第344話 12月1日(アレ、原作が既につまらなかったじゃないですか……)
昨日、夕陽にレシピ本を読むのは息抜きで、勉強じゃないと話した。
しかし、半分は嘘だ。
レシピ本を読むことが息抜きになっているのは嘘じゃない。
けれど、本当は映画を観たり、小説を読んだりしたかった。
でも、この時期に勉強以外のことをする罪悪感は重過ぎる。
だから自分に、『これは料理の勉強だから、遊びじゃない。だけど、受験勉強じゃないから息抜きになる』と言い聞かせていた。
だが、自分を甘やかすことに不十分でいることは……今の生活環境では許されないみたいだ。
◆
「レイトショーですか?」
炊事場で夕飯の支度をしようとエプロンへ触れた直後、彼から映画に誘われた。
「そう。仕事終わりの彩弓さんとは現地で合流して、夕飯も外で一緒に食べる」
「…………」
一度広げてしまったエプロンをたたみ直しながら、眉間に皺が寄っていく。
この状況は、ダイエット中に菓子を差し出されたようなものだ。
誘われたことが嬉しい反面、憎らしさで空腹感を忘れてしまえそうだった。
「たまには気分転換でも……なんて言うつもり? 映画を観る暇があるなら勉強をしなきゃいけない。今はそういう時期でしょ?」
間違ったことを言ったつもりはない。
ただ、正しい主張だからと免罪符を盾にして彼へあたるのは……ひどく子どもっぽい甘え方だと思った。
一瞬で自己嫌悪に陥り、きゅっと唇を噛む。
次第に、目を合わせていることもつらくなってきた。
しかし――、
「確かに今はそういう時期だけどさ……今日、この時間は勉強をしたらいけない場面だよ」
――目線は、まだ重なったままだ。
「……私、遊ぶための言い訳が欲しい訳じゃありません」
「わかってる」と彼が頷く。
「でも、勉強だけしてればいいなら、そもそもこんな生活はしてないだろう?」
エプロンを握りしめる手に力がこもる。
思わず、「あ……」という声が漏れた。
勉強を最優先にするなら、料理なんてしている暇はない。
家で大人しく勉強をして、母を頼るべきだ。
「……最初から、矛盾してたんですね」
急に、肩の力が抜けてしまう。
「いや、ただ……頑張り過ぎてただけだな」
甘い言葉にやれやれと首を振った。
あまり自罰的に勉強をするのは……もうやめておこう。
「それで? 映画は何を観に行くか、もう決めてるの?」
「そうだな……前に、二人で読んだ小説は覚えてるか?」
「……記憶喪失モノの、
「あれ、映画化して上映中だってさ」
苦笑いする彼に、「あれだけはやめましょう」と伝えた。
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