 受け取った星飾りを飾ると一気にクリスマス感が出てきた。


「何にせよ、見つかって良かったな」

「……はい」

「正直に言うと、俺がなくしたと思ってたんだ」

「まあ、あなたなら本当になくしそうですしね」


 「ひどいな」と笑う横顔に口元が綻ぶ。


(悪戯だったかもしれないけど、星飾りは私が持っていたのがかえって良かったかもしれない……


 そんなことを考えた直後、妙な既視感デジャヴがあった。

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