第181話 6月21日(……そんな訳ない、でしょ? たぶん)
朝食後、洗面所に向かい念入りに歯磨きをした。
口をゆすいだのも一回や二回ではない。
そして、いつも飲んでいる
うん……いつのも味だ。
値段相応の安価な苦味――温かいから美味しいと感じていられるタイプの典型的なインスタント……。
私は、本当にこれとサイフォンで淹れた珈琲を飲んで違いがわからなかったんだろうか?
「……?」
怪訝な表情のまま、湯気を立てるカップと睨み合う。
すると、母から「そんなにおいしくなかったの?」と訊かれた。
「……別に? 普通だけど」
「じゃあ、なんでそんな変な顔してるのよ?」
母は不思議そうに「ちょっと貸して」とカップへ手を伸ばす。
その後、断りもせずにコーヒーへと口をつけた。
「いつものコーヒーじゃない」
「……そんなことわかってる」
カップを取り返し、もう一口含む。
「……ねぇ? インスタントとお店で飲む珈琲の味って違いわかるよね?」
もし、母にわからなければ私の舌が不出来なのは遺伝と思おう。
なんて、冗談半分で訊いてみたのだが――、
「急になに? 母さんはわかるわよ? インスタントとお店のなんて、砂糖とアメくらい別物じゃない」
――……自分の
◆
通学路にも純喫茶はある。
放課後、私は駅前に見つけた喫茶店へ入り珈琲を注文していた。
「流石にわかるでしょ、インスタントとお店の違いくらい」
「私もそう思うんだけど……」
茉莉が抹茶ラテを飲む中、無糖の珈琲と見つめ合う。
「じゃ、いただきます」
「んー……どうぞぉー」
ひとつ溜息を挿み……ゆっくりとカップを傾けた。
次の瞬間――、
「…………?」
――思わず首を捻る。
「どう? 違いわかる?」
さほど興味がなさそうに訊ねた茉莉へ、こくりと頷いた。
「普通においしい……流石にこれとインスタントを間違えない」
頭上にひたすら疑問符が浮かぶ。
直後、茉莉は呆れたように「ひょっとして、お兄さんの淹れた珈琲が微妙過ぎたんじゃない?」と返してきた。
「それは、ないと思う……」
だって、彼は学生時代にゼミでよく珈琲を振る舞っていたのだ。
なら、微妙ということはないだろう。
でも、否定はしきれない。
「んー……」と唸っていると、
「じゃあ、逆なんじゃない?」
なんて茉莉が突拍子もないことを言った。
「逆?」
「つまり、ちなはお兄さんが淹れてくれた珈琲ならなんだっておいしかったんでしょ?」
この妄言が耳に入った瞬間、強い言葉で否定したのは言うまでもない。
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