【『好き』が『好き』であるための夏】
第245話 8月24日(……それは、すごいね。うん)
ガラス容器へ盛られたかき氷にシロップをかけていく。
甘い香りが辺りに漂う中、ちらりと外の景色へ目を遣った。
天気は水を撒いた端から蒸発していきそうなカンカン照り。
雲一つない青空は天然の紫外線投射装置と化している。
つけっぱなしのテレビからはどこぞで39度を超える猛暑日が記録されたというニュースが聞こえてくる始末……どおりでコンクリート塀が石焼プレートみたいに見える訳だ。
こんな時は冷房が効いた屋内で、冷たいものでも食べていたい。
隣に座る茉莉も似たような考えなのか……かき氷を口へ運ぶたびに幸せそうな表情を見せた。
しかし――、
「今から
――平穏は突如として崩れたのである。
◆
元気よく胸を張る陽菜ちゃんは、斜め掛けにした水筒と大きな麦わら帽がよく似合っていた。
虫取り網片手に鼻歌を歌う姿など、見ていてなんとも微笑ましい。
ただ――
「陽菜ぁ……夏休みの自由研究はビーズ作りにするんじゃなかったのぉ?」
ナメクジみたいにのそのそ歩きながら、茉莉が悲鳴をあげる。
すると、きびきび歩を進めていた陽菜ちゃんはぴたりっと立ち止まるなり姉に振り返った。
「だって、ビーズだとクラスのみんなと被っちゃうんだもん」
陽菜ちゃん曰く『ビーズで何かを作り、その作り方を説明する』という自由研究が今、彼女のクラスではトレンドらしい。
まあ、今年の春にクラスでビーズが流行っていたし……頷ける状況ではある。
「……皆と同じだと嫌なの?」
「嫌って訳じゃないけどぉ……だって、自由研究って研究なんでしょ?」
首を傾げて問う陽菜ちゃんへ、こくりと頷く。
「でしょっ! だったら、せっかくだし皆の知らないことを研究して、わっ! って、驚かせたいのっ!」
歯を見せて笑う姿に、思わず感心してしまった。
そして、それは茉莉も同じらしい。
「陽菜……」
溶けたアイスクリームみたいな顔をしていた茉莉の表情が急にきりっとする。
「わかった! そういうことならお姉ちゃんもめっちゃ手伝う!」
しかし「ところで、陽菜ちゃんは何の研究をする気なの?」と訊ねた直後――、
「えっとね、蝉を捕まえて解剖して『人間の体』みたいな図鑑を作りたいの!」
――天真爛漫な声が聞こえてきたかと思えば、隣から親友の絶叫があがった。
ちなみに、陽菜ちゃんが行った自由研究は学年の優秀展示物に選ばれたそうだ。
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