第298話 10月16日(もし、晴れたなら……)

 今朝から激しい雨が降り続いていた。

 窓の外から聞こえてくる雨音だけで、傘が役に立たない雨量だとさっせる。


(……学校、休みで良かった)


 しかし、ほっと胸を撫でおろす一方で出歩けない空模様にもやもやしている自分がいた。


「…………」


 勉強机から離れ、窓を遮るカーテンに触れる。

 そっと裾をめくってみたら、道路に浅い川が出来ているのが見えた。

 しかも、降り注ぐ大粒の雨が跳ね上がるせいで、アスファルトは一面真っ白に見える有様だ。


「……本当に、すごい雨」


 カーテンから指を離し、再び勉強机へ戻る。


 筆記用具を手に取りながら『今日は出掛けない方が賢明だ』と自分へ言い聞かせた。

 今、外に出るのは服を着たまま水風呂へ浸かるのと同義だ。

 出掛けるにしても、せめて雨脚が緩むのを待つべきだろう。


(……雨、止むのかな?)


 触れたばかりの筆記用具を手放した手が、スマホへと伸びる。

 検索画面を開き『天気予報』と打ち込んでみたが……表示されたのは夜中まで続く雨マークと降水確率90%という数値だった。


「……はぁ」


 思わず溜息がこぼれる。

 八つ当たりでベッドにスマホを投げると、布団へ小さなクレーターが生まれた。

 雨音に混じって『ワタシに当たらないでよ!』なんて文句が聞こえてきそうだ。


 その後、再び筆記用具を握りしめたのだが……まるでやる気が湧いてこない。

 そのまま開きっぱなしの教科書と見つめ合うこと数分――気付いた時には勉強道具が指先から抜け落ちていた。


「なんか……変な感じ」


 ここ最近、学校が終わったら彼の家へ行くことが当たり前になっていたせいだろうか……?

 自分の部屋にいるにも関わらず、どこか落ち着かない。

 勉強をするためのルーティーンが崩れたと言えば大げさなんだろうけど……必要な過程を踏んでない気がしてならなかった。


 けれど、『じゃあ彼の家へ行こう』とはならない。

 だって、学校もない大雨の日にわざわざ彼の家へ行くなんて……まるで、私が彼に会いたがっているみたいだ。


「…………うん。ない」


 『そんなことあり得ない』と結論付けて部屋のカーテンへ視線を移す。

 耳に届くのは数時間前から変わらない強く地面を打つ雨音。

 アスファルトを流れる浅い川の姿が、脳裏で再生される。


(……降水確率90%か)


 もしも、夕方までに晴れるか否かで賭けをするとしたら、普段は晴れない方に賭けるだろう。

 でも――ぼんやりと雨音に耳を傾けつつ……今日の私は、たった10%に賭けてみようと思った。

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