第212話 7月22日(……いくらくらい掛かるんだろう?)
お泊り会の帰り際、茉莉が「いい? 今日中に訊いておいてよ?」と釘を刺してくる。
わざわざ念を押さなくても、元々夏休みに入ってすぐ彼へ頼むつもりだった。
「わかってる。茉莉が帰ったらすぐ頼みに行くから」
「絶対?」
肩掛けにした鞄を背負い直しながら、彼女は疑わし気な瞳で見つめてくる。
こちらから溜息をひとつ挿み「心配性……」と呟けば、冗談ぽい笑い声が返って来た。
「だったら、あんまり心配かけないでよね」
その後、彼女は「じゃね」と口にして玄関を出て行く。
しかし、扉が閉まる寸前に隙間から顔を覗かせると、
「当日、お兄さんしか車出せそうな人いないんだから、本当に頼んだよ?」
「そもそも、行き先が近場のプールとかだったら車いらないんじゃない?」
「それじゃ味気ないでしょ?」
最後は手を振りつつ帰っていった。
◆
冷蔵庫からアイスを二本取り出して、彼の家へ向かう。
そして、インターホンを押し、出てきた彼へアイスを差し出すなり「お願いがあるんだけど……いい?」なんて話しながら家の中に上がり込んだ。
「
物を咥えて話す彼に「
直後、こくんと彼の喉が音を立てた。
「んー……そうだなぁ。月末ならなんとか予定は空けられるし、車も出せると思う」
「本当?」
「ああ。ただ、海って何人で行くんだ?」
「それは、私と茉莉、茉莉の妹と彩弓さん……後、友達と友達の妹」
質問する彼から視線を逸らしつつ、指折り数えて答える。
すると、彼の口から「ん?」と声が漏れた。
「となると、俺を入れて全員で七人か……」
「いけない?」
「いや、いけなくはない。ただ、それだとうちにある車はちょっと狭いぞ。行くならレンタカーでも借りないときついな。色々荷物も持って行くことになるだろうし……」
天井と見つめ合う姿は、レンタカーの費用を試算しているようで、
「……お金、掛かる?」
溶けたアイスが指に垂れていくのも気にせず、私はそんなことを訊ねていた。
「そりゃ、多少はな?」
「だったら、いい。茉莉にはやっぱり近場のプールに行こうって話す」
レンタカーを使うなんて当初の予定にはない。
茉莉や彩弓さんもきっと納得してくれるはずだと、思った矢先、
「……でも、行きたいんだろ?」
「別に私は――」
「車のレンタル料くらい安いもんだ。だから、遠慮なんかするなよ。俺は行きたいぞ、海」
強引に決められてしまった。
「任せろ。海くらい、いくらでも連れてってやる」
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