第169話 6月9日【あの手この手で気を引くパントマイム】/<受信!わたしは理解した!>
九条茉莉を一言で表すなら……器用貧乏という言葉が似合うだろう。
特出した特技がない代わり、彼女は大抵のことで努力相応に結果を出してきた。
しかし、だからこそ憧れを抱くことがある。
一途に剣の道を歩んでいた智奈美は言うまでもなく――嫌っている素振りを見せる楠にさえ、茉莉は焦がれることがあった。
彼女は自分と正反対の、一途で不器用な人を好むのだ。
ならばこそ、
「九条さん、お昼一緒に食べてもいいかな?」
彼女が小塚裕を嫌うのは……嫌いというよりも、好みとあまりにかけ離れているせいだった。
「……隣で食べるのは構わないから、一切話しかけないで」
顔をしかめながら言われたにも関わらず、小塚は笑って「よしっ」とガッツポーズで応じる。
茉莉は理解できないとそっぽを向き、サンドイッチへ齧りついた。
すると、
「ホント、向坂と楠……上手くいってるみたいで良かった」
「…………」
小塚が一人、虚空に向かって話し始める。
「向坂のことはよく知らないけど、楠は自分に変な縛りをつけたりするもんな。卒業するまで告白しないとか言って一生片想いのままで終わるんじゃないかって、ハラハラしたなぁ……」
その口調はどこか独り言めいていたが、明らかに茉莉を意識していて……しかも、内容が内容なだけに、彼女も反応せずにはいられなかった。
「……話しかけないでって言わなかったっけ?」
「言ってた。だから、一応全部独り言のつもり」
小塚が『言われたことは守ってる』なんて思っていないのは茉莉にもわかる。
楽しそうに確信犯めいて話す小塚へ彼女は溜息をこぼした。
「……今から、独り言禁止って言ったらきいてくれる?」
◆
(あれ? 九条先輩だ……)
五限の授業が始まる前、廊下で男子と並んで歩く九条先輩を見かけた。
ちーちゃん先輩が楠先輩と二人でお昼を食べているのは知っていたけど……九条先輩も彼氏と食べていたらしい。
ん? でも、確かちーちゃん先輩は、前に自分の周りには彼氏持ちがいないって話してなかっただろうか?
……それにしても、
「なんで
おそらく九条先輩に何かを伝えようとしているのだろうけど……わたしには全く見当がつかない。
けれど、
「わかった。わかったから、もう話していいからその気持ち悪い動きはやめて……」
九条先輩の一言で、アレが彼氏ではないということはしっかりと伝わった。
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