第297話 10月15日«憧れの先輩»
入学してからよく一人で図書室を利用していた。
なので、実は秋ねぇに聞かされる前から向坂先輩のことも知っていたのだ。
よく図書室で見かけたし、うちは図書カードがアナログだから同じ本を借りた時に名前もわかる。
試験期間になると図書室で勉強会を開いていたし……それは、今回も変わらないみたいだ。
◇
「栗栖? どこ見てるの?」
離れた場所で友人と座る向坂先輩を見ていたら、宮が絡んで来た。
「別に。ただ、あそこに向坂先輩がいるなって思っただけ」
素っ気なく答えて教科書と向かい合う。
けれど、私が勉強に戻った途端、宮の意識は向坂先輩へ向いてしまった。
「どこどこ?」なんて独り言をこぼし、友人はミーアキャットのように背伸びする。
そして、向坂先輩を見つけた瞬間――、
「あっ、本当だ! 挨拶しにいこっか」
――
「挨拶って……別に同じ部活の先輩後輩って訳でもないでしょうが」
「えー……けど、逆に知らない仲でもなくない?」
「今、先輩達は試験勉強してるんだよ? って、それは私達もそうなんだけど……よく知りもしない一年に声掛けられても迷惑でしょ?」
「そうかなぁ?」
宮はサイコロでも振るように筆記用具を手放す。
その後、転がったソレが静止するなり――、
「でも、栗原先輩は向坂先輩って後輩にすごく優しいって言ってたよ?」
――聞きかじった情報を披露した。
「だからって」
「それにほら、もしかしたら勉強とか教えてもらえるかもしれないし」
この子は――自分から私に「勉強教えて」って泣きついておいて、あっさり鞍替えする気なのか。
「だったら、一人で行きなよ。私もここで勝手にやってるからさ」
直後、宮は「えっ!?」と小さな悲鳴をあげる。
さも意外そうな顔をしてみせるが……どうしてついて来てもらえると思えたんだろう。
「さ、流石によく知らない先輩に一人で声掛けられないんだけど」
「…………」
部活中は物怖じせず、普段の言動も大雑把な癖に……宮は変な所で小胆だ。
「はい、この話終わり。いい加減にしないともう勉強教えないからね」
肩を竦めて再び教科書に向き直る。
しかし、私と違い宮は手にスマホを握りしめていた。
「何してるの?」
「え? 栗原先輩に向坂先輩のこと教えてあげようと思って。もしかしたら先輩と一緒に勉強できるかもしれないし」
ウキウキとメッセージを打ち込む宮の姿に呆れつつも――、
「わかったから、さっさとしてよね」
――彼女を止めることはしなかった。
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