【ごほうびオータム☆クレープチック】

第295話 10月13日(今度は、絶対に勝つ……)

 今は試験期間中で、自分が受験生だということも重々承知しているけれど……だんだん勉強が嫌になってきた。


「……疲れた」


 シャープペンシルを手放して机の上に転がす。


「……はぁ」


 冷めた珈琲を啜りながら、いい気分転換はないだろうかと考えた。

 そして、本棚に置いてある本……それも重たいモノではなく、軽く読める漫画でも読もうかと思ったのだが――、


「……案外、字が多いなコレ」


 ――手に取った漫画を開いて見たら、細かい活字セリフがびっしりと並んでいたので断念する。


 好きな映画でも観れば気分転換になるかもしれないが見始めると長い。

 逆に、ネットで短い動画をいくつか探して見ようかと思ったのだが……いつの間にか時間がとけてしまいそうなのでやめた。


 そうして考えている内に『どうしてこんなことで悩まなければいけないのか』と塵のような苛立ちが積もり始める。

 その結果――、


「良い気分転換?」


 ――私は彼へ相談丸投げすることにした。

 いや……もしかしたら、ただ彼にちょっかいを出したくなっただけなのかもしれない。


「…………」


 「つまり、試験勉強にやる気を出したいんだな?」と言って考え出す彼から目線を逸らす。

 敷いてある絨毯の模様をぼんやり見つめていると――、


「ちょっとした賭けでもするか?」


 ――あまり予想していなかった方向からアイディアが飛んできた。


「……賭けですか? ポーカーでもするの?」

「いや? うちにはトランプなんてないしな」


 眉を顰めて返した途端、彼は「別に、賭けなんてものは何でもできるんだよ」と笑う。

 その後、彼は本棚からてきとうに本を一冊抜き取った。


「何でもいいからページ数を言ってみて」

「……じゃあ、98ページ」

「よし。それじゃあ98ページの始まりが漢字かで賭けよう」


 次の瞬間、『ああ、なるほど』と頷く。

 背表紙から本が小説であることを確認した後、私は「漢字」と答えた。

 けれど、


「残念」


 ハズレを引いたらしい。

 彼が小説の98ページを開くと、そこはまるまる挿絵になっていた。


「……次は?」


 そこはかとない悔しさを感じながら、次の勝負を急かす。

 すると、彼は楽しそうに賭けの内容を告げたのだが――、


「なら……次の中間試験でちなが全教科平均で85点以上を取れるか否かなんてどうだ? で、負けた方が商店街のクレープ屋で奢る。俺は85点以下に賭けるけど、どうする?」


 ――こんなものになる筈がない。


「……のった」


 自信満々に答え、私は試験勉強へと戻った。

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