第303話 10月21日(どうしよう……勝ったら一回だけなのかな?)

 明日で中間試験も終わる。


「クレープって、試験が終わったら食べに行くんですか? それとも翌日の土曜日?」


 試験の返却が済む前から勝利を確信する私へ――、


「普通に考えたら、試験の返却が終わってからじゃないか?」


 ――彼は正論を返した。


「……確かに、そうなんですが」


 彼の言うこともわからないではない。

 けれど、三日目の試験も前日同様に手応えがあった。

 しかも、最終日は得意科目で固まっている。


「……今回に限っては自信しかないので」


 本音を言うと……『結果を待つだけ無駄』という心境だった。

 それに、別に彼もクレープを奢りたくない訳ではないだろう。


 ならば、と少し思考を巡らせた。


「でしたら、こういうのはどうですか? 今週の土曜日に、二人でクレープ屋に行きます。もちろん、あなたの奢りで……そして、試験の結果が出た後、もし平均点が85点以下だったら今度は私の奢りでクレープ屋に行きましょう」


 「それで、帳尻は合うでしょう?」と提案する。

 直後、彼は「ん?」と首を傾げた。


「それって……もしも、ちなが賭けに負けたら――ただ、二人で割り勘してクレープを二回食べに行っただけにならないか?」


 素朴な疑問が溶けるように耳へ入って来る。


「それは……言われてみればそうですね」

「ちな、あんまり考えてなかっただろ?」


 それは図星だったけれど、反省なんてしない。

 正直言って、本気で賭けに負けると考えていなかった。


「じゃあ、どうします? その時は私の奢りで三回目でも行きますか?」


 そうすれば、一度彼へ奢った形になるだろう。

 ただ……これだと、まるで私がただ彼と出掛けたいだけみたいに、思われたりしないだろうか?


「…………」


 妙な考えが浮かび、彼から目線を逸らした。

 そして、冷静に状況を整理してみる。

 もしかして、帳尻を合わせるだけなら彼にクレープ代の返金さえしておけば全て解決してしまうのではないか?


 わざわざ彼を三回もクレープ屋に誘ったことが今更恥ずかしくなってくる。


 だけど――、


「なら、そうするか」


 ――彼が頷いた瞬間、ほっと胸を撫でおろした。

 だが、すぐに「たださ」と言葉を付け加えられたので、一瞬鼓動が跳ね上がる。


「なんですか」

「いや、三回も続けてクレープ屋に行くのはどうかと思ってな。その都度、店だけ変えるってのはどうだ?」


 心音が、ゆっくりと落ち着きを取り戻していく。

 なのに――、


「別に、いいですけど」


 ――心のくすぐったさは、なかなか収まってくれなかった。

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