第211話 7月21日(あ、あとで言うし……)

 『今日、ランニング休みます』

 夕飯を食べる前、彼へ送っておいたメッセージに返信があった。


 『了解』

 『大丈夫か? どこか調子でも悪い?』


 休みたい理由は体調不良ではないけれど、心配する彼の顔が浮かんだ途端に説明する気を失ってしまう。

 だから、長々と文章を打ち込む代わりにスマホのカメラを起動した。


「何かポーズ取ってください」


 寝間着姿の彩弓さんと茉莉へカメラを向けるなり、二人は、


「なに? どうしたの?」

「こんな感じでいい?」


 と首を傾げたり、目元でピースサインを作ったりする。

 その後、私の部屋へ敷いた布団が映り込むようにシャッターを切ってから「コレ写真、彼に送ってもいいですか?」と訊ねた。

 直後、


「だめだよっ」


 吠える茉莉にスマホを取り上げられてしまう。


「今、何しようとしてたのか、正直に言ってみな」

「いや、二人が泊まりに来てるパジャマパーティすることを説明するのがめんどくさくて、写真で済まそうと」


 文章ではなく、写真一枚の情報量を選んだ結果、親友からNGが出てしまった。


「まったく。だったら、自分の写真撮って送りなさいよ」

「私一人の写真だったらお泊りってわからない」

「こいつ、反省してないな? 彩弓さんもなんか言ってやってください。元カレに写真送られるなんて嫌でしょ?」

「んー。別に、私は気にしないよー?」


 彩弓さんが間延びした声で答えた瞬間、茉莉は信じられないという顔になる。


「相変わらず距離感どうなってんですか……」

「そう? 別れた後も仲が良いってわりと理想じゃない?」


 笑顔を浮かべる彩弓さんに嘘や強がりを言っている雰囲気はない。

 茉莉もそれがわかったのか「もういいです」と呆れながら、彩弓さんへ私のスマホ向けた。


「だったら、ちなと写真に撮られてください。あたしが撮るんで。ちなも、それでいいでしょ?」


 頷いて返すなり、彩弓さんが隣へ並ぶ。

 狭いベッドの上で肩を寄せ合っているとシャッターが切られた。


「これでいい?」

「ん。ありがと」

「お礼なら、あたしじゃなくて彩弓さん」

「私? 私ならこれくらい全然いいよ?」

「わかってるよ」


 彩弓さんに抱き着かれる中、彼へ写真を送信すると、茉莉の溜息が聞こえてくる。


「前もって言っておけば良かったのに」

「お泊り会のこと?」

「他にないでしょ?」


 茉莉が眉をひそめた後で「まさか」と声に怒気を滲ませたから――、


「皆で海に行く時、車出してほしいってお願い、まだしてないなんてことないよね?」


 ――『していない』なんて言えなかった。

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