【めりーふらいんぐなクリスマス】
第337話 11月24日(クリスマス、もうすぐなんだよね……)
自販機で『あたたか~い』と書かれたボタンを押し込む。
滑り落ちてきた飲料缶で暖を取っていると――、
「あと一ヶ月でクリスマスかぁ」
――茉莉が校庭の常緑樹を眺めて呟いた。
「ちなはさ、今年のクリスマスってどうするの?」
「……普通に勉強じゃない? 受験だって近いし」
プルタブを開けながら答えた途端、深い溜息が聞こえてくる。
「まあ、そうだよねぇ。受験生だもんね……」
「遊んでる訳にもいかないか」と続いた声は重たく、薄暗い未来に落胆しているようだ。
「あたしの家さ、去年まではずっと家族でクリスマスケーキとか作ってたんだけど、今年は受験だから売ってるので済ますんだって。一日くらいいいじゃんとも思うんだけど……それで落っこちたらカッコ悪いもんね」
つまらなそうに結ばれた唇は不満げで、横顔も元気がない。
「残念だね」と返して珈琲を飲んだ直後――、
「ふぅ……」
「はぁ……」
――理由のことなる溜息が重なった。
そして、クリスマス談義はこれで終わりかなと思い始めた時、
「そっちはどうだったの?」
予想外に話を振られた。
思わず、珈琲を飲む手がぴたりと止まる。
「……どうって、何が?」
「去年のクリスマス。終わってからプレゼントを買うのに付き合ったけどさ……当日のこと聞いてなかったなって」
さっと目線を逸らすなり、脳内で会議が始まった。
まさか、彼と彩弓さんのデートに嫉妬して、プチ家出をしていたなんて言える筈がない。
だが、
「……ちな?」
こてんと頭を横に倒す親友へ……嘘は吐けなかった。
「……一人で、出掛けてた」
「一人で? 何しに?」
「……コンビニで、珈琲買ったり」
「……クリスマスの夜に?」
事実に即してはいる……けれど、疑問符を聴く度、私のすまし顔は触れられたドライフラワーみたいに崩れていく。
そして、
「去年ってさ、お兄さんと彩弓さん、まだ付き合ってたよね?」
核心を突かれた瞬間、手から缶が滑り落ちそうになった。
「か、関係ないから……」
「そう? ならいいけど」
「…………」
親友へ向き直ると、その瞳はまた校庭を見つめていて……。
「うちの学校さ、クリスマスパーティとまでは言わないから、せめてあの木を飾り付けてくれたりしないかなぁ」
「えっ……あ、うん。そうだね」
私は、もう話題が変わったんだと胸を撫でおろす。
しかし、まだ温かい珈琲を飲もうとしたら――、
「今年はさ……がんばっても良いと思うよ?」
――そんな風に言われて、中身を吹き出しそうになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます