第296話 10月14日(まあ、秋なら心配ないか……)
終礼のチャイムを合図に茉莉と二人で図書室へ向かう。
無論、試験勉強に集中するためだが……ずっと集中力を維持していられる訳でもない。
そして、休憩中に彼とした賭けの話をすると、茉莉は呆れ顔で応えた。
「……それで一日中勉強してたの? ちょろすぎない?」
返す言葉もない。
ただ、結果的に勉強へ身が入ったんだからいいと思う。
そうして仏頂面でいたら、すっかり手の止まった茉莉が『でも』と話を切り出した。
「でも、そういうちょっとしたことでも賭けになるんだね」
親友は指先でペンを弄びながら「あたし達もやってみる?」と提案する。
あんな賭け、特にやっていて楽しいものでもなかったのだが……とりあえず、彼女は勉強を中断する理由が欲しかったようだ。
「じゃ、一回だけね」
直後、茉莉は楽しそうにきょろきょろと周囲を見渡し――、
「あっ! 次、図書室に入って来るのが男か女かで賭けよっか! ほら、ちなが先に選んでいいよ」
――言うなりじっと出入口へ熱視線を送った。
…………もしかして、この後、誰も図書室へ入って来なかったら彼女はずっと狛犬よろしく静止したままなんだろうか?
「はぁ……」
思わず深い溜息が漏れる。
私は賭けが成立することを願って「女」と答えた。
次に図書室の扉が開いたのは十分ほど経った頃だ。
「――そう言えば、まだ学校の図書室って入ったことなかったかも」
「あっそ。それより、最近は人が多いから絶対静かにしててよね?」
入って来たのは二人組の女生徒――それも見覚えがある。
記憶の引き出しを開けて回ると『文化祭』にそれらしい思い出が入っていた。
(……あっ、そうか。文化祭の
秋に懐いていた、対照的な
和カフェでもよく秋の近くをウロウロしていたから、てっきり今も一緒にいるのではないかと思ったのだけれど……今日は二人だけのようだ。
少し残念に思いながら茉莉へと向き直る。
すると、親友は「あー、負けたかぁ」なんて能天気に返した後――、
「それで! 次は何で勝負しよっか?」
――と頬を緩めた。
彼女の笑顔からは、もはや試験勉強に対するやる気が感じられない。
「…………そう言えば、何を賭けるか決めてなかったよね?」
私がとびきり低い声を出した途端、茉莉の表情が引きつっていく。
「な、何か賭けるの……?」
恐る恐る訊ねる親友へ――、
「ん……私が勝ったら、茉莉は三十分間無言で勉強してね?」
――努めて優しい口調で告げた。
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