【秋に移りゆく……】

第307話 10月25日(……何か、新しいことかぁ)

 彼の趣味は映画鑑賞くらいだと思っていたが――、


「……また、増えましたね」


 ――最近、趣味が増えたらしい。

 二、三ヶ月程前から彼の家でぽつぽつと見かけるようになっていた風景写真。

 玄関に飾られた写真を見ながら「集めてるんですか?」と訊ねる。

 しかし、彼は首を傾げるなり「何を?」と返した。


「コレです。風景写真のこと……少し前から飾るようになったでしょう?」

「ああ。だって、せっかくもらったんだ。飾らないともったいないだろ?」

「……もらった?」


 私の頭上に疑問符が浮かぶなり、彼は「ちょっと待ってろ」と言って背中を向ける。

 しばらくして戻って来た彼の手には、封筒が握られていた。


「それは?」

「これまでにもらった写真だよ……そうだ。気に入ったのがあったら持って帰っていいぞ」


 差し出された封筒を受け取り、ひとまず玄関からあげてもらう。

 その後、ソファに座って写真を眺めていたのだが……なんというか、ドラマチックで良い写真が多かった。


 どの作品にも、映画に登場するワンカットのような――再生ボタンを押せば音が聞こえ始めて、今にも映像として動き出しそうな雰囲気がある。

 表題を重ねたら、映画の宣伝ポスターに採用できそうなモノが多かった。


 そうして気に入った写真を数枚よけながら鑑賞していると、珈琲が運ばれてくる。


「良いのがあったみたいだな」

「ええ、まあ……写真家の知り合いなんて居たんですか?」


 直後、彼はぱちくりと目を見開いてみせた。


「写真家? それ、撮ったのは彩弓さんだぞ?」

「……はい?」


 彩弓さんの名前が出た途端、驚いて写真に向き直る。


「これを、彩弓さんが?」


 いつだったか、彼女にはカメラの才能があると思った。

 けれど、まさかこんなに早く上達するなんて予想外だ。


「…………」

「ついでに教えておくと……これと、これ。小さなコンテストで審査申賞をもらったらしい」


 言葉を失っていたら、彼から追い打ちのような情報が提供される。


「そんなの、普通にもらって大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないか? ま、ダメだったとしても彩弓さんに怒られるのはきっと俺だしな」


 何も大丈夫じゃない彼の発言に呆れつつ、切り取られた風景たちへ視線を戻す。


「彩弓さん、すごいですね」

「そうだな。写真、始めてまだもないのに」

「……そうじゃなくてですね?」

「え?」


 結果を残したことも確かにすごいのだけれど……私は、新しいことへ挑戦して楽しんでいる姿勢をこそ、すごいなと思ったのだ。

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