第180話 6月20日(えっ……全く気付かなかった。いつだろ?)
彼に淹れてもらった珈琲を飲みながら、彩弓さんの口から「ほぅ……」っと溜息が漏れる。
しかし――、
「……たまにはさ、本格的な珈琲が飲みたくなるよね。インスタントじゃない豆から淹れたようなヤツ」
――休日に私を誘って彼の家へ来たかと思えば……彼女はわざわざ文句を言いに来たんだろうか?
「そんなに言うなら純喫茶にでも行けばいいじゃないですか」
私が
「ひょっとして、ちーちゃん知らない?」
「……何をですか?」
「彼がアレ持ってるの。ほら、アレ……あの、珈琲豆をガリガリするヤツ」
「……ひょっとして、コーヒーミルのことですか?」
「私……彼がコーヒーミルを持ってるなんて知りませんでした」
「へー……意外。学生時代はね、結構ゼミ室で淹れてくれたんだよ。教授がサイホン? 持っててさ、彼に淹れ方とかも教えてたの。卒業する時にもらってた筈だから、今も家のどっかにあると思うんだけどなぁ」
「うーん……」と唸りつつ、彩弓さんはカップへ口をつける。
私も静かに
◆
「そう言えば……彩弓さんから聞いたんですけど、サイフォンとかコーヒーミルを持ってるって本当ですか?」
ランニング中、他に話題もなかったので彩弓さんから聞いた話を振ってみた。
すると、
「確かに……持ってるけど」
何故か、彼の表情が苦くなる。
この瞬間、
「なんで秘密にしてたんですか?」
「いや、秘密にしてた訳じゃ……それに、訊かれなかったし?」
「まあ、それはそうですけど……」
しれっと言う彼は暗い足元ばかり見つめて、こっちを見ようともしない。
だからだろうか?。
「家でサイフォンとか使ってる所を見たことなかったので……」
つい、そんな言葉が漏れた。
直後、これでは暗に『私は淹れてもらったことがないですよ』と言ったようなものでは? と恥ずかしくなってしまう。
だが、
「ん? けど、ちなも一回だけサイフォンで淹れた珈琲飲んだことあるぞ?」
と彼が言い、
「は?」
「インスタントコーヒー飲んだ時と反応が変わらなかったから、それ以降使ってないけどな。手入れも大変だし」
なんて答えが返って来た瞬間……目を合わせられない理由は変わってしまった。
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